ツアレのお留守番(ホテル編)



セバスはツアレがエレベーター内で、何かに気を取られていることには気づいていたのだが何が原因かは分からなかった。

(昔を思い出しているのでしょうか?夜景の先に何か気になるものでも・・・?)


エレベーターがスイートルームの階に到着すると、ツアレが先に出てくるりと振り返ってお辞儀をした。

「セバス様!本日は本当にありがとうございました!!こんなに楽しいホテルは初めてです!!」

ツアレはホテルと聞くと、今までは嫌な思い出しかなかったがセバスのおかげで良い思い出が増えたようだった。


「いえいえ、どういたしまして。しかし、この行動は全てはアインズ様のお考えから来ています。共に働く者に幸せを・・・・です。」

セバスはツアレの頭をポンと撫でつつ話した。


そして、スイートルーム内に入るとセバスは買ってきたものが入っている袋をテーブルに置いた。

ツアレは先ほど自販機で購入した飲み物を、共にテーブルに置いた。


「さて、ツアレ。夕飯の購入も終わったことですし、私はそろそろお約束の、待ち合わせの場所に向かいます。そこでツアレに約束してほしいのが・・・」

と、セバスは先ほどまでの優しい顔から真剣な面持ちで話し始めた。


「まずホテルから出ない事。」

ホテルから見える夜景がどんなに素敵でも、確認をしに街に出ない事。

街にはもしかしたら、人身売買や誘拐事件が起きている可能性があるので、出てほしくないとのことだった。


「ツアレ、良いですか?・・・私はお食事中はすぐに動けない可能性があります。今回は仕事で繋がりが持てそうな相手ですので、なりふり構わず切り上げる事が難しいからです。分かりましたか?」

セバスはツアレの右手を両手で優しく握りながら、確認をした。


「は、はい・・・かしこまりました。部屋で夕飯を食べて、セバス様をお待ちしておりますね」

セバスに手を握ってもらって嬉しいツアレは、少し顔を赤らめていた。



「・・・・しかし、私セバスがなかなか帰ってこない場合は、待たずに眠って頂いて大丈夫ですので気にしないでくださいね。

もし私の身に万が一の事があれば、ナザリックから救援を呼びますので安心してください」


これでもかというぐらいセバスは、ツアレを一人で待たせることが心配の様だった。


「かしこまりました、セバス様。その場合は先に眠らさせて頂きます」

今度はツアレが両手でセバスの右手を優しく包み、答えた。





そして、一通りお留守番のルールを確認して、セバスは男性との約束の夕飯の用事に出掛けて行ったのだった。


ツアレは部屋の入り口からセバスを見送ると、ふうと息を吐いた。

(まったくセバス様は心配性ですね・・・私も強くなりたいなあ・・・)





セバスがいなくなると、広いスイートルームに一人でいるのが寂しく感じられた。


「さて、ご飯でも食べましょうか~」




ツアレが、ホテルの売店で購入した商品を袋からガサガサと取り出す。


ツアレが選んだものは・・・・

・野菜たっぷりチャンポー麺

・串に刺さっているたれ付きのお肉が美味しそうなヤキトーリン


以上、二点を選んでいた。


そして、最後にセバスが「ツアレ、デザートもどうですか?」と追加した白いクリームのケーキもあった。


「今日のセバス様は優しすぎて変な感じ・・・・」

ナザリック地下大墳墓内で共に仕事をしているときは、ここまでは優しくない。

きちんと上司と部下の壁がある気がする・・・。


ツアレはそんなことを考えたが、お腹が空いているのも事実なので購入した夕飯を食べ始めた。


(良かった~まだ温かかった~)

ツアレはチャンポーの麺をすすって、そう思った。

セバスの部屋での約束事について話すのが長くて、温めた商品が冷めてしまうのが、実はこっそり心配だったのだ。


「うん、おいひ~。ナザリックでも食べられたらな~」

初めて食べる美味しさに箸が止まらなくて、思わず口に出た。

ナザリック地下大墳墓内でも、セバスのおかげで人間用の料理のメニューは増えた。しかしまだ品数が少ない為、わがままだと思うのだが、毎日食べていると飽きてしまうのだ。


チャンポー麺が食べ終わると、ヤキトーリンを食べ始める。

「このたれているソース?これが美味しそうで選んだのよね~」

売店でぶつぶつ言い始めたころに、悩みに悩んで選んだ商品だった。


一口、串に刺さったお肉を食べると「たれ」の美味しさに驚いた。

「美味しい~~~!!この初めて食べる甘くてしょっぱいソース・・・美味しくて病みつきになりそう・・・一本しか購入しなかったのが悔やまれる・・・」



売店で購入した二点はあっという間に食べ終わってしまい、名残惜しいツアレは溜息をついた。

「またいつか食べたいな・・・」


最後にデザートを・・・・と思ったが、留守番を始めてまだ一時間も経っていないので、もう少し取っておくことにした。

「この赤い飲み物も飲みたいけど・・・もったいなくてまだ飲めない・・・」


ツアレはこのまま座っていると、すぐデザートを食べてしまいそうなので小休憩後に、とりあえず立ち上がって部屋を歩き回ることにした。



「・・・・う~ん・・・部屋の中を歩いてもやることがない・・・誰もいないしベッドに寝転んじゃおうかしら・・・」

ツアレはいけないと思ったが、食べてすぐベッドに寝転んでみた。


「はあ・・・こんな私でも幸せになれるのかなあ・・・」

今でもかなり幸せなのだろうが、寝転んだらそんな言葉が口に出た。


「セバス様はとても親切だけど、私の方が先に死んでしまうのかしら・・・あの地獄から助けて頂いて、ずっと一緒に過ごして働いているけれど・・・きっとセバス様は人間じゃない気がする・・・だから・・・私が先に死ぬのよね・・・」

幸せなのに涙が出た。現実って怖い。


ツアレは頬を伝った涙を手で拭うと、ばっと起き上がった。

「泣いてる顔なんて見せたら、セバス様が心配しちゃうものね・・・お出迎えは笑顔でいなきゃね・・・」









___________そして、そんな一人で留守番しているツアレを観察している存在がいた。


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