六-4

「……御戸永憐を追っていたつもりが、まさかもう一人ブレシスを見つけちゃうなんてね。芋づる式とは正にこのことだわ」

 二人の異能者の激闘を遠く離れたビルの屋上から始終監視していた白衣の女性、ナース・マキは目からスコープを離して面白そうに呟いた。

 襟元に付けた通信機のスイッチは元よりオンになっており、イヤーモニターの奥からナース・リンサの怜悧な声が返ってきた。

『一対ニでは分が悪いです。応援を送りましょうか?』

 微風に揺れるウェーブのかかった長い髪を余裕げな表情で掻き上げるマキ。

「必要ないわよ。今のあの子たちの戦い方を見た限り、二人とも戦闘に関してはド素人だわ。私一人で十分」

『了解しました。では両名の追跡を継続してください』

 リンサは極めて冷静沈着な口調でそう指示してくる。既に二人のブレシスの素性は彼女によって調査済みだ。マキは白衣のポケットに片手を突っ込み、宵闇の彼方に建つ朔詠高校を見据えた。

「あの二人の確保は近々行うわ。それよりリンサ、一方の円田翠の捜索はどうなったの?」

 三日前にマキが一度は捕まえた傀儡使いのブレシス、円田翠。彼女を乗せた護送車がホスピタルへ帰還中に何者かの急襲を受け、それに乗じてスイも行方をくらましていた。恐らく彼女が隠し持っていた傀儡が自発的に主を救出したものと思われており、現在はホスピタルの捜索隊がスイの潜伏先を追っている。マキにとってはこれも気になる問題だった。

『目下捜索中ですが、捜索範囲は徐々に絞られてきています。情報では朔詠市に潜伏中である可能性が高いとのことです』

 不敵に笑うマキの双眸から、危険なほどに艷やかな眼光が零れた。

「この街はブレシスの狩り場ね」

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