第6話『路頭に迷って』

もう、わからない。

私は博士の事が好きなのか、嫌いなのか。

白黒はっきりと付けられない。


私は博士に嫌われてるかもしれない。

いや、博士が本当の気持ちを隠しているのかもしれない。


無数の枝分かれ、想像が膨らみ、不安だけが大きくなった。


いつの間にか、私の心はとても追い詰められていた。博士を目視する度にこのような不安が湯水の如く湧き出る。


いっそのこと、本人に尋ねる。

ただ、その選択肢も私にとって、怖いものだ。




...わかったぞ。やっと、理解する事が出来た。



拒絶を認めたくない。



ずっとつまらない問題で悩んでいた。


好きとか嫌いとかではなく、

私という存在を蔑ろにしてほしくなかった。


友達でも、愛人でも、私を見てくれれば。

それで自分は満足したのではないだろうか。


近頃、あのタイリクと仲良くした所を見て悩んだり、私との会話に味気が無くなった様に思えたのは、ただ博士が私が満足するまで見てくれてない事への不満が、そういう感情、そういう経験を見させていたのではないか。


自己の欲求不満。


すべては自分のわがままだ。





なんてバカらしいんだろう。

それが答えなんて。


それに気付かない私は全然賢くなんてない。


博士に対しそんな欲求を望む私なんかが、

彼女の助手で本当に良いのか。


私は彼女を自身の承認欲求を満たすための道具としか、見ていなかった。


自分は最低だ。



何の為に口を揃え『我々』などと言ってきたのか。何の為に彼女の『助手』をしてきたのか。


今となっては全て虚無だ。


ポツリポツリと雨が当たるのにも気づかず、

何かに惹き付けられるように、早足である場所に向かっていた。


かつて“彼女ら”が封じた山の麓。

近頃はまた、奴等の動きも多くなっている。


こんな全然賢くもない、アホなフレンズはこの島には必要ない。


私の気持ちを神が知って容認したのか、目の前に少し大きめな球体をしたオレンジ色のセルリアンが現れた。


口元を緩めながら、私は歩いた。


博士にお礼を言いそびれたのは、心残りだが。

いや、逆になにも言わず消えた方が彼女の為だ。あのオオカミと仲良くなって幸せになればいい。




…さようなら。















「おい」


顔を上げると雨で全身が濡れているにも関わらず、勇ましく立つ後ろ姿があった。

そこにセルリアンの姿はない。


「...歩く時はちゃんと前見なきゃダメだろ」


….....











『ヒグマさん、ラッキーさんに特別干渉許可権を与えるようにしたので、これから何かあったら、ラッキーさんを使ってください』


『...何で私に?博士たちでも良かったんじゃないか?』


『確かにそうですが...。僕はヒグマさんにあの2人を見守ってほしいんです』


『....』


『たぶん、この島には戻ってこれないかもしれません。僕に出来ることはこれが精一杯で、責任を押し付ける形にはなるかもしれませんが、すみません。どうか、お願いします』








(まさか、アイツはこうなることを見越して、私に彼女達を託したのか...?)


「すみません、ヒグマさん。

幾つか質問して...。こういう結果になりました」


キンシコウから渡された紙を見つめた。


「わかった。キンシコウ、彼女に連絡してくれ」


「はい」


そうやり取りを交わすと、助手のいる部屋へと、ヒグマは向かった。

扉をそっと開け、声を掛けた。


「大丈夫か、助手」


「ヒグマ...、私は...」


「...助手。ひとつ話したい事がある」










フェネックが去った後、

またもや、午後から雨が降り始めた。


「....」


心の片隅で、助手の帰りが遅いことが少し気になっていた。

すると。


「博士さん!」


「リカオン...?」


「助手さんの事で、大事な話があります...」










「…助手。単刀直入に言おう」


突然の重々しい雰囲気に、固唾を飲んだ。

軽く息を吐いた後、ヒグマはこう呟いた。


「...君は病気だ」

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