第10話 龍の巣

真壁兄「今回とは別件で、以前からたまに中国に来てたんだけど、こっちで一緒に仕事してるやつから聞いたんだ。『今回のオリンピックでの中国人の活躍は凄いな』って話てたら『実は変な噂がある』ってコソッと教えてくれたんだよ」


真壁「なんて?」


真壁兄「今回中国代表としてオリンピックに出場した選手達は実力的には本当は補欠組が多かったらしいんだ。それがある時期にスッと姿を消して行方不明?、そして予選直前の数日前にフラッと姿を表したと思ったら予選会で見事な成績を出して代表権を獲ったと」


真壁「そんで?」


真壁兄「例えば行方不明になる前はとても明るい性格で体育会系の覇気に満ちた選手が多かったのに、戻って来てからは全くの別人で、覇気がなく顔の表情も乏しくて死人のように見えたって話が周囲で噂されるようになってな。そんでオリンピックでメダル獲ったあとは大金を持って家族ごとどっかに消えたって噂だぜ」


真壁「え?じゃぁ今メダリスト達は?普通テレビに出演したり CMや雑誌に引っ張りだこじゃないの?日本ならそうでしょ?少なくともニュース番組とかで独占インタビューなんてよくやるでしょ?」


真壁兄「それが全く無いらしいんだ。オリンピックのポディウムに立った以降に姿を見たものはいないって」


真壁「まさかぁ?」


真壁兄「行方不明になってた時期がメチャ怪しいんだけど、この話を教えてくれた中国人同僚のオジサンが田舎でバス会社を経営してるんだって。んでそのオジサンが最近羽振りが良いらしく、ある大きな仕事で稼いだって話を自慢したんだってさ」


真壁「おぅぅ」


真壁兄「真夜中に沢山の選手達を奥地の洞窟まで乗せたんだって。それから数ヶ月後に同じとこに迎えに行ったんだって。真夜中に。その往復だけでかなりの報酬もらったらしい」


真壁「ヤバい仕事確定じゃん」


真壁兄は表向き保健医学の研究員として中国と日本を行き来していたが実のところ諜報活動を行っていた。

中国人同僚というのは共同研究を行っている日系中国人で実は諜報活動の協力者でもある。

その叔父が郊外で観光バスの会社を経営しており、結構儲かっていたのだが昨今のコラーダウィルスの流行でここ数年は経営困難な状況が続いていた。

ところが正月祝いで親戚が集まって飲んだ際に酒の勢いでポロリとこぼしたのであった。まだ先の見えない経営困難な状況で一攫千金の大きな仕事で稼げたことが余程嬉しかったのであろう。


真の依頼主は不明だが何度か利用してもらっているお客さんの紹介で今回の仕事を受けることになったらしい。

とにかく制約条件が細かく厳しくて途中嫌になるくらいだったが法外な報酬に負けて引き受けることにした。

仕事の内容は常の仕事と何らかわりなく特に難しいことも無かったのだが機密扱いが多かったことに苦労した。

当然、身内であっても今回の業務内容を話すことは厳禁なのだが、つい、正月祝いの席で甥に話してしまった。


集合場所に集合している団体客をピックアップして目的地まで送って行く。それだけ。地中観光などもしない単なる送迎業務。

深夜に出発。

目的地はかなりの奥地で、それ程観光地化はしていないが結構有名な場所らしい。

ただし、今回はナビにも記載のない更に奥地に進むことになった。


中国貴州省、ミャオ族が暮らすその近くには巨大洞窟群があり世界最大級の地下空間があるという「龍の巣」とも言われる「ミャオティン」

そしてその更に奥に何かあったようだ。

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