第 11話 ブル・ハルゼー 後編



 ―レリウス歴1583年9月14日夕方

  パノティア王国、シャンパル、グローニュ港海兵詰め所―



 英弘はブルートを伴って再びハルゼーの下にやって来たが、海兵詰め所で門前払いを受けた。ハルゼーへの面会を希望すれども本人がそれを拒否したのだ。

 それでも諦めず、しつこく面会を訴え出た甲斐があったのか、30分だけという条件付きでハルゼーがこれを許し、前回同様、応接室で2度目の面会となった。


 「……で? 要件はなんだ? 言っとくが、俺様に猿の言葉を聞かせたって無駄だぞ! 理解する気なんざねえからな!」


 机に脚を乗せ、ふてぶてしく態度の悪いハルゼー。

 顔は不機嫌そのものであり、「早く帰れ」と顔面に書いているかのようだ。


 「前回、王都に帰ってからフランケルコ秀吉殿下と話し合いまして」


 今にも怒鳴り散らしそうなハルゼー。しかし英弘も負けじと前のめりに座り直し、揺らぐことのない眼差しをハルゼーへとぶつけた。


 「その内容をお話しする前に、伝えたいことが……」


 本題に入る前、英弘はそう前置きした。

 さっさと言え、と言わんばかりにハルゼーは顎をしゃくる。


 「実は、私の他に、フランケルコ殿下ともう1人ギフトがいるんですけど……2人とも前世では日本人でして」


 英弘が告白した途端、ハルゼーは鼻で笑いながらに立ち上がった。


 「ハッ! 下らねえ! ジャップが3人もいるならなおさら――」

 「パノティア海軍の総司令官になるつもりはありませんか?」


 英弘が言葉を被せた。その言葉を聞いたハルゼーは、肩眉をピクリと動かし、英弘を見下ろす。数秒、何かを確かめるかのように睨んだが、やがて椅子に座り直しすと――


 「話ぐらいは聞いてやろうじゃねえか」


 さも興味のなさそうな表情でそう言った。

 この小さな進歩に、英弘は確かな手応えを感じたのである。椅子に座り直した時点で興味深々なのだと、英弘はそう受け取ったのだ。これを足掛かりになんとか攻略したいところである。


 「フランケルコ殿下……ネーム前世の名は豊臣秀吉ですが、彼がパノティアの国王となった暁には、パノティア海軍を創設されるおつもりです」

 「国家直営、管理の海軍か?」

 「国家直営といっても、国王が最高指揮官ではありますが……それでも海軍には海軍の指揮官を据えるつもりです」

 「それが俺様だと?」

 「願わくば」


 上手く、ハルゼーの興味を引けているようだ。

 話を真面目に聞くハルゼーに、英弘は状況はいい方向に向かっていると確信を持ちつつ、話を続ける。


 「海軍創設にあたって、パノティア貴族による海上戦力の保有はかなり限定されますし、いずれは禁止するつもりです。ですがその代わり、その貴族達のいなくなった海上を、パノティア海軍が防衛することになります」

 「つまり、この海兵詰め所も、今の親父殿の護衛船も、全部テメエらが接収するか潰すってことか?」

 「その分、各貴族の防衛費用や護衛費用が削減されるはずです」

 「だが自由は無くなるぜ? 裏を返せば、海軍の許可と安全保障がなけりゃ、商船はおちおち航海できねえだろうが」

 「ですから、パノティア海軍へと統一戦力に発展させ、他国から制海権を勝ち取り、シーレーンを維持します。そうすればある程度安全に航海できるでしょう?」


 段々と白熱してきた議論は、まるで盛り上がりを見せるオペラのようであった。

 ここで英弘は、今回の説明の為にと持参した地図を机に広げ、その上に木の札を載せていく。船の形をした札だ。


 「大規模な作戦を行わない場合、パノティアの西海岸オキデンス海に2個艦隊を、東海岸ノトス海に2個艦隊を、アフロ大陸との海峡に1個艦隊を置いて、防衛体制を敷きます」


 もっとも、これは理想であり、実際は創設時の海軍戦力を鑑み、適宜変更するつもりである。


 「各艦隊に司令官を配属させますが、パノティア海軍全体を統べる総指揮官が、全体の行動決定を行います。つまり、あなたがパノティア海軍全体の指揮を執るんです」


 ハルゼーの表情に、狂喜の色が灯った。まるでおもちゃ箱を目の前にした子供のように、今にも声を上げて喜びそうな笑みだ。

 英弘としても、これ以上ない程の手応えをその表情から感じていた。

 ハルゼーを軽く見ているわけではないが、それでも、一国の海軍のトップになれるという、言わば権力欲を英弘は利用したのだ。

 そしてこの試みは成功するだろう、とそう確信を抱いていた……のだが。


 「……いや……」


 ハルゼーの狂喜に満ちていた表情が突然、不機嫌なそれに戻ってしまった。


 「やっぱり受けられねえな。この話は」

 「何でですか!?」


 折角手に入れられそうだった果実ハルゼーが手から滑り落ちたことで、英弘は泡を喰って身を乗り出た。


 「WW2でアメリカ海軍の実質的なトップだったアーネスト・キング元帥と同じ地位を得られるんですよ!? それをどうして……」

 「理由か? 理由が聞きてえか? 赤ん坊でも知ってるシンプルな理由を聞きてえか?」


 身を乗り出した英弘の顔に、ハルゼーも身を乗り出し、その顔を近づけた。


 「ジャップの下に付くなんざ、まっぴらゴメンだからだ!」


 成程。それはシンプルな理由だな、と英弘が思わず納得してしまう程に、ハルゼーの示した理由は単純明快であった。

 ハルゼーは、筋金入りの日本人嫌いであったのだ。




――――――――――――――――――――――――――――――――




 あの後結局、部屋を出て行ったハルゼーに英弘は食い下がったが、頭に拳骨を喰らったために断念しせざるを得なかった。

 容赦なく面会を打ち切られた英弘達は、仕方なく海兵詰め所を後にした。

 日が沈んで辺りが暗くなった頃、詰め所の外では船乗りを相手にした屋台が繁盛し、港町は大いに賑わいを見せている。

 そんな中を、英弘とブルートは宿へと足を運んでいた。

 その足取りは重く、見る者によっては囚人のそれに見えただろう。


 「あの男のことは諦めましょう。隊長」

 「……」

 「あれだけ破格の待遇を示唆されたのに、受け入れない方が狭量なのです」

 「……」

 「隊長の仰られた海軍の構想、あれを聞いても奮い立たないあの男は、臆病者なのです」

 「……」

 「……隊長、聞いておられますか?」

 「聞いてるよ……」


 ブルートは励まそうとしたのだ。俯き加減で歩く英弘の姿を見て、彼が落ち込んでいるのだと思った真面目なブルートは、彼なりに励まそうとしていた。

 だが実際には、英弘は諦めきれなかっただけであり、どうすればハルゼーを味方に出来るか、それを必死に考えていただけである。

 ハルゼーに関する知識を総動員し、もう一押し、何かがあれば……と、思い悩んでいた。


 「落ち込んでいても仕方ありません。屋台でも冷やかして、気分転換でもいたしましょう」

 「別に落ち込んでるわけじゃねーし。屋台を見たってなあ……」


 とは言うものの、様々な食の匂いにつられた英弘が屋台の方を見やる。

 魚を焼いたもの、肉を焼いたもの、それらをパンに挟んだもの……そういった香ばしくも食欲を掻き立てられそうなものばかり。それらを見れば、英弘も自然と空腹感を覚えてしまう。

 少しくらいなら、食べ歩きもいいかもな……。

 そう考えを転換させ、屋台を見渡す程には、ブルートの発言に一定の効果があったのだろう。


 ただその中で、ある物が売られていることに英弘は気付く。


 「……氷、か……」


 それは氷だった。

 売り子の売り文句曰く、アフロ大陸の山地に洞窟があり、そこにあった氷を輸入してきたのだと。


 「珍しいものですが、誰も買う者はいませんね」

 「そりゃ、あれだけ高けりゃな……」


 0.5立法メートルほどの氷塊1つで、金貨4枚であった。

 ただ、山積みにされた氷塊というのも珍しく、見物客は多い。

 それだけ、珍しいものであると言えるだろう。


 「氷か……」


 そんな氷を見た英弘は郷愁の念に駆らると共に、氷を使った贅沢を思い描いていた。氷があれば、夏は涼しいし、ビールを冷やせば旨いだろう。それにかき氷にも出来る。冷蔵庫の無いこの世界で、甘くて冷たいデザートを作ることも――。


 「……使える」

 「ん? 隊長、どうしましたか? あっ、隊長!」


 ブルートを放置して英弘は氷の屋台へと走り出した。

 子供の身長であるお陰か、人ごみをするりと抜け、屋台の売り子の面前に踊り出る。その手には、懐から出した硬貨入りの小袋が握られていた。


 「おっちゃん! その氷1つくれ!」

 「あん? 何だボウズ。冷やかしなら帰って――」

 「金ならある!」

 「なんだ、客じゃねえか。持ってきな!」


 交渉は即決。氷を1つ購入した英弘は、ブルートを呼び立て、宿に持って帰るように指示すると、英弘はまたも駆け出す。

 当然その際、ブルートはその目的を訪ねた。


 「隊長! 氷なんか買って何をするおつもりですか!?」

 「帰ってからのお楽しみだ!」


 氷をブルート1人に任せ、英弘はハルゼー篭絡に必要な素材を集めるため、夜の港町を駆けだした。

 もし、これが完成すれば……もしかしたら、足りなかったもう一押しが出来るのではないか? そう、期待を胸に秘めて……。




――――――――――――――――――――――――――――――――




 ―レリウス歴1583年9月15日朝

  パノティア王国、シャンパル、グローニュ港海兵詰め所―



 「テメエら如きに時間取ってやれる俺様に、感謝して欲しいもんだぜ」


 ハルゼーが、英弘達を目の当たりに開口一番で発した言葉であった。

 昨日と同じ応接室で、奇妙な笑みを浮かべる英弘。その目の前には手提げの籠が置かれている。

 プレゼントで釣るつもりか? これだからジャップは……とそれを見たハルゼーは見え透いた作戦に辟易した。

 ハルゼーは、扉近くの壁にもたれ掛かり、腕を組んで用件を促す。

 扉近くで立っているのは、すぐにでも部屋を出て行けるようにである。


 「いえいえ。私達もいい加減に王都に帰ろうかと思いまして。今日はその挨拶に参りました」

 「そりゃ結構なことだ」

 「あ、でもその前に、朝食のデザートを食べそこなったので、ここで食べてもいいですか?」

 「ああ!? んなもん、外で食いやがれ――っておいおいコラコラ! なに籠開けてんだ!」


 英弘は手早く持参した籠を開け、中身を取り出しす。

 ハルゼーの制止も聞かず、英弘は籠からコップとスプーンを2つずつ取り出すと、1つをブルートに差し出した。


 「よし。じゃあ食べよう、ブルート」

 「はい隊長。頂きます」

 「う~ん! 美味い!」

 「イチゴの甘味がよい感じですね」

 「やめろ! ここはテメエらのリビングじゃ……」


 勝手にデザートを頬張り出す英弘達を止めようと、ハルゼーは詰め寄るが、しかし英弘達がスプーンですくい、口に頬張った物を見てピタリと固まる。

 視線だけを動かし、コップの中に入っているそのデザートを確認すると、ハルゼーは信じられない気持ちになった。


 「……お、おい。テメエ、何喰ってんだ?」

 「何って、食後のデザートですよ。さっき言ったじゃないですか」

 「そうじゃねえよ……そのデザートが何なのかって聞いてんだ」

 「昨晩、私達が作ったアイスクリームです」


 英弘達が食べているのは、ピンク色のアイスクリームだった。

 それは、ハルゼーが前世で愛した食べ物であり、アメリカ国民なら誰もが愛しているであろうデザートである。

 この世界に生まれ変わり、アイスクリームがないことを知ったハルゼーは、それを味わうことが出来ない事実を突きつけられ、絶望していたのだ。


 しかしそれが、今、目の前にある。


 「……そいつを寄越せ」

 「は? あげるわけないでしょう? はむ……うん! んまい!」

 「ウルセー! よこしやがれ!」

 「ムガー! バベボー!やめろー!


 食に対する欲求というのは恐ろしいものである。

 アイスを奪い取ろうと掴みかかったハルゼーだが、英弘は咄嗟にコップの中身をかき込んだ。

 ハルゼーは奪い取ったコップの中を見るも、既に空になったことを知り、次いでブルートへと視線を移す。だがブルートもまた、英弘と同様にアイスクリームをかき込んだ後だった。


 「あ、アイスクリーム……」


 絶望し、コップを手から滑らせてしまったハルゼー。足元が崩れ、地の底へと叩き落とされたが如く、その場に崩れ落ちてしまった。

 そんなハルゼーに、英弘は言う。


 「食べたいですか? アイスクリーム」

 「あるのか!?」

 「俺なら作れますよ」

 「じゃ、じゃあ作ってくれよ! 俺様にも、アイスクリームを!」

 「いいですけど、条件があります」

 「条件だと? ……まさか……」


 無我夢中になってアイスクリームを求めたハルゼーだが、ここに来て、英弘が何を考えていたのかを理解した。

 これは、コイツ英弘の罠なのだ、と。


 「そのまさかですよ」


 英弘は薄く笑った。


 「ウチの殿下の下、パノティア海軍の総司令官になってください。そうすれば、アイスクリームなんて毎日でも食べられますよ」

 「うっぐぐぐぎぎぎぐぎぎぎ!!」


 これ以上ない程の歯ぎしりをするハルゼーに、英弘は昨晩からの苦労が報われたように感じた。


 昨晩氷を買ったのは、アメリカ人らしくアイスクリーム好きであろうハルゼーの為であったのだ。

 ハルゼーがアイスクリームが好きであろうことを思い出した英弘は、氷を買った後、それをブルートに運ばせ、自身はその他の材料の調達に奔走したのである。

 牛乳や卵、氷を氷点下にするための塩。バニラエッセンスがこの世界にはまだなかったために代用したイチゴなど。

 これら材料を掻き集め、夜通しアイスクリームの作成に邁進したのだ。

 特に、2時間おきに材料をかき混ぜなければならなかったのが最大の苦難であっただろう。

 お陰で2人の目の下には、立派なクマが出来ていた。


 「じゃ、ジャップの下につくなんざ……」


 そんな英弘達の苦労の甲斐あってか、ハルゼーの心は大いに揺れているように英弘は見て取れた。

 ならば、ここでダメ押しをしてやろう。


 「……実は、もう1個あるんで、こちらをどうぞ」


 そう言って、英弘は籠の中からもう1つコップとスプーンを取り出し、ハルゼーの前に差し出した。

 ハルゼーは、それを見て瞬時に目を輝かせる。


 「ま、マジかよ!? ありがてえ!」


 言うなり、ハルゼーはひったくるようにしてコップを手に取った。そしてそのまま、かき込むようにアイスクリームを頬張り出したのだ。

 ハルゼーにとってそれは、久しぶりに感じる甘さと冷たさだった。


 生まれ変わってからというものの、アイスクリームが無いことを知った彼は、自棄になる時もあったのだ。

 出会う料理人を片っ端から捕まえては、アイスクリームの説明をして作らせてみたが、出てくるのはベチャベチャしたものばかり。

 何度も試させているうちにハルゼーは次第に、アイスクリームのことを諦めていったのだ。或いは、忘れてしまおうとした。


 そのアイスクリームが、今、ここにある。

 だが悲しいかな。無我夢中で食べたことにより、あっという間にコップの中身が胃袋へと消えていったではないか。

 ハルゼーがそのことに気付くのは、コップの底をスプーンで叩いた時であった。


 「もう、食べちまった……」

 「じゃ、そう言うことで、私達はもう帰ります。では」

 「あん?」


 コップの中が空になったのを見届け、英弘はあえて素っ気なく立ち上った。

 もうお前は用済みだ、とでも言いたげに、寂しくコップの中身を見つめるハルゼーを置いて。

 だがこれは、英弘の心理戦術の内であった。

 1つだけ中途半端な量を与えておいて、更にその欲求を高めるのが狙いである。

 例えるならば、前世で言うゲームの体験版みたいな物であろう。


 そして、その効果は絶大だった。


 「待て!」


 ハルゼーが呼び止める。英弘はニヤリと笑いそうになるのを我慢しつつ振り返る。

 ブルートと共に、あくまで面倒臭そうな顔をして。


 「何ですか? もう会うこともないんですから、早く帰らせてください」

 「そんなツレないこと言うなよ! 俺様とお前の仲だろ? 俺様の部下にしてやるから、アイスクリームを――」

 「話になりませんね。じゃ」

 「わ、わかった! わかったわかったわかった! なってやるよ! 俺様がパノティア海軍のトップになってやるよ!」

 「……本当ですか?」

 「ああ! なってやるって言ってんだろうが!」


 ついに言質を取った。

 英弘とブルートは内心でガッツポーズを取りつつ、英弘はハルゼーと向き直る。

 ハルゼーは、英弘の視線に耐え兼ね、バツの悪そうな表情でそっぽを向くと……。


 「ま、一国の海軍を統べる実力を持ってるなんざ、この世界じゃ俺様くらいしかいねえだろうしな。それにお前達も、今はジャップじゃねえ。パノティア人だ。だから、パノティア人として従ってやるよ……」


 そう、頬を掻きつつ言い訳じみたことをハルゼーは言ったのだ。

 が、すぐに英弘へと向き直ったハルゼーは、いつもの大声で怒鳴り散らした。


 「だが毎日クォーターガロン約0.9リットルはアイスクリームを作れよ! じゃなけりゃこの話は無しだ! いいな!?」

 「ええ。勿論です」


 頷き、英弘は手を差し出した。それをハルゼーは握り、2人は笑いながら握手を交わす。

 短いようで、長かった一連のやり取りも、無事に終わったのだ。

 そして、その結果……ハルゼーはパノティア海軍総司令官としての登用が決まったのである。

 英弘が持つ生前の知識では……ハルゼーは飛びぬけて優秀な指揮官ではなかったと記憶していた。

 だがハルゼーには、海軍元帥にまで上り詰めた経験と知識がある。何より、度胸と思いっきりの良さも兼ね備えているのだ。

 それを見込んだうえで英弘は、やはりハルゼーに海軍の総司令官となってもらったのは、パノティアにとって幸運なことであったと、そう満足していたのである。


 それと同時に、英弘はある点において危惧を抱いていた。

 王都に氷なんてあったっけ? と、毎日アイスクリームが作れるかどうかという、危惧だ。

 王都に帰ってから、氷を作る魔法でも調べようか。と英弘は決意するのであった。




――――――――――――――――――――――――――――――――




 ―レリウス歴1583年9月20日正午

  パノティア王国、王都ルナ、王宮の会議室―



 「初めまして、元ジャップの王太子殿下。俺様がこの国の海軍総司令官、ハルゼー様だ。よろしくな!」


 王宮のいつもの会議室では、4人目のギフトハルゼーを迎えた会議が始まる。

 礼節もへったくれもない態度で名乗るハルゼーに、しかし秀吉は不敵な笑みを浮かべて応えた。


 「よう来たハルゼーとやら。儂がメティアネ公、フランケルコ……ネーム前世の名は豊臣秀吉じゃ」

 「ヒデヨシね……テメエのことは分かったが、このちっこいのは?」

 「ちっこいは余計じゃないかな?」


 ハルゼーに指を向けられ、忠道が応える。


 「僕はポーラット。ネーム前世の名は栗林忠道さ。君と同じ時代に生きた軍人だよ」

 「ああ、ジェネラル・クリバヤシなら知ってるぜ! イオージマの指揮官だった男だろ?」

 「うん。まあね。僕も君のことは知っているよ、ブル・ハルゼー君」


 流石に2人忠道とハルゼー)はお互いのことを知っていたか、と英弘頷く。

 同時代に生きた2人である。打ち解けてくれることを英弘は期待していた。

 そんな英弘を余所に、秀吉はハルゼーに問いかける。


 「して、お主何やら海軍について言いたいことがあるそうじゃな?」

 「ああ。テメエらが考えていた海軍の構想だがな、俺様からすれば素人丸出しのリトルリーグみてえなもんだ」

 「仕方ないよ。僕達は陸上での戦闘がメインだからね」

 「その為に、お主を味方に引き入れたのじゃ」

 「だから俺様が、テメエらの考えた海軍構想に手を加えてやるんだよ。メジャーリグでも通用するようなチーム海軍にな!」

 「で? 具体的にどう手を加えるんだい?」

 「まずはだな……」


 ハルゼーが具体案を語る最中、英弘は考えた。

 結局ハルゼーは、アイスクリームという最後の一押しで陥落したわけだ。しかしこうして海軍の構成やその構想について語る姿を見るに、ハルゼーはアイスクリームよりも海軍に携わっている方が幸せなのではないか?

 そう英弘が思う程に、今のハルゼーは生き生きとしていたのだ。

 まるで、夢を語る少年のように……。


 そして、時には激しく、時には柔軟な思考を持ってハルゼーと英弘達は議論を交わした。

 後にハルゼーは、数世紀にも渡ってこの世界の頂点に君臨する、パノティア海軍の礎を築くのである。

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