第34話 死体の秘密



 俺は自身が斬ったゴブリンの死体を観察した。



 それは紛れもなくゴブリンの体であったが、切り口から全く血が流れていないことに気が付く。

 そうなると、ただの緑の肉でしかない。



 こいつは、もしかして……。



 思い当たると行動を開始する。

 この現場から逃走した、怪しげな人影を追う為だ。



「さて、行くぞ」



 声をかけるも、呆然と立ち尽くしていたアルマが、何か言いたそうにしている。



「あの……」

「なんだ、どうした?」



 早く追わないと気配が遠退いてしまうんだが……。



「いえ……あれだけの数のゴブリンを一撃で倒してしまうなんて……そんな冒険者さんを今までに見たことが無かったので……圧倒されてしまったというか……単純に、その…………すごいですっ!!」



「え……」



 アルマは、まるで宝石のように目を輝かせていた。



「いや、たかがゴブリン……」

「感動です! こんなお強い方がいるだなんて!」



 感動している所で悪いが、移動したいんだが……。



「だから……」

「あの太刀筋、普通の方のものではありません。次元が違います!」



「……」

「名ばかりの勇者が大変おこがましい限りですが、その剣の腕、是非、近くで学ばせて欲しいです、ハイ」



 学ぶ……って、それじゃ魔王が勇者に剣技を教えることになっちまうぞ?

 自分がやられる為に教えるようなもんじゃないか。



 てか、この流れ、そろそろ打ち切りたいなあ……。



 と、思っていたら、あろう事かルーシェがそれに追い打ちをかけてくる。



「そうでしょう、そうでしょう。マオ様の真の強さが分かるとは、アルマさん、あなた見所がありますよ!」



「えっ、そうですか。ありがとうござます! ルーシェさん」



「いえいえ、マオ様のことを理解できる人間に敬意を表しただけですよ。それと次から私のことはルーシェでいいですよ?」



「はい、ルーシェ。じゃあ、私のこともアルマでいいですよ」

「分かりました、アルマ。では、これからは二人でマオ様を讃えて行きましょう」

「ええ」



 そう言って彼女達は手を取り合い、謎の誓いを交わしていた。



 ダークエルフ(自称)と勇者が手を繋ぐ、ちょっとおかしな絵面である。



 つーか、急に仲良くなったな、おい!



「で、話に区切りが付いたのなら、追うぞ」

「追う? 何をです?」



 ルーシェはきょとんとしている。



「あの人影に気付いてないのか?」

「??」



 ルーシェは首を傾げ、アルマも同様だった。

 仕方が無いので、俺は後頭部を掻きながら説明する。



「じゃあ、あのゴブリンは誰かが、けしかけた可能性があるってことですか?」

「ああ、恐らくはな」



 俺がそう答えるとアルマは驚いたように目を見張った。

 するとルーシェが、理解したとばかりに手を挙げる。



「はいはい、ということは、その逃げた人影がゴブリンを指揮している者だということですね!」



「指揮……というのはどうだろうな。ゴブリンは忠義心や責任感の薄い魔物だ。強い力で抑え付ける方法もあるが、それで充分とは言えないだろう。そもそも、そんな奴らの統制を取ること自体が面倒で手間のかかることだ」



「では、どうやって……?」

「それは、あの死体を見れば分かる」



 俺は周囲に転がっているゴブリンの死体を視線で示した。



「ここにある全ての死体……血が流れていないんだ」

「血……」



 ルーシェはまだ理解していないようで、難しい顔をしている。



「ようは、こいつらは端から死体だったってことさ」



「死体を操る……ああ、死霊使いネクロマンサーですか!」



 ルーシェはピンと来たのか、そう叫んだ。



死霊使いネクロマンサーとは少し違うな。どちらかというと、傀儡師の仕業と言ったところか」



「傀儡師……」



 その言葉を聞いた途端、アルマは思い当たる節があったのか顔面蒼白になっていた。



「何か心当たりでもあるのか?」

「い、いえ……」



 彼女はそれ以上語ろうとしなかった。


 仕方が無いので俺は話を進める。



「ともかく気になる。なので、ちょっと調べてみようと思う」



「……はい」

「了解しました!」



 二人は対照的な表情で返事をした。


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