第二章 生徒会選挙

第7話 生徒会選挙①


 そうに決まっていた。

 アリスは宇宙人だ。昨日見つけたUFOに乗り込んでいて、瑞浪基地にてUFOの操作のために管轄されているのだ。だからこそ彼女がやることはたった一つで、UFOの存在を知ってしまった僕達のことを殲滅するためなのではないか、と考えていた。しかしながら、部長達にそれを離したところで、「SF小説の読み過ぎだ」などと言われてしまった。正直、貴方達には言われたくない一言だった。

 結果的にアリスは宇宙研究部に受け入れられ――、即部員になってしまった。僕と同じタイミングで入部したということで仲良くするように、という部長の命令があったが、どうしても僕は仲良くすることなんて出来やしなかった。ずっと考えていた、UFOの乗組員の話があったからだ。


「失礼します!」


 図書室に甲高い声が響き渡った。いったい全体何が起きたのかと思って、僕は外に出た。

 そこに居たのは、ツインテールの少女だった。眼鏡をかけていて、いかにも勉強できます、というのを言っているような少女に見受けられた。


「宇宙研究部は今日も活動をしているのですか!?」

「あ、はい。してますけれど」

「それじゃ、野並さんは居ますね!?」

「居ますけれど。あと、ここ、図書室なんで少し声のトーンを下げた方が良いかと思いますが」

「あ、そうですね。失礼しました。それで、野並さんはほんとうに居るんですね?」

「嘘を吐いて何になるというんですか?」

「確かにその通りですが……。でしたら、失礼致します!」


 そう言って。

 女性は無理矢理、図書室副室へと入っていった。

 待ってくれ、何の用事かも聞いていないのに無理矢理入ってくるのはどうかと思うのだが!


「おお、金山じゃないか。いったいどうしたんだ?」


 部長は、そんな焦る僕に対して冷静に答えた。


「どうしたもこうしたもありません! 貴方に連絡したはずのメール、一切確認していませんよね!?」


 本校には、校内メールというシステムがある。

 生徒一人一人にメールアドレスが付与されており、ウェブ上のシステムからなら参照することが出来るというシステムだ。そこで重要なお知らせや、生徒同士の交流を図っている訳なのだが……。


「お前さ、ぶっちゃけあーいうのLINEでよくない?」

「LINEで送ったら既読スルーする可能性があるじゃないですか!!」

「いやいや、流石に僕もそこまで冷酷じゃないって……」

「あ、あの……いったい何をしに来たんですか?」

「失礼致しました。私、生徒会副会長の金山瑛里沙と申しますの」

「生徒会……? まさか、この部活動を潰すために」

「それも有りですが、今は違うことを言いに来たんです」


 それも有りなのか。

 ってか、そんな軽い流れで廃部を言い渡せる生徒会もどうかと思うのだが……。


「貴方に生徒会選挙に立候補して貰いたい。そのために私は今日ここにやってきたのです」

「…………生徒会選挙?」

「毎年七月の初めに行われる嫌な祭典さ。生徒のみんなが投票に参加して、新しい生徒会長を決定する。至ってシンプルなシステムだよ。……と言っても今は生徒会長が不在なんだがな」

「そうなんですか?」

「……生徒会長は不慮の事故で亡くなったんです。その後は空位となって、副会長である私が会長代理としてやってきました」

「だったらお前がそのまま会長をやっていけば良い。僕はこの部活動を進めていくのに手一杯だし、もし仮に会長になってしまったら部活動だって二の次になってしまうだろう? それは嫌だから僕は立候補したくないんだ。分かるか? その気持ちが」

「……亡くなった荒畑会長は、貴方も可愛がって貰っていた、と記憶していますが」

「昔の話だ。今に拘ることじゃない」

「そういう問題ではないと言っているのです!」

「こちらこそ言ってやろう。そういう問題じゃないというのなら、その話を引き合いに出すことだって違うことじゃないのか? とにかく、僕は立候補しないよ。部活動を進めるのに手一杯だ。それに会長職なんてやってしまったらそれこそ勉強に手が回らなくなる。そうとは思わないかね?」

「……特に何もしない部活動のくせに」

「何だと?」

「特に何もしない部活動のくせに! そんなことを良く言えますね、と言ったんです!」

「……生徒会は勝手に人の部活動を傷つけることまで簡単に出来てしまうのか? プライドはどうした?」

「プライドなんてとうにかなぐり捨てましたよ。……とにかく、貴方がもし立候補しないなら、こちらにも策があります」

「言ってみろ」

「もし貴方が立候補しないというのなら……、この部活動は六月いっぱいで廃部にします!!」



   ※



「は、はあ!? お前突然何を言い出すかと思えば……職権濫用じゃねえか!!」

「職権濫用でも何でも良いんです! とにかく、貴方に生徒会長に立候補して貰わなくては困るんです!」

「困る、って……。まさか、対抗馬が居ないとか?」


 ぎくっ。

 何かそんな効果音が聞こえたような気がした。


「ま、まさかほんとうに対抗馬が居ないのか……?」

「う、うっさいわね!! 別に対抗馬が居ないから貴方にお願いしに来たとかそういう訳じゃないし!!」

「いや、はっきりと言ってしまっているのだが。あとここは図書室だからもう少し声のトーン下げた方が良いぞ、仮にもお前生徒会副会長だろ?」

「とにかく!!」


 びしっ、と部長に指さす金山さん。


「貴方が立候補しないなら、この部活動は即刻解散して貰います! 部活動として、学校外に認められた活動をしている訳でもないし。はっきり言ってこの部活動は無駄なんですから!!」


 そう言って。

 逃げ帰るように、金山さんは去って行くのだった。



   ※



「部長、どうしますか?」

「うーん、生徒会長に立候補するのは嫌だけれど、部活動を潰されるのも嫌だしなあ」

「立候補しても、選挙で負ければ良いんじゃないですか?」


 言った僕の言葉に、全員が溜息を吐く。

 僕、何か悪いこと言っちゃいました?


「分かっていないようだから言っておくけれど……、部長は二年生で一番の成績なのよ……」

「え?」

「だから、仮に立候補してしまったら学力の差で投票されてしまう可能性が充分に高いだろうな。仮に変な施策を公言したところで、それを無視してでも投票する人は居ると思う。人間って、それくらい単純なものだからな」


 そんな馬鹿な……。

 ってことは、選択肢は二つに一つしかないじゃないか。


「でも、いずれにせよ、この部活動を継続させるためには、部長が立候補するしか道はないんですよね?」

「そうなっちゃうんだよなあ……。うーん、そういうのが面倒だから敢えて生徒会から距離を置いてきたはずだったのに、どうしてこうなったのやら」


 帰宅時刻を報せるチャイムが鳴ったのは、ちょうどそのときだった。


「……取り敢えず、これは持ち帰りの課題にすることとしよう。君たちの歓迎会もいつかはやらないといけないから、予定を空けておいてくれよ。あ、いつやるかは未だ決まっていないから、明日にでも決めようか」


 そう言ってそそくさと準備を進める部長。池下さんはカメラを磨いていた。外に持ち歩いていたカメラが汚れてしまったのが、それ程気に入らなかったらしい。

 そういえば、結局昨日のUFOの写真を見られていないような気がする。


「あ、部長。昨日のUFOの写真は結局明日にしますか?」

「そうなるな。今日はこれ以上部活動を進めることは出来ないし……。だから明日確認することにしよう。最悪、あいつにはその成果を見せることも考えている訳だが……」


 そう言いながら、部屋を出て行く部長。

 それを見た僕達もまた大急ぎで準備をして、外を出て行くのだった。

 

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