第19話

「『S』か…。」

そういえば貴方の名前、聞いたことなかった。

「名前が必要になったことはない。それに…名前はない。」

じゃぁ、皆知らないのね。

勿論、貴方自身も。

それで、未来の夜影が知っていたのは『S』だけ…。

「無いものだと思っていた。書類に必要な時はてきとうに偽名を書いていたんだが。」

未来の夜影が知らないことは、今の夜影も知らないはずよね。

ということは、その一文字しか結果的にはわからないのかしら。

「どうだろうな。長が知らないだけで、俺が見つけるかもしれない。若しくは、長がわざと言わなかったかもしれない。」

そうだと良いけど。

貴方の謎も、忍者の謎も、全部明かすことができればいいね。

頑張って。

「あぁ。今は二番手と次の長がいそうな場所に向かっている。また何かあれば連絡を入れる。」

わかったわ。

あ、待って。

小説投稿サイトに投稿されていた夜影の物語が複数あってその内のいくつかは発見できたわ。

「そうなのか?」

けれど中身を見ることができたのはその内のたった一つだけ…。

「どんな内容だ?」

『忍処』といって、ジャンルは伝記や歴史なんだけど内容は架空歴史小説ね。

忍者をテーマに描かれたフィクションの物語なのだけれど…それは小説を投稿する都合に合わせた設定で実際にあった話である可能性が高いみたい。

「フィクション…?何が不都合だったんだ?」

当時は今と違う。

どう考えても二次元でないと不可能な忍術だとか動きだとかがあったようよ。

物語だと設定ではあるけれど、本当は夜影がなんとなく記憶していた事柄を日記のように書いただけの作品だった。

「それは、何処から何処までの内容になる?武雷が滅ぶまでか?」

途中で続編があるような中途半端な形で終わっているの。

きっと、読めなかった或いは発見できなかった作品の中に続編があったのよ。

始まりは幼い子供が夜影を従者にするところだったけれど。

武雷の始まりでもなかった。

「その日記自体も、続編だったのかもな。その日記の最初の主は?」

蘭丸よ。

有名じゃないから、わからないかもしれない。

それに、内容的には夜影の性格も少し違うような始まりだった。

蘭丸が成政として初陣をあげたのと同時に夜影らしさが出てきたわ。

けど、全ては読めなかった。

最後と最初しか…。

「そうなのか。」

夜影が動物を使役できたのは間違いないわ。

最後には主が別の人物になっていたから、やっぱり途中でどちらかが死んだはず。

「それか、譲ったかだな。」

もう少し調べを進めてみるわ。

「頼んだ。」

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