「冒険者レイチェル -全ての始まりの章-」

刃流

第一幕 漆黒の戦士

プロローグ

 広大な大陸の南東にウディーウッドという町があった。

 ウディーウッドは三つの街道が合流する宿場町である。そのため人々の出入りは激しいが、実際町そのものには何もなく、訪れる人々は、目的地までのただの通過点という認識であった。

 だが、ここ一年ほどは、このウディーウッドに自ら望んで身を置く者達が現れ始めている。

 身体を頑強な鎧で覆い、剣や弩弓を携える者や、特異な衣に身を包み、特殊な杖を手にしている者など様々だが、彼らからは感じる香りは共通していた。

 それは血と栄光に飢えたにおいである。

 兵士でも無ければ無法者とも違う、そんな彼らは総称して冒険者と呼ばれている。

 冒険者はギルドに属し、持ち込まれる多種多様な依頼を成功させて報酬を得るのだ。だがその依頼内容も、近年は高額な報酬と共に険しくなった。人々を襲う凶暴な怪物の討伐から、複数の盗賊団から狙われる隊商の護衛、未開の地での資材探索など、死を身近に感じるものばかりである。

 しかし、幸いというべきか、冒険者に憧れる者は命知らずばかりであった。ウディーウッドが俄かに冒険者に溢れた理由は、彼らの富と名声を一挙に上げるに相応しいような、凶悪な怪物が各所で目撃されたという噂が広まったためであった。

 怪物達はこのウディーウッドを含む、大陸南東部を治めるサグデン伯爵の領地に広く蔓延り、常に民衆を震え上がらせていた。

 そしてこの混乱に乗じて、無法者達もまた徒党を組んで蜂起し始め、サグデン領の更なる治安悪化に拍車を掛けていた。そのため各地の冒険者ギルドには、毎度の如く、誘拐や町村の自警団の依頼も舞い込んできている有様であった。

 獣神キアロドを祀る神殿の、神官見習いの少女レイチェルも、領地の窮状を憂う司祭らによって、修行の名の下、冒険者の一人としてウディーウッドのギルドへ足を踏み入れようとしていた。

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