死神の正体 その2

 それはくすんだ銀色のジッポーだった。


 俺は煙草はわないが、ライターだけは持っている。


『どこでどんな災難に出会うか分からんから、常に準備だけはしておけ』


 そういう先輩の忠告を聞いていたことが、こんな時に役に立つとは思わなかった。


 俺は後手にライターを掴むと、手探りでふたを開けると、何度も火を点けようとトライした。


 ボッ、


 音がした。

(え?ジッポーはそんな音しないって?いや、したんだよ。俺はウソは言わない)

 

 俺は手首を動かして、ロープを焼き切ろうと懸命になった。


 幸い、ロープはそんなに丈夫なものではなく、荒縄に毛が生えたようなものでしかなかったから、多少時間はかかっても焼き切るのは造作もないことだった。


 手が自由になれば、足の方はどうとでもなる。


 不思議と、全身の痛みはどこかにすっ飛んでいた。


 俺は足をゆわえたロープも解き、机の上から拳銃、警棒、そしてバッジを取ると手早く身に着けた。

 俺はズボンをまくり上げ、左右のふくらはぎのガムテープを引っぺがした。

 ハーフムーン・クリップに付けた合計六発の弾丸タマ弾倉レンコンに詰める。



(真っ暗な中でよくまあこれだけの作業が出来たな)


 見損なっちゃ困る。


 これでも自衛隊だぜ。


 まあ、今は自慢話をしてる時じゃない。


 俺はゆっくり立ちあがると、扉に近づき、ノブを回してみた。


 どうやら錠は外側からしっかり掛けられているようである。


 俺は拳銃を構え、暗闇の中でじっと待った。


 どのくらい経ったろう?

 

 壁の外に足音が聞こえた。


 鍵を開ける。ドアが内側に向けて開いた。


『動くな。弾丸タマは入ってるぜ。身体検査を怠ったのが間違いの元だったな』


 声を殺し、先頭に入って来た男・・・・『公安』の後頭部に銃口を突き付けて言った。


『探偵を始めて以来、俺はまだ一度も射殺をしたことがない。だが、今日は違う。

 もうかれこれ5日間は酒を呑んでないんだ。酒が切れた俺を放置しておくとどんな目に遭うか、今見せてやろうか?』


後から入ってきたのは、


『教授』だけだった。


『死神』と『隆子』の姿は見えない。


 と、いきなり、

 

『公安』が、俺の手首を掴んだ。


 揉み合いになる。


 だがこんな奴に負けるほどやわじゃない。


 俺は掴まれた手首を振りほどくと、


 大内刈りで『公安』を倒した。


 奴は、


『ちきしょう!』と声を上げ、懐から自動拳銃・・・・ブローニング・ハイパワーを抜いた。


 だが、奴が撃つより早く、俺のM1917が火を噴き、肩と腰を打ち抜いた。


『公安』はのけぞって後ろ向きに倒れた。


『・・・・!』


 続けて『教授』が、同じくブローニングを抜いたが、何故か一発目が発射されない。


 俺は構わず、四連射した。


 奴も腰と肩を撃ち抜かれ、残りは後ろの壁に当たった。


 狭い部屋に音が反射する。


 俺はコートの背中側へ、別に貼り付けておいた予備の弾丸タマを取り出して、再び弾倉レンコンを満腹にしてやった。


『もっと拳銃をちゃんと手入れしとけよ。だからいざって時に動かない』


 俺は弾倉を抜き、下に落とした。どうやら作動不良を起こしたらしい。


 それにしてもツイてたな。

 

 相手がこんなまがい物の拳銃で。

 

 ざっとだが、二人の手当てをしてやった。


 救急措置の仕方なんて、嫌になるほど習ったからな。


『さあ、どっちでもいい。死神さんのところに案内して貰おうか?俺はケリはきちんとつける主義なんだ』






 


 


 





 

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