五話『地下迷宮、裏攻略』

「「「「「きゅーーーっ!」」」」」


「「か、かわいくて攻撃できないよぅ……」」


 初っ端から躓いている僕達……地下一階、明るいけど、周りが石になってるから圧迫感がある場所だ。


 敵は一角ウサギという角の生えた可愛いウサギなんだけど、一応魔物。ステータスが高すぎて普通の動物のように抱きかかえてるけど。

 美少女がウサギと戯れる姿……いいんじゃない?


「『鑑定』」



『一角ウサギ Lv5〜9』

 ・見た目の愛らしさに騙されると危険。近づくと、その角でグサリ。

 ・肉は美味しく頂ける。

 ・あまり頭が良くないため、自分より強い相手にぶつかり自滅する事も。



 ……自滅?


 ぐしゃ……


 生々しい音と共に、リア達の明るい声が止む。どうやら、思いっ切りぶつかってきたせいで、角が頭にめり込んでグロい事になったようだ。


「ぁ……う、ウサギさんが……おなく、なりに……」


「し、シルク達、悪くない……よね……?」


「落ち着きなって。こいつら魔物だし、二人のこと攻撃してたから。微塵も悪くないよ」


 今度、普通のウサギと触れ合って欲しい。もっと可愛いから。愛嬌振りまくから。

 だから、そんな死にそうな顔しないで!


「辛いなら、僕がやろうか?」


「「……おねがいします……」」


 二人が少し虚ろな目をしているから、僕の出番だ。倒すのは数が多すぎて面倒だよね。


 この迷宮は魔物が時間で出現するみたいなんだけど、かれこれ一時間以上まったりしていたせいで50羽くらいまで増えてる。

 ……ウサギって羽で合ってるっけ?


「キュッ!?」


「……道を開けてくれれば、なにもしないよ?」


 Lv5まで上げておいた『威圧』スキルで道の端に寄ってもらう。威圧と言いつつ、殺気も含んでるから……


「ご主人様ってすごいね」


「シグレさま……わたしたちのために……」


 慣れる必要はあるけど、今ウサギの大量虐殺を見せたらトラウマを植え付ける事になる。それは可哀想だから、平和的(?)に解決する方を選んだ。


「経験値も少ないし、態々殺さなくてもね。僕だって、ウサギを殺すのには抵抗があるし」


 ……必要ならサクッと殺るけど。


 しばらく歩いてて思ったけど、少し暗いかな。『光魔法』でも取得しよう。

 魔力も大して減らないし、いい感じだ。


 なんてのんびりしていた僕達だけど、それは失敗だったらしい。


『一定時間が経過……死神が出現します』


 ……ジャラ……ジャラ……


「ゲームかっ!」


「ご主人様、なんか危ないのが来てる!」


 あるよね、1つのフロアに長時間留まると、滅茶苦茶強い敵が出てくるゲーム。で、終盤になると、それを倒すためにレベル上げしたり……


 コォォォォ……


「わわっ……つ、つめたいです」


 足が急に冷たくなった。死神が冷気を放出しているのだろう。


「うわぁ……まさに死神だ」


 見た目は黒いローブで分からないけど、禍々しい鎌を持ってる。まずは『鑑定』だね。



『死神 Lv99』

 ・鎌に腐食効果あり。

 ・攻撃魔法無効。

 ・オールステータス9999。



「――シルク、限界突破。リアは僕の後ろに隠れて。本気でやらないと危ない」


「わかった!」


「はい!」


 すると、シルクの体から膨大な量の魔力が溢れてきた。『限界突破』を発動したのだろう。


『限界突破』

 ・一時的にステータスを三倍まで引き上げる。



 この時だけはステータスの上限を無視出来るので、実質30000って事に。

 そして、二本の剣を作り出し、二刀流にして走り出すシルク。腐食されても新しく作ればいい。


 僕はリアを守るために待機している。

 シルクが危険な時にカバーするためっているのもあるけど。


「せいっ!」


 斜めに振り下ろされた鎌を弾いた直後、触れた部分が崩れ去った。武器が自由に作れるシルクか、何度でも刀を召喚出来る僕じゃないと戦いにくいだろう。


 修復しつつ、もう片方で切りつける……が、シルクの攻撃が届く前に転移された。


「わふ?――そっちなんだ」


 助けに入ろうと思った瞬間、分かっていたかのように死神の背後をとる。勘なのか、『第六感』のお陰なのか。

 どちらにしても恐ろしい。


 袈裟斬りが直撃して、死神は消えていく。


【レベルアップしました。現在レベル24です】


【リアがレベルアップしました。現在レベル26です】


【シルクがレベルアップしました。現在レベル68です】


 うん? 思ったより経験値が少ない――ああ、分体だったのか。なるほどなるほど。


「で、本体はこっちか」


 そう言ってリアを引き寄せた。


「し、シグレさま!? いきなりギュッてされると――」


 リアが真っ赤になって慌てる。しかし、黙った所を見ると、僕の思考を読んで理解したのだろう。僕はこんな時にふざけたりしない。敵が後ろに転移してきたからリアを庇っただけだ。


 鎌が僕の体に達する直前、何時だか拾った剣で弾く。このままではシルクの二の舞だが、こっちはもう一人居る。


「やぁ!」


 素早く近づいたリアが短剣を突き刺した。


 それでも、死神の腕だけは動いている。


 死ぬ前にリアだけでも道ずれとするつもりのようだが……既に、僕は刀を振り抜いた後。

 死神の動きがピタリと止まり、ズレていく。


「――ァァァ………」


 カラン……


 鎌の落ちる音と共に、死神の体は消滅。


【レベルアップしました。現在レベル41です】


【リアがレベルアップしました。現在レベル42です】


【シルクがレベルアップしました。現在レベル73です】


 ステータスの桁が……うん、気にしない。


「お疲れ様、二人とも怪我してない?」


「シグレさまに守って頂いたので、大丈夫です!」


「シルクも無傷だよ。……あの鎌だけ消えないね」


「……貰っていこうか」


 そのまま『無限収納』に入れず、持ち上げてみた。鎌ってかっこいいよね……ん? 壁が勝手に開き始めたんだけど。階段?


「死神を倒したから開いたのかなぁ……」


「わからないけど……行こっ!」


 鎌を収納して、『罠感知』スキルを取って……シルクを引っ張って止める。危なかった。


「……ご主人様?」


「今の所を踏むと、下に落ちるよ」


「わぅ!? あ、ありがと……ご主人様と離れることになったら、絶対泣いてた……」


「……そんなに離れたくない?」


「「離れたくない(ありません)!」」


 ハモるほどか。嬉しい事を言ってくれる。


「じゃあ、手でも繋ぎながら行こうか」


「そうする」


「わ、わたしも……失礼します……」


 ……冗談、だったんだけど……可愛いからいいや。敵が来ても、レベルアップした二人なら余裕だろうし。


 長い階段を三十分ほど歩いただろうか。そろそろ飽きて……ないけど。二人の手を握ってるだけで割と楽しいけど、開けた場所に出た。


『欲するスキルを、三つ授けましょう』


 何故か知らないけど、一つじゃないみたいだね。死神を倒してここに来ると、そうなるのかな。


 僕達が居るのは、女の人の銅像がある大きい部屋。他には特にないので、ゴールのようだ。

 ガロが二週間かけて攻略したのに、二時間で終わりとか、ちょっと可哀想に思えてくる。


 欲しいスキルを勝手に読み取ったらしく、選ばれたものが目の前に表示された。


『奴隷溺愛』『魂の共鳴』『快楽付与』


 …………………んん?


 僕には二つしかくれないのかな? かな? そうだよね、この三番目のは違うだろうし!


 ……何なの? 『快楽付与』? 僕は何を望んでるんですかねぇ? ………まさか――


 溜めてたのが悪いのか? 魔族領に入ってから、一度も処理してなかったから? 欲しいスキルに影響するくらい性欲溜まってたと?


 そんな馬鹿な。



『快楽付与』

 ・奴隷にのみ使用可能。

 ・魔力で触れた場所に快楽が付与される。

 ・使用してから一定時間、対象の感度が五倍になる。



 これを知ってしまったであろう、リアに目を向ける。錆び付いているかのように、首がゆっくりとしか回らない。


 ……うん、予想通り真っ赤になってるけど、嫌ではないらしい。むしろ、『どうなっちゃうんでしょうか、わたし』って妄想してる。

 割とリアルな妄想だったせいで、僕にまで伝わってきた。恥ずかしがりつつも、おねだりしちゃうリア………これは、破壊力があるな。


「二人とも、なんか変……」


「「な、何でもない(ありません)よ!?」」


「……スキルに何かあったの? シルクも見よ――」


「見ないでくださ――もう遅かったみたいですね……」


 しまった、パーティ設定で、奴隷にステータスを開示してるんだった。もう見てるし。


 首を傾げて、僕を見て、ステータスを見て、僕をじっと見て――真っ赤になった。


「ご、ご主人様……」


「な、何かな?」


 やばい、軽蔑されたか?

 ここは土下座を――


「……シルクに使う時は、ちゃんと言ってね……?」


「……使う時は、ね」


 ――わ、わたしには……お好きなときに使ってくださってかまいませんからっ!


 好きな時に使っていい……? 可愛過ぎて困るんだけど。寝る前とか、少しだけ使ってみたい。

 ……少しだけで終わるかは、微妙な所だけど。


【十秒後、地上へ転移します】


 本当にこれで終わりか。少し物足りない気はするけど、スキルが貰えたからよしとする。





 転移した場所は、魔王城の内部だった。すぐにガロの元へ向かう。……びっくりするだろうな。


「「「ただいま」」」


「……何か忘れたのか?」


「なにも忘れていませんよ?」


「終わっただけだよ?」


「終わっちゃったんだ☆」


「……………はぁ!?」


 リアとシルクが首を傾げ、僕が腰に手を当て親指を立てる。まあ、驚くに決まってるよね……迷宮って、そんなに短いものじゃないし。


「終わった、だと? まさか……死神を殺ったのか……?」


「うん、殺った殺った。この鎌も落として行ったね」


「……貴様、強すぎるのではないか?」


「二人も同じようなもんだよ。というか、えいきゅう――愛妻奴隷! が増えると、さらに強くなるし」


 途中で言い直したのは、リアが悲しそうにするから反射的に。お嫁さんだから……今更だけど、この美少女二人が嫁って凄いし、奴隷にしてるってまずいな。


「それで、馬車とか食料はいつまでに準備できそう?」


「明日には整う。特注品を作らせると張り切っていた……へーネがな。我が命の礼には足りんだろうが、金はとらん」


 一日で作れるもの? 職人って凄いね!


 リアに迷惑かけちゃったから、そういうのは貰わなくても良かったんだけど。泊めてもらうだけでも有難いし。

 まあでも、受け取らないのは失礼か。


「じゃあ、遠慮なく。……あ、そういえば、昨日のクリムゾンボア出してなかった。解体済みだけど、どこに持ってけばいい?」


「では、ご案内します」


 そう言った執事さんについていく。あ、使用人は結構居るよ? へーネのキャラが濃いだけで。

 あと、基本頭に角が生えてる。


「冷蔵室的な感じか」


 指示された場所にクリムゾンボア二体分を置く。もう一体は、自分達用にとっておく。


 解体済みの理由は、『無限収納』に解体とか整理やらの便利機能が付いてるから。あれかな、そういうのに細かいからスキルとして出たとか?


 お昼までは暇なので、街に出かける――と、リアを見られた瞬間戦闘になりそうだし、部屋でまったりするしかない。


「……とはいえ、これはどうなんだ?」


 ベッドでうつ伏せになって本を読んでいたら、二人も気になったみたいで左右にくっついて覗き込んでる。


「おじゃま、でしたか……?」


「離れた方がいい……?」


「そんな事ないよ。……照れてるだけだから」


 本の字が小さいので、かなり近づかないと見えない。体は密着してるし、顔もすぐ近くにある。

 二人に対してついムラっとしてしまわないように、ちょっとした会話も混ぜなければならない。


 ……大丈夫、かな。


 読んでいる本は、勇者が異世界から召喚され、大切な人々を守るために戦争へ赴く話だ。

 最終的にお姫様と結婚し、寿命で死んだらしい。


 事実かどうかは知らないけど、帰るかどうかの心理描写すらないってことは送還魔法が無いのかな。ま、僕を召喚した国はそもそも知らないだろう。


 あれは、僕を死ぬまで利用するつもりだった。その証拠に、召喚直後の僕を洗脳しようとしてたからね。まあ、ステータスの精神が高かったから違和感にも気づけたし、旅に出てから魔法で解除したけど。


「うーん、勇者召喚って色んな国でやってるけど、そんな事して大丈夫なのかな……」


「ご主人様、どういうこと?」


「だって、元々は繋がってない世界同士を無理矢理繋げてるじゃん? 下手するといくつもの世界に穴を開けてるかもしれないし……そんな事してたら、異常が起きるんじゃないかと思ってさ」


「ご主人様と居られなくなるのはやだ……」


「わたしもいやです、シグレさま……」


「大丈夫だから、二人とも、あんまり力入れないでくれる? 痛くはないんだけど、色々柔らかいというか……」


 ステータスがある世界だからなのか、二人の体は柔らかくて、筋肉の硬さがほとんどない。そのせいで、女の子らしい感触が……


「もう少しだけ、このままがいい……」


「すこしだけ、ですから……」


 リアさん? どうして僕が悪戯する妄想をしてるんですかね? 顔を赤らめてこっちを見てもしないからね。


 ……妄想がさらにエロく――


 閑話休題!


 どの国も危ない事くらい分かってるはずなんだけどなぁ……楽観的なのか、大丈夫だと確信出来る何かがあるのか。


 どちらにしろ、滅茶苦茶強いシルクを見逃してるんじゃ、本末転倒だよね。……シルクが上手く立ち回れば、獣人の地位とか復活しないかな? 本人が望んだ場合は、だけど。


 なんて考えていると、不意にシルクの耳がピンと立った。


「クンクン……ご飯が来る」


 そんなに経ってたか。


「さすがだね。僕には全く分からないや」


 頭を撫でてやると、尻尾を振って喜ぶ……正に犬だ。下着見えてるとか気にしてはいけない。

 隣で妄想がやめられないロリっ娘がいるけど、顔が真っ赤だからそっとしておこう。


 そういえば、そっとしておこうを見ると、ペル〇ナ4を思い出すよね。……え? どうでもいい? ちょっと付き合ってよ、この二人無防備過ぎるからさ。


 どうでもいいといえば、ペル〇ナ3が――


 ガチャッ


「……空気が桃色のようですが、お食事を先になさって下さい」


「何かするかのような言い方はやめてくれる?」


「……何もなさらないのですか?」


「残念そうに言うなよ、駄メイド」


 こっちは必死に耐えているというのに、なんて事を言うんだ。


 ……確かにリアは可愛いし、迫られたらすぐに襲う自信があるし、超絶可愛いけど、真昼間からシルクの見てる前でっていうのはありえな――


「……ちょーぜつ……えへへ……」


「ご主人様、へーネさん行っちゃったよ?」


「……ご飯、食べようか」


 この後、リアの妄想が加速して大変だった。

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