閉塞と解放

 ショッピングタウンはとても賑わっていた。


引っ越しシーズンだからだろう。

ホームセンターの出入口からは流れるような人の群れが入っては出てを繰り返している。


私達はお目当てのイタリアンレストランを見つけると、すぐに入った。


幸い混んではいたものの幾つか空席があった。私達はすぐに窓際の席へと案内された。


お洒落な装飾の店内には洋楽のバラードがかかっており、落ち着いた雰囲気に満ちていた。


料理を注文して、私達は何気なく窓の外の景色を見ていた。


都会だなと思う。


私達の故郷は自然豊かで和かな場所ではあるが、買い物へ行くには車が必要だ。


高齢者が多く若者が少ない。

進学先もなければ就職先もないのだ。


よって皆、高校を卒業すると町を出ざるを得ない。


この電飾の鮮やかな小都市に来た時、寂しさよりも解放感が勝った。


それは、おそらく伸枝も同じだろう。


私達はあの町で妙な閉塞感を抱きながら育ったのだ。


噂が瞬く間に拡がるような、小学校から高校までカースト内でのポジションを変えられないような、そんな窮屈さがあった。


でも私の場合、それだけが理由ではないだろう。


忘れたくても忘れられない記憶があるからだ。


あの町は私の故郷ではあるが母が殺された場所でもあるのだから。


私は今いる新しい場所で呪いのような過去の記憶から逃れることができるのだろうか。



しかし私が口にした言葉は「なんだか寂しいね。」だった。


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