#これが読めるか勇者よ(これよめ/よめゆう)

うゆま@豆腐卿

#これが読めるか勇者よ -序-

かんたん登場人物紹介


「魔王」(歴代最弱)

「勇者」(無知無教養)

『王』(加害者&被害者)

《精霊獣》(もふもふ)

【拠点統率サーバント】(お世話係)

[その他有象無象](有象無象)


!注意!


若干、グロっぽいイメージがあるやもしれません

吐き気を催す悪やゲロ以下の表現もあります

苦手な方はここでページを閉じて下さいませ


OKな方のみ、お進みくださいませ[=ω=]





0


「魔王!お前を倒す!」


「その前に…これが読めるか、勇者よ」


「…?なんだ、それは!」


「え…?文字が分からないのか?」


「お前を倒すためにひたすら教えられたのは常に戦い方のみ!」


「…ちょっと待った。聞いておこうか。もしかして今までそういう教育、受けてない?冗談ではなく?」


1


「当たり前だ!そんな暇は無かった!世界の危機のために皆は俺に戦い方を…」


「え、まって、嘘でしょ?」


「嘘なものか!」


「まさかと思うけど、計算は出来る…?」


「わからん!」


「お金の使い方は?」


「?たくさん払えば良いんだろう?相手は大喜びだった!流石、勇者様とな!」


「…!?」


2


「皆は困っていると聞いていたからな、お金とやらは皆にたくさん払ったぞ!」


「…ちなみに今の所持金は?」


「?荷物になるといけないからと、ここまで仲間になってくれていた奴等に渡しておいた!良い奴らだ!」


「嘘だろ…まじか」


「時間稼ぎか?魔王!倒す!」


「…ところで持ち物は…?」


3


「そんなものはない!」


「仮にも我、魔王だよ!?魔王に挑むのにさ、せめて回復手段とかあるでしょ!?」


「そんなもん、気合いでなんとかする!」


「それに何、その防具…伝説の装備とかあったでしょ!?」


「あれか?皆からたくさんのお金になるからというので譲った!喜んでいたぞ!」


「 」


4


「どうした!?魔王、俺に何を言っても通じないぞ!」


「ほんとごめん、通じる気がしない、主に教育されなさすぎて…。

 ところで聞いておくが、我を倒したあと、お前はどうするのだ?」*


「?いや、特に…わからん、考えたこともない!」


「ほんとかよ…どうすんだよ、仮にお前、平和になったら…」


5


「知らん!だが王様が何か決めてくれるはずだ!魔王を、お前を倒せば…」


「ねぇ、ごめん、聞いておきたい。我を倒したら何か貰えるとか聞いてる?」


「何故だ!勇者は見返りを求めないと言われたから、そんなものは聞いていない!」


「オーケーオーケー、ちょっとお時間頂戴、すぐに済ますから」


6


「命乞いか!」


「ん、それでいいや。では…」


『勇者に我を討伐せよと命じた王よ…勇者に何ゆえ教養や教育を施さなかった…?

 返答次第では真っ先にお主を死ぬまで体中に訳のわからぬほどの痒みと痺れ、

 加えて聞こえる音が轟音となり常に続く呪いを今からかける…!!!』*


「魔王、何を!」


「黙れ!勇者!」


7



「王に呪いなど卑怯な!」


「うるせぇちっと黙ってろ都合の良い犠牲者!」


「なっ…」


『…返答は無いか。ならば本気であることを見せよう』


『ぎゃあっ!?痒い!痺れる!音がうるさい!誰か!ぎゃあっ』


『王とやら、答えるか?』


『わ、分かった…返答する!だから呪いを解いてくれ…苦しい…』


8


『では聞かせてもらおうか』


『な、何の事か私にはサッパリ…』


『呪う』


『あ、ああーーー!?すいません、やめて!ひぃーーー!?』


『解呪。次は見えるもの全てが黒と白しか見えない呪いを追加だ』


『ひ、ひぃ…は、話します!話しますから!それだけは!』


9


「魔王!やめろ!」


「すまぬが取り込み中だ、我が精霊獣の相手をしてろ」


《ギャオ!》


「く、まだ怪物が!?」


『おっと、すまない。あまりに無知で空気を読むことも知らん馬鹿の邪魔が入った。

 ここまで無教養もひどいものだな、王!』


『そ、それは訳が…』


『納得出来なければ…分かるな?』


10


「くそ!怪物め!」


《ギャオ~》


『勇者を、早く一人前に、するには、無駄な事は…』


『…無駄、と来たか。教養が、教育が…続けろ』


『さ、最低限のことは教えた!』


『金の使い方は?価値の意味は?お前らの経済活動に必須だよなぁ?聞けば、我を倒した報奨も無いとか』


『いや、それがぁっ』


11


『おっとすまない、ちょいと苛っとしてなぁ…誤魔化すなよ、王。正直に言え、我は今、流石に気が短い』


『ひ、ひぃ…す、すいません、か、怪物には怪物を、と…皆で決めて…

 なるべく、操りやすいように、無知にして…私は、流石にどうかと思ったのだが…

 せ、世界の危機を優先せねばと…』*


『ほー…』


12


『そ、そもそも、魔王のお前が大人しくしてくれれば、あんな勇者を用意せずに…』


『あー、はいはい。ストップ。言ってなかったわー』


『は、はひ?』


『これ、勇者も聞いているからな?』


『は…?』


『まさか聞こえてないと?思ってた?』


13


『ひ、卑怯者!』


『ほー…お前に言われたくないわ!無知を利用するとかおかしいだろ!しかも勇者として送り出しておいて!

 裏じゃ怪物扱い!そんで!周りは無知を利用して!搾取しまくり!誰も心配してない!

 アホか!いくら魔王でも!流石に!ドン引き!簡単な読み書きとか!金の使い方くらい!教えろよ!』*


14


『ひっ…』


『あー、もう、我、失望だわー…で、勇者、どーするよ?』


「そ…ん…な…」


「…獣、下がれ」


《ギー》


「流石にね、何も学ばない奴で単なるバカなら我も何の呵責もなしにバトルしてたよ?

 でもなー…明らかに、学ぶ機会を最初から奪われたヤツとかさ…あんまりすぎるだろう…」


15


「お、俺は…!」


「…」


「俺は…」


「うん」


「…おれ…おれ…」


「うん」


「…くやしい…」


「知りたいんだろ?本当は。学びたかったんだろ?分からないの、嫌だったんだろ?」


「…ぐすっ…」


「…能力は本物。勇者として相応しいレベルだ。だか…知識や知恵、学が無ければ、利用される」


16


「っ…」*


「…ひとまず、我から提案がある」


「…おぅ」


「しばらく、勇者辞めろ」


「辞める…?」


「んで、しばらく学生に転職だ」


「がく、せい?」


「学ぶことが使命の職業だ。学べなかったぶん、今から色々と学び直すんだよォ!」


「だ、だが、そうしたら魔王がいるのに勇者がいなくなる…!」


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「そこな。我も、魔王やめてお前と同じ学生になる」


「…へ?」


「残念ながら我も、教養や知識はあるつもりだが、他人にものを教えるほど出来てはおらんのでな。

 そこで、我もお前と同じ学生となり、机を並べ、様々な奴らに学ぼうと言うわけだ。プロに学べ、だ」*


「お、お前も俺と学ぶのか…」


「おう、同級生だ、学友よ」*


18


「ど…うきゅう…せい…がくゆ…う?」


「ふ、魔王がいないなら勇者がいる必要はない。

 魔王でない我は勇者でないお前と戦う必要はない。

 なーに、お前か学びに満足して、勇者としてまた戦うつもりになったら、我も魔王に戻るさ」*


「わ…分かった。学生になる!」


「…いや、流石に素直すぎるというか、もう少し疑うとか…いや、これが無学か…」


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『あー、テステス、世界は一度滅べ、あー、聞こえるか、全世界の自称勇者ファンのクソども?我は、魔王なり!』


「魔王、何を」


「まぁ、聞いてろ。精霊獣も仲良く聞いてて」


《ぎゃおー》


『えー、今回はとんだ事実が判明し、思った以上に魔王というか我個人の思うところあり、勇者と魔王を…』


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「…?」*


『しばらくお休みします、期待していた全世界のクソども、勇者と魔王の決戦はしばらくありませーん!

 なんつーか、はっきりしないこの状況を気味悪がりつつモヤモヤ気持ち悪くお過ごしくださいー。

 あ、王は痒みの呪いだけかけておくからね!』


『ぎゃあっ!あー!かゆっ!たすけっ!ひぃー!』


21


「魔王…なんで、そこまでしてくれる…」


「んー、気分、かなぁ?我、気まぐれだし?

 とはいえ、いずれは決着をつける仲だ、学ぶ機会が転がり込んだ!

 しかも無料で!と、泣いて咽び喜び、我に盛大な感謝するがいいさ」*


22


「…あ…」


「ん?」


「言っている言葉が…よくわからない…」


「…そこからかー。ま、とりあえず世界には通知しておいたし、暫くは勇者だの魔王だのの案件は凍結。

 さ、まずは、その身なりをどーにかすっかなー。おんぼろすぎるだろ。傷のあとも酷いし、治療と清潔からかな」


「な、何をする!?」


23


「仮にも我、魔王だからな…。それはもう、くっそ残酷でひでぇ虐待すっから、覚悟せーよ?」


「ひ、な、何をする気だ!?その手に持ったそれは武器か!?や、やめろ、その液体は何だ!?」


「くーくっくっくー、まずはその汚いものをぜーんぶ剥いでやるわー!」


「や、やだぁー!?脱がせるな!?」


24


《ぎゃおー?》*


「…え、ちょっと待って。まじなの?なにこれ?ごめん、これはまじごめん。

 いや、これ、ほんと、うん、まじごめん…これで隠して」


「…うぅ…」


「どんだけ身だしなみとか教えられなかったのよ…

 流石に最低限の衣食住さえも保証されてなかったのかよ…精霊獣、我の代わりに洗って」


25


《ぎゃおーぎゃおー》


「や、やめっ、くすぐったい!そこは、そのだめっ!ひゃあぁっ!?」


《ぎゃおっ!》


「あ、あつっ!?水じゃないの!?熱いってばっ!煮えちゃうよ!」


《ぎゃふー》


「…あ、これくらいなら、ちょっと、大丈夫かな?」


《ふんふん~》


「傷、痛いから、そこは優しく…はぅぅぅっ!?」*


26


「…まじかー。ないわー。いくら短期集中で教育さえ省くとはいえよ?

 どんだけ、虐待されてきたん…あの傷…教育前に…きたれ、拠点統率サーバント」


【お呼びですか?掃討でしょうか?それとも殺さず生かさず捕獲、じっくり拷問?】


「すまんご、今回は一人のゆ…いや、ガキんちょの世話を頼みたい」


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【…は?】


「ちょっと我が直接世話すんの、しんどいというか、倫理に反するというか、すまん、我、今、超、動揺、なう」


【久しぶりにその姿を見ましたね。もしかして今回の勇者にやられましたか?】


「えー、勇者なのは確かだけど、今は学生に転職してる。我も学生に転職した」


【ご説明を…】



28



「かくかくまおまお」


【きょてきょてさばさば…と、普通に思念で纏めて頂ければよいのに】*


「…流石に、言葉にして吐き出しておかんと、我、魔王の力を暴走させかねん。話すって心のケアよな」


【先代様がいたら嘆かれますね】


「あー、嘆くね。同時に五回、殺されるね」


【まぁ、今や怨念のみの存在ですから大丈夫かと】


29


「流石に無差別破壊はヤバかったからな…魔王とはいえ、部下まで巻き込むとか、災厄として歴史に残る汚点だぞ」


【そのせいで、魔王に対する警戒度は上昇。あちら側も新たなる勇者の育成に躍起に…

 というか、私も虐待と言いたくなりますね。御守り係としては、こう、王とやらを我が身に包み込んで】


30


「あ、即死するからダメ。とりあえず地味な呪いはかけたから。

 というか、あなたに包まれたら金属の液体にじわりと潰されるの、怖い」


【相変わらずまだ怖がっておいでで?】


「幼い頃にやられかけたからな!おしおきと称して!冗談とはいえトラウマだわ!」


【今なら大丈夫でしょうに】


「むーりぃー」*


31


【しかし…無学無知、野の獣当然、戦闘能力だけはガン積み。魔王様には最悪の相性ですわね】


「ほんとそこ。まさかの一点を突かれるとは思わなかった。

 我、歴代魔王の中でもクッソザコな最弱魔王だからねぇ…。

 それを覆す為に我の得意分野で、軒並み襲ってくる勇者どもや仲間を瞬殺してきたからなぁ…」*


32



【しかし機転を利かせたのは流石は最弱、生き抜く知恵に長けて流石ですわ】


「うっわ、久々に嫌味を聞かされたわ…我、凹むわー」


《ぎゃおー》


「お、終わった?すまんな、押しつけてしまって」


《ぎゃおん》


【久しぶりですわね、精霊獣。人を洗うと言う、本来の役目から逸脱する役割お疲れ様】


33


「しょーがねーじゃん、殆どの手駒はあの勇者に瞬殺されてんだもん」


【いくらなんでも油断しすぎでは?得意分野を台無しにされたとはいえ、備えがあまりにもお粗末では?】


「はい、ぐうの音も出ません、我。反省。一から学び直すので許して」


【まさか学生と言う身分に落ちるとは…】


《ぎゃおー?》*


34


「ま、これで暫くは我の身の安全。策を練る時間も稼げるというもの」


【一見情けをかけたように見せて実は壮大な時間稼ぎ…と】


「おっと、半分正解だが半分は誤解だ。純粋に学ばせたい、というか共に学びたいと言う気持ちは本当だ」


【はぁ。とりあえず、私、お仕事に入りますわ】


「よろしく~」


35


《ぎゃおー》


「あ…」


【…魔王様の御命令であなたの身の回りを暫くお世話する、拠点統率サーバントで御座います。以後お見知りおきを】


「…え、えっと」


【御気になさらず。挨拶ですので…さて、早速申し訳ありませんが、その体の傷、調べさせて頂きます。御覚悟を】


「え」


【流胎捕獲】


36


「ひっ、いや」


【逃がしません。そして物理は無駄ですわよ?】


「あ、ぁ、がぼっ…たす…っ」


【…下手に暴れませぬよう

 …重い金属の流体に包まれている以上、無理に体を動かせば、骨は砕け、肉は潰れ、内蔵は破裂いたしましょう…】


《ぎゃっ!?ギャオッ!!》*


【落ち着きなさい、精霊獣。殺しはしません】


37


《ギャッ…ぎゃお…ぎゃー》*


「…ッ…ぁ…!」*


【ええ、殺しはしません、ええ。魔王様の御命令を遂行するまで。

 軽い麻痺状態にしてその後、睡眠状態に移行させます。暫くは我慢なされますよう】*


「…っ…」


【異常なほどの馬鹿力も、金属流体には無意味。私との相性は最悪ですわ、勇者様?】*


「ぁ…」


《ぎゃお…ぎゃぉー》


38


【…大小合わせての負傷箇所…全身約千箇所以上…一部手術痕…それを強制的に塞いだ痕…】


《ぎゃお…》


【…壊死箇所発見…通常なら死に至るほど危険状態…

 切除の後、流体金属で一時代用部位として融合施術…

 内蔵と血管の各部にも欠損、腐蝕あり、これも代用部位で補完…】


《ぎゃぉ…ぎゃおー》


39


【…驚きましたわね。よくこれで生きておりましたね…と言っても、意識は無いに等しく。

 痛覚を始めとした感覚系も既にボロボロ。これも戦闘能力の為の代償でしょう】


「おーう、どうだー?」


【代用部位が多すぎて、本来の体が殆ど残りませんわ。これ、このまま処分してあげたほうが良いのでは?】


40


「約束はしたから駄目だ。あいつ自身がおそらく初めて望んだ願いだろう。それは果たす」


【…律儀ですわね。次の勇者への備えをした方が百倍マシでは?】


「いや、普通に教育を受けたやつならどんな戦闘能力を持っても我にとっては敵ですら無い。

 それに、当分魔王は存在しない。勇者も同じくな」


41


【こんな勇者を仕立てる連中が律儀にそれを守るでしょうか?】


「は、守らざるを得まいよ。

 何せ、我は、安全な場所にいるはずの遠くはなれた王にさえ、あっさりとおしおき出来たのだ。

 他の連中からしたら、何をされるか想像力豊かに疑心暗鬼になって、行動も起こせんだろうよ」*


【痒みの呪いとか、最弱ですのに】


42


「全身の痒みがずっと続くんだぜ?狂うぞ、それだけで。

 あまりの痒さに掻き毟り、やがて血肉は自らずたずたにして、そのうち病に陥って死ねる。

 最弱にして最悪の呪いさ」


【私、痒みとか理解できませぬ故】


「ですよねー。だったら今頃、立場逆転してたよねー。相性悪い、ほんと」


【ええ、本当に】


43


「…で、お喋りの間、中はどうなってる?」


【これ、かなり厳しいですわよ?代用で一時的には生き長らえますが、根本的に、相当、ヤバイですわよ?】


《ぎゃおー…》


「…学ぶ時間が確保できりゃいい。可能な範囲で。頼むわ」


【…承知致しました。そこまで仰るのであれば】


「すまないな、うん」


44


【…ところで、本当に最初は気付かれませんでしたか?】


「あー、うん、まさか、ね。身なりも酷かったし、くっそ汚れてたし」


【全く、初めて見たわけでも無いでしょうに】


「ばっか、そういうデリカシー無い事言うなよ、我、そっちはピュアなんだぜ?」


【はぁ、魔王とあろうものが、嘆かわしい】


45


「…だってよ、同性だと思ったら異性だったんだぜ?我、流石にびっくり…」


【相変わらず初心で御座いますわね】


「しゃーねーだろ、我、魔王になる為に殆どの時間を学びに費やしてきたんだからな!

 状況も味方したとはいえ、先代との能力的相性もあって、魔王の座を奪えたんだからな!奇跡だよ!」


46


【…全く、予想を覆してまさかの圧勝とか。後にも先にも、最弱で魔王になれたの、あなただけでしょうね】


「未来は確定しておらんから、分からんよ。下手すりゃ、魔王も勇者も不要な世界になるかもしれんさ」


【そうなれば、私も職を失う事は確実ですが】


「大地の支配者たる女王様に戻れるでしょ」


47


【退屈すぎますわ】


「退屈してたから魔王の世話係してたの!?」


【あまりにも永く存在しておりますもので】


「はー、スケール違うわー。世界創世関係者って噂はマジだわー」


【その点については記憶は御座いませんがね。存在としては別の形でしたから】


「それが今や魔王のお世話人どころか勇者の治療係、てな」*


48


【その点につきましては、特別報酬を要求させて頂きますわ】


「うそーん。我、今年、苦しいのだけど。今回だけでも大赤字ぃ」


【知りません。それに、用心深いあなたは、どうせ隠しておられるでしょう?】


「なんで分かるの」


【カマかけてみただけですが、あるようで安心しましたわ】


「やっべ」


49


【…安定しました。暫くは深い休眠状態で代用部分が完全に癒着するよう務めます】


「うし、当面は安心かな」


【残酷なお方ですわね、魔王様は】


「…我、確かに残酷よな」


《ぎゅー?》


「大丈夫だ、精霊獣。これも業よな、魔王とてどうにもならん事は、本当に多いよな」


《ぎゅっぎゅっ》


50


(ここは…どこだ…?)


(くらい…せまい…でも…いままでの…ばしょ…よりは…あんしんする)


(なんか…すごくいたいの…ないな…つめたくないし…つつまれてる…)


(なんで…こんなところに…いるのかな…)


(そういえば…おれは…なにをしていたんだっけ…)


(ねむい…ぼうっとする…)


51


(なんで…どうして…おれは…)


(わからない…ことば…わからない…)


(もじなんて…わからない…)


(まわりのひとがいっていることば…わからない…)


(でも…よろこぶから…まちがってないんだ…そうだと…おもって…)


(なんで…あの…あいつは…)


(あんなにおこっていたんだろう…)



52


(おれは…うちのみんなが…こまってるから…)


(みんなのごはんがないから…みんながよろこぶから…)


(おれは…うちからべつのうちに…そして…)


(そうだ…なんだったかな…よろこんでもらえたんだ…)


(そうして…たたかいかたを…おしえてもらったんだ…)


(とても…いたかったけど…)


53


(とてもすごいところに…つれていかれたんだっけ)


(そして…いちばんえらい…おうさまに…あったんだっけ)


(すごく…よろこばれた…おまえはゆうしゃだと)


(まわりのえらいひとも…すごくよろこんでいて…)


(おれも…よろこんだ…おれも…だれかをよろこぶことが…できる)


(そう…)


54


(そこから…すごくいたい…まいにちだった…)


(ぶきをおとせば…たたかれた…だからおとさないように…がんばった)


(いたがると…おこられた…だから…へいきだとさけんで…よろこばれた)


(からだにいろいろとされた…つよくなるためだからと…すごくいたかった)


(なくとおこられた…)


55


(いたいのぜんぶ…すごくがまんした…みんなよろこんだ…だからずっとがまんした…)*


(いつからかがまんすれば…だいじょうぶになってた…)


(ゆうしゃだから…つよくなったのだと…すごくよろこばれた…)


(おれはつよいゆうしゃ…おれはまおうをたおす…みんなよろこぶ…)


(たおしたら…たおしたら…?)


56


(たおしたら…よろこぶよね…?)


(たおしたあとは…どうなるの…?)


(おれはどうなる…?)


(なにわからないおれは…どうなるの…?)


(みんなよろこんでくれるよね?)


(おれが…まおうを…たおすんだ…たおせば…もう…いたいの…)


(つよくなるためになんどもなんどもいたくされるの…がまんしなくて…いいのかな?)*


(わからない)


57


(ごはんもがまんしなくていいんだよね)


(ほかのことおなじようにあそんでいいんだよね)


(まおうをたおせばいいんだよね)


(みんながよろこんでくれればいいんだよね)


(ほんとう?)


(ほんとうかな?)


(わからない)


(からだがいたいよ)


(もうわたしのからだをいじらないで)*


(つらいよ)


(でもゆうしゃだから…)


58


(まおう、おまえを、たおす)


(まおう、おまえを、たおす)


(まおう、おまえを、たおす)


(こういえと…いわれた)


(いみが、よくわからないけど…)


(こういえば…ゆうしゃだって…)


(どんないみなんだろう)


(ゆうしゃがいうことばだからきっと)


(きっとよろこぶことばなんだ)


59


(まおう…というのも…よくわからない)


(みんなをこまらせる…わるいやつだって)


(わるいってなんだろう)


(みんなよろこばないってことなのかな?)


(ゆうしゃがまおうをたおせば、みんなみんなよろこんでくれるんだよね)


(わたしも…よろこんでいいのかな?)


(…わからない…)


60


(ほんとうにわからない)


(ああ、そうだ、おかねとかつかいかたわからない)


(みんなほしいというからわたした)


(たりないからくれというからわたした)


(こまっているからくれといわれてあげた)


(みんなよろこんでいた、とてもよろこんでいた)


(おかねにそんなちからがあるんだ)


(わたしよりすごい)*


61


(なのにおれのからだは)


(おれのからだのきずをみると…みんなよろこばない)


(たまにおさえこんだりさわろうとして…そしてすごくおびえて…)*


(おれはゆうしゃだから…つよすぎるから…みんなおびえてしまうのかな)


(でもおかねをあげると…みんなよろこんで…いっしょにいてくれた…)


(みんな…)


62


(あれ…みんな…どこに…いったの…?)


(おれは…ゆうしゃなのに…みんな…いないの?)


(ねぇ…だれか…わからないよ…おれは…よろこんでほしい…だけ)


(わからないよ…だれか…おしえて…)


(おれは…なんで…いたいのがまんして…)


(なんていえばいいの…?)


(わからない…!)


63


「ちゅんちゅーん!そとはあけぼの!ぐっもにーんぐ、勇者ー?」*


「…朝…?」


【おはようございます。延命処理施術、完了で御座います。

 衣服は私の一部を変化させたものですが、サービスとしておきましょう】


「おー。すっかり綺麗になって、良かった良かった。サーバントさんのそっちの趣味は良いからな。

 馬子にもなんとやら、似合う似合う」*


「すごい…こんな服、俺は、着たことない」*


64


《ぎゃおー!》


「ひぁ!?わ、くすぐったい!ってば!…あれ、痛くない…」


【傷はほぼ完治しております】


「…ほんとだ…俺の…体に傷が無い」


【ただ、申し訳ありませんが、顔の深い傷は消すことは出来ませんでした。ご了承を】


「よ、よく分からない…けど、俺は、別に困らないから」


65


「…普通は困るんだがな」


「そいうもの、なのか?」


「そうだ。顔に傷なんて、な。ま、戦う以上は、怪我を負うのは仕方ない事だ。

 傷なんていくらでも出来る。傷も負わず戦うなど、実際はありえぬよ、余程の例外を除き。ただなぁ…」*


「…よく、分からない、俺には」*


《ぎゃぉ!》


「わ、はは、なんだよ、くすぐったいって…」*


《ぎゃおぎゃおー》*


「あはは、くすぐったいってー!」*


「…ま、飯にすっか」


66


【とりあえず消化に良いものから。胃腸が万全では無いですので】*


「これ…食っていいのか?」


【ご遠慮なく。毒は入っておりません、心配無用です】*


「どく…毒?…わるいもの…だっけ?」*


「あー、体に入ると調子悪くなったり最悪死んでしまう可能性がある、危ないものだ」


「…そういう、悪いものなのか」


「ま、気にするな。冷めないうちに」


67


「はふっ…!むぐ…むぐ…ん!な、なぁ!これ、本当に食い物なのか!?」*


【ええ、かなり煮込みましたので固形物は殆ど御座いませんが…お口に合いませんか?】*


「いや、なんというか…変な感じ…と言えばいいのか…悪くは無い…というか」


「嫌じゃない、ってことか?」


「ああ。俺、これは嫌じゃない」


「つまりは好きってことかな」


「好き…?」


68


「で、食い物、嫌いじゃない。そして好きだと思ったら、それは美味しいって言えばいい」


「おいしい…そうか、こういうものがおいしい…っていうのか」


【ええ、おいしい、は大事なことですわ】


「そっか…これが、おいしいって…やつか…うっ…ぐすっ」


「…泣いていいぞ」


「う、うう…うっ…うあああああああああああっ!!!おっ、おいしっ!い!うわああああー!」*


69


「…落ち着いたか。ほら、飯をどんどん食え食え。まずは食わねば」


「うん!俺、これ好き!すっげぇ、おいしい!おいしい!」*


【あんまり詰め込み過ぎるとお腹を壊しますよ。ゆっくり、噛める物はしっかり噛んで】


「あ、うん…おいしくて…とても…おいしい!」*


【…トゥンク】*


「どした、拠点統率サーバントさん?」*


【不覚にも可愛く見えてしまって】


「…母性?」*


70


【私の上と中で生まれて死んでいくもの全ては子ですので】


「ですよねー」


【しかし、消化に良いもの優先で、味付けは刺激的なものは無し、具は可能な範囲で一度噛めばよい程度のもの。

 それを…あんな泣いた後の笑顔で!あんなテーブルマナーも知らない食べ方で!

 あぁ…あんな、無邪気に食べられたらっ!ああっ!祝福っ!】*


「ヘブン状態!?」*


71


「わっ!?揺れる!!??」


《ぎゃっぎゃギャオーーー!!??》


「ぼぼぼ母性感じているところ申し訳ないのですが震えるのやめてください!!??

 大地が崩壊しますというか我が居城が崩壊するぅぅぅ!!??」*


【…失礼致しました。お恥ずかしい所を】


「頼みますよ…一応今は拠点統率サーバントなんですから」


72


《ぎゃお…》


「どうしたおまえ?俺はなんともないぞ?」


「流石、勇者。揺れても飯は落とさないし大して驚いてねー件。我、なんか恥ずかしい」


【ええ、流石ですわ。魔王様より可愛げがあって、お世話しても楽しくなりそうで】


「俺の事教育と称して折檻してた癖に?」


【再教育しましょうか?】*


73


「カンベンシテクダサイ」


【お分かりになればよろしい】


「あ、あのっ」


「ん?どした?」


「まだ、食べたい…いいか?」


【…ハウン】*


「拠点統率さん、どした?」


【…世界創世よりも大事な使命と天啓得たり】


「拠点統率さん?」


【育てます】


「は?」


【この子、ウチの子にします!】


74


「うそん…殺すとか言ってたのに?」


【今は勇者では無いのでしょう?】


「ま、そうだけど。我も今、魔王ではないし」


【ならば愛しき子として育てても文句は御座いませんよね?】


「…ま、うん、世話頼んだから任せるよ。我としても助かる」


「…食べたいけどダメ…か?」


【あ、待たせてごめんなさいね。はい、どうぞ、おかわりですよ】*


75


「わー、あれが元世界創世関係者の姿とは思えんよな…」*


《ぎゃおん》*


「だよなー」


【あ、ほらほら、お口の周りが汚れてますよ、ほらお口を…】*


「く、くすぐったいよっ」


【折角綺麗な顔をしているんですから、勿体無いですわ。さぁさ、飲み物もどうぞ】*


「ひ、一人で飲めるって…なんだろう、なんか…なんて言えば…」*


76


「恥ずかしい…?いや、照れくさいって言うべきか」


「てれくさい?」


「ま、悪くない感情ってやつさ。

 我なら恥ずかしいって言ってしまうが、今のお前なら照れている、のほうが妥当かな」


「これが照れる…恥ずかしい…」


【…魔王様】*


「え、なに?」


【親子水入らずに水を差さぬよう】


「ハイ、スイマセンデシタ」*


77


「…照れる…でも嫌な気はしない…そっか、俺、喜んでいるのかな」


【ええ、ええ、そうでしょうとも!ああ、愛しき子!素直で善き善きで御座いますわ!】


「あー、こりゃしばらくダメなやつだわー」


《ぎゃお?》


「ま、しょうがないよな。我にも、初めてあった時、色々抜きで、あんな感じで接してくれたもんな…」*


78


[…王の御様子は?]*


[最悪ですな。最高の伝統治療、霊薬級の無比たる軟膏、あとは伝承に則った解呪儀式、どれも効果はイマイチ]


[一瞬は効いたように見えて、すぐに全身に絶え間なく痒みが襲うようでして]


[…気合を入れてもらわねば。そろそろ誰かに責任をとって処刑されて貰うか]


[誰に致します?]


79


[とりあえず伝統治療の継承者あたりか。

実際、ただ飲んで食って歌って踊ってるだけで、全く効いている様子は無い]


[ふむ、そのあたり…とりあえずの落とし所に致しますかな]*


[見せしめをそろそろやっておかんと、似たような事で金銭を浪費する羽目になる]


[ですな。では、早速手配を。兵を集めよ]


80


[…いっそ、王にとどめでも刺しますかな?]


[いや、勇者の案件で責任は負ってもらわねばなるまい]


[あの様子ですとまともな状態を維持出来るか分かりませぬぞ?]


[なに、生きておれば良い。喋れなくなるほど弱っていただければ都合が良い]


[何かあれば全てを押し付けられますからな。おお、怖い怖い…]*


81


[それに、王がたかが痒みごときで狂い死んだ、なんて民衆に言えるか?]


[恥ずかしくて言えませぬな。最弱魔王の程度の低い呪いに、王が屈したなどと]


[せめて王は程度の低い呪いには屈しなかったが、老齢の為に弱られ、天寿を迎えられた…。

と、いう筋書きにせねばなるまいて]*


[名誉ぐらいは守らねばな…では葬儀の日も決めておきましょう]*


82


「…うっわー、王、哀れ。流石に我、ちょっとだけ罪悪感。ちょっとだけ」


【どうなされました?】


「いや、ちょっと王の周辺の会話を聞いてた」


【それで?】


「王は痒みに負けたなんて言えないから、そのうち処分する日を決めるそうだ」


【まぁ哀れ。ええ哀れに感じましょう。大地の子ですもの】


83


「ところであいつは?」


【久しぶりに…というか、勇者にされる前日の夕食以来、まともなご飯を食べてなかった御様子で…。

 お腹一杯になった途端、すぐ寝てしまいましたわ…あぁ、寝顔がとても可愛い…愛おしい】*


「あー、そりゃ…しょうがねぇ…な。

 折角、学生初日を我と過ごせる栄誉であるというに。

 ま、授業中に居眠りされてもかなわん、今日はナシ。自由時間にしよう!」*


84


【ところで、寝顔が可愛いですわよ?】*


「自慢したい母親か、ペット自慢の飼い主か?」


【母ですが?】


「…でしょーねー。てか、我は見に行かんからな。

 いいですか、我と違う異性だぞ?異性!そうホイホイ覗いたらマズイでしょ、倫理的に!」*


【まぁ不埒な感情で見るなら、一日かけて全身粉砕する所存ですが】*


「でしょ!てかしませんし!怖いから!それが!」*


85


【…何も教えられてなかった件…あまりにも哀しいですわ】


「だよな。これが読めるかって言って、あの反応だったからな、詰んだと思ったわ。

 我の奥の手、あんな破り方あるんだーって痛感したわ」


【大抵の奥の手は破られる為にあるので御座います】


「ひぇ、我、耳が痛い。ま、手札が少ないもんで」


86


【まさか勇者がなんの教養も知識も、それどころか読み書き計算さえ、それさえも機会を奪われていたとは】


「教育を受けさせないのは罪だぜ。

 ま、我は、生き残る為に必要があったから学びたいと思い、そして学びを受ける機会と環境があった。

 その結果、たった一つの弱点を見抜きそれを突いたが、最悪前代魔王を下馬評引っくり返して倒したからな」*


87


【流石は最弱を認めて泣きながら学び続けただけは御座いますね】


「手元の手札でしか勝負は出来無いからな。

 使えるモンは使う、学べるモノは学ぶ、あとはひたすら維持と積み重ねの繰り返し」


【基礎は大事ですものね】


「そりゃな。足元が不安定では何も達成出来まいよ。

 無理したところで、結果は、地に這って頭を踏まれるだけだ」*


88


【踏まれて従うか、踏んで支配するか。どっちしかいないと】


「…まーな。その踏まれた頭は、踏まれ続けるとそれが当たり前になる。

 気付くとそれが楽になる。上に上げるのが億劫になる。そうなったら、おしまいだ」


【でも、それが強いものと弱いものの、当然の関係…世界の法則では?】


「だな」


89


【いずれであれ、私はそれを受け止める器であります…】


「流石は元は大地の女王様」


【ただし、どう生きるかはそれぞれに。それが私の上や中で生きるということ】


「生きて行く為の足元は用意する、それ以外は自分で掴み取れ、と」


【生きる力は結局は身に付けてもらわねば】


「だよなぁ…」


90


【さて、私はまたあの子の様子を見てまいります。それでは…】


「気の済むまで可愛がってやれー…って、あそこまでドツボにはまるとは思わなかったな。

 うちの子可愛い母性、おそるべし…!」*


《ぎゃおーぎゃおー》


「お、精霊獣うっわ、お前ベタベタだな!?」


《ぎゃぎゃおー》


「へ、抱き枕にされてた?あれに?…大変だったな」*


91


《ぎゃっお》


「あー、で、勇者の力で離して貰えなかったと…ようやく緩んだ隙に逃げてきた。うむ、ご苦労」


《ぎゃーお!》


「あーはいはい、後で好物、あげるから。

 しかし伝説に謳われる精霊獣も、今回ばかりは勇者…

 いや、無知な子供の抱き枕か!面白い時代だな、こりゃ」


《ぎゃうーぎゃう》


92


「…ん…俺は…」


【お目覚めですか?】


「あ…そっか、たくさん…食べて、寝ちゃったのか」


【久々でしたのでしょう?あんなに食べたの】


「うん、俺が…勇者になる日の、その前の日に…たくさん、食べて、いいって」


【その時も眠くなりました?】


「うん。ふかふかな所で寝かせてもらった」


93


【精霊獣もあなたに抱き枕にされて、大変でしたのよ】


「あ…ふかふかだったから、つい…もしかしたら噛み付いてたかも…」


【怒ってはなかったから御安心を。精霊獣はもともと、生きるものの守護。

 よほどの害意がなければ、襲うことはありません】


「でも…戦った時、すごく殺すって目してた」*


94


【今は魔王様と契約の下ですからね、命令に従っただけ。

 今はあなたのことを心から心配する…家族みたいなものです】


「俺に…家族?」


【私も、家族と思って下さいませ。少しくらいなら甘えても良いのですよ】


「…あんた、ほんと、優しいな」


【あのひねくれ最弱魔王様のお世話係ですもの、これくらいはどうってこともないですわ】*


95


「あ…本当は今日から、学生として、学ぶんだった…」


【明日からでも良いと魔王…いえ、学友様からの言葉です。散歩などで体を動かしたりしてみては?】


「うん、そうするよ。俺は体を動かすのは、誰よりも得意だから」


【では、お出掛けしやすい服を】


「え、こんなに…あるの?」


【ふふふ♪かわいい系からクール系まで♪さぁさ、鏡の前へ】*


96


[かゆ…い…たすけ…]


[ようやく消耗して、深い眠りになられましたな]


[なんとも悪趣味な呪いだ。最弱魔王と侮ったがこれとは]


[呪いにかけては恐らく、後にも先にも、存在し得ぬほどの天才…災厄級と思いなされ、王子]


[今回の件は父上の失態ではあるが、それを推し進めた連中の失態でもある、が…責任回避の構えだ]*


97


[極秘の勇者短期集中成長計画…]*


[能力を無理矢理短期間で底上げ、あらゆるものを代償に一度限りの超戦闘能力の塊にする。

勇者とはそこまでして造らねばならぬものか?]


[世界の危機なれば、時には]


[一度見たが、怪物ぞ。あれは。ものが分からない、文字は分からぬ、言葉の意味も殆ど理解しておらぬ]


98


[そうでなければ、コントロール出来ぬのです。

下手に自由意思を知り、矛先が…我々に向けられたら。魔王よりも先にこちらが滅ぶ]


[して、その勇者は…今、どうなっている?

魔王が魔王をやめるという、信用ならんバカなことを言っていたのは聞いたが]*


[血の反応では…生きてはおるようです]*


[…魔王に捕まった、と思うか?]


99


[あの魔王の考え、そして流してきた言葉を信じるなら、勇者に学ばせるために、教育を施すつもりやも]


[なるほど…我らは魔王に自分達を滅ぼす武器を与えたようなものか!

ああ、なんとバカバカしい結末だ!自由意思を持ったら、考えるのは復讐、さしてその先は我々だ!]


[なれば…今のうちに対策を]


100


[まさか第二の無知の勇者でも作るかね?もっとおぞましい方法で?]


[無理でしょうな、それは。さしあたり、復讐の根である可能性にあたる者共を全て拘束なさいませ]


[…理由がない]


[作ればよいのです。勇者が怒りを向ける相手を責任の取り方として纏めて差し出し、任せるのです]


[期待できんな]


101


[あの勇者、あまり長くは持ちません。せいぜい、一ヶ月。まともに動けるのは]


[ほう?時間を稼げれば…]


[ええ。復讐の矛先を探させるのです。根は所詮子供、うまく誘導は出来るでしょう。そう、元の家族を使えば]


[いざという時は、人質にすればコントロール出来る、と?]


[そこまでは言えませぬ]


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


{続く}


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