第4話 学校へ通うこと(1)

 母親の墓参りを済ませて、僕たちは、昼ご飯を食べに、ステーキチェーン店へ寄った。小一時間ほど待って、席に着く。

 各々好きな物を頼む中、僕はなかなか決まらないことに少し焦っていた。


「快、まだ決まんないの?」


 一番最初にメニューを開き、決めた隣の雫さんは、先ほどまでスマホを眺めていた。

 僕が遅いことを苛立ったのか、スマホを弄る手を止めて、開いているページを覗き込んでくる。


「まだ、こういうところに来たのは初めてで、色んなところに目移りしてしまって」


「そうなの!?」


 予想以上に驚かれ、僕もなんか悪いこと言ってしまったな、という気持ちになる。すると雫さんは、


「じゃあ、私のこれと半分こする?快はこれでいい?」


「雫!」


 葉摘さんが横槍を入れる。


「ごめんごめん。快が見てるの見てたら、私も迷いはじめちゃって」


 雫さんは、ぺろ、と舌を出し手を添えて謝ってくれる。


「じゃあ、僕はこれにします」


「快君、本当にいいの?」


「全然。逆に手っ取り早く決めてくれたので、助かりました」


「ほら、じゃあ私はこれもらうね」


 雫さんは、僕のプレートに自分のお肉を切り分けのせると、切ってあった僕のお肉を自分の皿にのせた。


「快君、明日の学校のことなんだけど、」

 

 ふいに葉摘さんが口を開いた。


「はい」


お肉を頬張りつつ、その話に耳を傾ける。


「学校に手続きは済ませておいたから、明日は雫と一緒に登校してちょうだい」


「はい、わかりました」


「雫さん、よろしくね」


「う、うん……」


 まただ。昨日と同じ反応をする。学校に行きたくないのかな、不安になる。





 食べ終え、テーブルを立つ。雫さんと葉摘さんは会計に、僕と徹さんは周りの邪魔にならないよう、外へ出る。


「快君、明日雫のことを見ておいてくれないか?こっそりでいい、学校での様子を聞きたいんだ」


 親として娘の様子は知りたいのだろう。僕は徹さんに「はい」と言うと、徹さんは僕に優しく笑いかけてくれた。



「だめだ、眠い……」


 起き抜けに僕は、自分を呪った。昨日、昼食で腹を満たした僕は家に帰ると、お昼寝をしてしまった。遅い夕食をとると、徹さんは僕をゲームに誘ってくれた。どうやらテレビを使うゲームらしくて、ディスクを専用機器に入れるとテレビにそれが映るというものだった。途中で、雫さんも参戦して、12時を過ぎても続いていた。


 はああ、と欠伸をしながら起こしてくれた葉摘さんに礼を言う。起こしてもらうことに結構な恥ずかしさを覚える。


 同じタイミングで起きてきた雫さんに、「だらしないよ」と言って、リビングで朝食をとる。

 既に家を出ていた徹さん抜きの朝食は別の意味で、緊張した。


「快、醤油とって。違う、それソース」


「二人とも、寝ぼけているわね」


「昨日は、とても楽しかったです」


「ゲームもほどほどにしてよね、学校もあるんだし」


「はい、気を付けます」葉摘さんは、なら良し、と笑う。



 制服の袖に手を通す。寝る前から目を覚まして体感的には、三日前ぐらいなはずなのに、体の皮膚は久しい感覚だ、と言う。


「先行っちゃうよ、快~」


「待って、待って~」


 靴を履き、家を出る。「行ってきます」


「行ってらっしゃい」



 雫さんに道を教えてもらいながら、なんとか覚えようと頑張る。度々、昔の記憶とリンクしてしまう。あっさんの駄菓子屋、りょうこちゃんの家、遊んだ公園。全て昔のこと。白々しいほどに、今はマンションやスーパーになっていた。でもなぜか一つだけ、取り残されたように、跡地となっている場所があった。売地、保有地、と様々な看板が立てられ、まだ開発の進んでいないところでは、草が好き放題に伸びていた。


「じゃあ、そろそろ。学校に近くなってきたから離れてよ」


「えっ?」


「そのままの意味だよ。快は、私の後についてくれば、入り方はわかるはずだから」


 葉摘さんには、先に職員室に行くように言われている。だが僕は、職員室の場所なんてわからない。そう聞くと、


「二階だよ。入って左の階段を上るの」


 そう言って、雫さんは走って、少し離れたところに行ってしまった。距離があいた。何故なんだろう。いい加減じゃないか。僕は、朝から緊張に飲み込まれそうだというのに、味方は、僕のことなど考えてくれてなどいなかった。


 前方の雫さんは、既に女友達と話していた。

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