4 初めての仲間

「それで瞬は運転できるのか?」

「ああできるよ。車はあるのか?」

「親父の車がある」


視線を追うと車庫があったのでその中にあるのだろう。


「親父さんは?」

「仕事から帰ってない」

「待っていなくて大丈夫なのか?」

「両親ともジャーナリストだからな。こんなスクープないだろうから、今頃あっちこっち飛び回ってるだろ」

「そ、そうか。鍵は?」


悠木が鍵を投げてくる。


「ほらよ。準備するまでちょっと待ってろ」

「OK」


鍵を受け取り車庫に向かう。

手動式のシャッターを開けるとそこにあったのは、サンルーフが付いたアルファードのハイブリッドだった。

運転してみると音が静かなのでゾンビにも気付かれにくそうだ。

それを家の前に止め、バックドアを開けて待つこと数十分。

家の扉から出て来た悠木が持ってきたのは大量のダンボール箱。


「何が入ってるんだ?」

「パソコンにドローン、ボウガンと矢が多数、無線機とあとは缶詰等の日持ちする食料かな」

「ドローン?」

「何かと役に立つと思ってな」


ドローンか。確かに辺りの様子を見るのには役に立ちそうだな。

それからダンボール箱を運び終え、最後に持って来たのがガソリン式の発電機だった。


「パソコンを使うには電源がいるだろ?」


満面の笑みで言ってくる悠木。

もう突っ込むのも面倒なので車のトランクへ運び込む。

積み込みが終わり俺は運転席に乗り込む。

悠木はトランクで何やらガチャガチャやってるようだ。

俺はため息を吐きながら車を走り出させる。

向かうは南へ1km程行った所にある大学だ。

そこで

仲間を集める予定だが今度はまともな人間であってほしい。


トランクでガチャガチャやっていた悠木が助手席にやってきたので情報を仕入れる事にする。

これまでメディアやSNSを見ていなかったので、ここ以外の情勢がわかっていないのだ。

引きこもりしていた悠木は、ネットで情報を集めていたらしく色々と教えてくれた。


事の始まりは20ΧΧ年4月1日。

一本の動画がネットにアップされた。

それは海外のアカウントより配信され、瞬く間に世界に広がった。

そこに映っていたのは、人間が人間を襲いクチャクチャと腹の辺りを咀嚼している動画だった。

悠木も最初はエイプリルフールな事もあり信じていなかったそうだ。

しかし翌日も次々に色々な国で同様の動画がアップされ真実味を帯びていった。

そして4月3日。

異変は日本でも、いや北海道でも起きた。

ネットの情報によると、新千歳空港に着陸した海外の便からの乗客が、空港のロビーで苦しみ出し息を引き取った。

しかし次の瞬間、死体だと思われたものは起き上がり、心配して近くにいた空港職員に噛み付いた。

そこからは正に阿鼻叫喚。

逃げ惑う人々に次々に襲いかかっては仲間を増やし、増殖していく奴らに平和ボケした日本人は対処できなかった。

電車やバスで逃げ出せた人もいたが、乗客に既に噛まれた人が紛れ込んでいたため、すぐに車内は大混乱に陥り奴らの餌食に。

交通網が発達した現代に食い止める術はなく、とうとう奴らは札幌に到達した。

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