【5】アーティファクトVSナチュラルボーン(後編)
蒼い光の刃を持つビーム刀剣類で何度も切り結び合う2機のMF。
「パワーは互角か……オーディールのイミテーションにしては悪くない機体だ」
「くッ……!」
セシルのオーディールM3の鋭い刺突を巧みに受け流し続けるバイオロイドのRMA-25。
この2機は構造が酷似しているだけあり、最高出力など性能面もほぼ互角のようだ。
「しかし、その出力を制御する操作性はどうかな!」
セシルが駆るオーディールM3はエース部隊向けとはいえ
「アタック!」
「攻撃の防御に成功……次の行動へ移行する」
操縦性の良さ(※エースドライバー基準)を最大限活かし、敵機のコックピットを狙った正確な一撃を繰り出すセシル。
だが、並の人間なら反応が間に合わないであろう刺突をバイオロイドは防御兵装――ビームシールドで受け止めると、仕切り直しのために防御姿勢を取りながら後退していく。
「フッ、なかなかやるじゃないか……!」
それを確認したセシルは一息入れたいのか、追撃は行わないものの白いMFの姿を目で捉え続けるのだった。
「ブフェーラ1、ファイアッ!」
一方その頃、リリスは別の場所でバイオロイドと激しいドッグファイトを繰り広げていた。
ファイター形態のオーディールM3の機体下面に装備されたレーザーライフルの銃口が光り、そこから放たれる蒼い光線がRMA-25の至近距離を掠める。
「攻撃を回避。1番機の援護へ向かう」
しかし、連射攻撃を冷静にかわし切ったバイオロイドのRMA-25はリリスとの戦闘を中断。
現在進行形で窮地に陥っている1番機――おそらくセシルと戦っている個体の救援に向かってしまう。
「くそッ! 逃がした!」
敵機を仕留め損ねたリリスは珍しく悔しさを露わにするが、すぐに落ち着きを取り戻し白いMFの行き先を確認する。
「ゲイル1――セシルッ! 包囲されるぞッ!」
彼女の視線の先には別の敵機と交戦中の蒼いMFの姿があった。
このままでは同僚に2対1の不利なハンデ戦を強いることになってしまうが、親友としてはそれだけは避けたいところだ。
「片方への対処は任せる!」
「ああ、君の背中は任された!」
原因は自分の撃ち漏らしとはいえ、卓越した技量を持つ親友から頼りにされて悪い気はしない。
セシルの支援要請に力強い返事で応じたリリスはすぐに親友とエレメント(2機編成)を組み、同じくエレメントで仕掛けてくるであろうバイオロイドたちの強襲に備える。
「3番機、連携攻撃を仕掛ける」
「了解」
彼女らの予想通り、バイオロイドが駆る2機のRMA-25は一糸乱れぬフォーメーションで攻撃態勢に入ろうとしていた。
「射撃開始」
上位個体の号令に合わせてレーザーライフルによる同時攻撃を開始するバイオロイドのRMA-25。
「ゲイル1、ファイア!」
「ブフェーラ1、ファイアッ!」
それとほぼ同じタイミング、兵装、連携による同時攻撃で対抗するセシルとリリス。
バイオロイドはオリエント人のDNAをベースに設計されているためか、基本的な思考回路はナチュラルボーンと概ね共通していた。
「攻撃を続行する」
「その程度の射撃など!」
撃ち合いを難無くかわし切った両部隊はすれ違った直後に散開。
引き続き射撃で攻めてくるRMA-25の連射をセシルのオーディールは最小限の動きで回避していく。
バイオロイドの攻撃はかなり正確なので、僅かな隙を見つけてカウンターを取ることはセシルの技量でも難しい。
「ゲイル1!
個々の戦闘力も非常に高い白いMFに手こずっていると、今度は別の敵機の接近を許してしまいリリスから注意を促される。
今の状況で2機を同時に相手取るのは少々厳しいかもしれない。
「援護しろッ!」
「言われなくとも!」
セシルから援護を命じられたリリスはすぐに右操縦桿のトリガーを引き、僚機のギリギリを掠めるほど際どい射撃で白いMFの攻撃行動を牽制する。
もっと状況が切迫していたら誤射覚悟で直撃を狙うつもりだったが……。
「くッ……攻撃中止! 回避運動へ移行!」
幸いにも自機の方が危険と判断したバイオロイドは攻撃を断念し、セシル機から距離を取るように離脱していく。
「こいつは私一人で落とせる! 君はそっちの敵機をやれ!」
「分かっている!」
逃げる敵機を追撃し始めたリリスからの指示に蒼い光線を捌きながら応答するセシル。
レーザーライフル程度の攻撃力の射撃に対しては回避かシールド防御がセオリーだが、セシルほどの技量の持ち主ならば切り払いによる相殺も選択肢に入る。
「(バイオロイドめ、私に関するデータを叩き込んでいるな……こちらの間合いに入って来ない)」
彼女と交戦中のRMA-25は先ほどから中距離での射撃戦に徹している。
どうやら、セシルが得意とする間合いには近付かないつもりらしい。
「(……ならばどうする? セシル・アリアンロッド?)」
セシルは心の中で自分自身に問い掛ける。
……いや、戦場とは1秒でも迷ったり動きを止めたら容赦無く殺される世界だ。
答えは既に決まっていた。
「ゲイル1、シュート!」
射撃の猛攻が止んだ瞬間、セシルのオーディールはウェポンベイを開きマイクロミサイルを一斉発射する。
「防御兵装を散布しつつ回避及び迎撃……!」
レーザーライフルのリロードを狙われたバイオロイドのRMA-25は堪らず作業を中止し、チャフとフレアを散布しながら回避運動に入る。
どうしてもかわし切れそうにないミサイルは固定式機関砲で迎撃を試みる。
「ぐッ……!」
それでも撃ち落とし損ねたミサイルに接近されたことで近接信管の作動を許してしまい、間近で爆風を受けた白いMFは大きく体勢を崩す。
「もらったッ! ここは私の距離だッ!」
「ビームシールド展開!」
至近弾を確認する前に加速を開始していたセシルのオーディールは絶好のタイミングで格闘戦の間合いに飛び込み、白いMFのコックピットめがけてビームソードを突き入れる。
だが、戦闘用に最適化された反射神経を持つバイオロイドは辛うじて反応を間に合わせ、機体の左腕から展開した蒼い光の盾で鋭い刺突を受け止める。
「チィ……!」
エネルギーの奔流に伴い発生する激しいスパークに眩惑され、思わず目を瞑りそうになるセシル。
ヘルメットのバイザーがある程度抑えてくれるとはいえ、至近距離で発せられる閃光はさすがに直視し続けられなかった。
「こういう泥臭いやり方も……できるんだよッ!」
セシルの本領は騎士道精神に則ったスマートな
例えばレーザーライフル同士による鍔迫り合いなど、お世辞にもスマートとは言い難い。
「ファイアッ!!」
「ッ――!?」
一進一退の攻防の末、力尽くでレーザーライフルを押し込んだセシルは左操縦桿のトリガーを引く。
目と鼻の先に銃口を突き付けられていたバイオロイドに接射をかわす余裕は無かった。
「敵機撃墜……!」
コックピットを撃ち抜かれ制御を失ったRMA-25から急いで離れつつ、無力化を確認するセシルのオーディール。
敵機の搭乗員がレーザーで焼失する光景など既に見慣れており、今更何とも思わない。
「(療養明けとはいえ手際が良くないな……このままでは武力衝突が本格化した時に不安が残る)」
それよりもセシルは自らのブランクによる衰えを気にしていた。
「(もっと上手く戦えるはずなんだ! もう少し私自身が仕上がっていれば……!)」
傍から見れば現時点でもトップエースに相応しい戦いはできている。
しかし、高い向上心を持つ彼女は自分自身の限界に納得していなかった。
6対6のイーブンで始まった第2ラウンドはゲイル及びブフェーラ隊の圧倒的優勢により幕を閉じようとしていた。
「(敵機の反応がだいぶ減ったな……残りは2機だけか)」
当初の想定通り1人1機ずつ撃墜してきた結果、残る敵戦力はリリスが捕捉している敵機を含む2機だけとなっていた。
「(1機は交戦中のゲイル3に任せよう。私は目の前の敵を叩くことに集中する)」
自分から見て遠い位置にいるもう1機はゲイル3――アヤネルに期待するとして、リリスはこのまま攻め続ければ落とせそうな敵機を仕留めるべく集中力を高める。
「(一撃離脱狙いか! さすがに素早い!)」
ファイター形態時の推力制御を担う左操縦桿を目一杯前に倒しているリリスのオーディールは最大戦速に近い速度を出しているが、それに劣らない速度でバイオロイドのRMA-25も逃げを打っている。
白いMFは隙を見て一撃離脱戦法に転換するつもりのようだ。
「ゲイル1、シュート!」
体力勝負にもつれ込もうとしたその時、馴染み深い掛け声と共に大量のマイクロミサイルが突如飛来。
RMA-25に回避運動を強いることで飛行速度を大きく低下させる。
「援護攻撃――セシルか!?」
「驚いている暇があったらさっさと落とせ!」
格闘主体の戦闘スタイルを持つ親友が大雑把な援護をしてきたことに驚くリリスに対し、レーダー照射で敵機を牽制しながら早く撃墜するよう促すセシル。
別にセシルが横取りしてしまっても問題無いのだが、戦果は分散させた方が部隊全体の評価向上に繋がると判断したのだろう。
「ありがたい! これで狙いやすくなる!」
自分に最大のチャンスをもたらすことを目的とした援護に感謝しつつ、減速した敵機との距離を詰め攻撃態勢に入るリリス。
「ターゲット、ロックオン! ブフェーラ1、ファイアッ!」
上昇しながら逃げていく白いMFに狙いを定め、それが反転してくる瞬間を見極め彼女は右操縦桿のトリガーを引く。
「リリスッ!」
撃ち漏らしに備えて待機していたセシルの視点からは、2機のMFが空中衝突しそうな勢いですれ違うように見えていた。
「ファイア! ファイア!」
迫り来る敵機に向けて焦ること無くレーザーライフルを撃ち続けるリリスのオーディール。
超高速ですれ違ったその直後、いつの間にか被弾していた白いMFは突如炎上。
一瞬にして炎に包み込まれ、体勢を立て直せないまま眼下のヴワル湖に墜落していく。
「……今の攻め方は少々強引だったと思うぞ、ブフェーラ1」
結果的には良かったとはいえ、反射神経に優れるバイオロイド相手にヘッドオン対決を仕掛けた点については珍しく親友を窘めるセシル。
彼女自身の大胆不敵ぶりも大概なのに、それを棚に上げてリリスのことを心配していたのだ。
「君の援護で生まれたチャンスを最大限活かしただけだよ」
「フッ……」
そんなことなど露知らず、自分が活躍できたのは友のおかげだと笑うリリスにはセシルも釣られて苦笑いするしかない。
「残り1機! ゲイル3、最後はお願いしますわ!」
「あいよ! こいつで……ラストだ!」
ここまで来たら戦術的勝利は目前だ。
ローゼルに煽てられたアヤネルは慣れた手つきで右操縦桿のトリガーを引き、孤軍奮闘していた最後のRMA-25をレーザーライフルで撃ち抜く。
「よし! 敵機撃墜を確認!」
「防空司令部より各機、こちらでも敵航空戦力の全滅を確認した」
敵機撃墜をしっかりと自らの目で見届けたアヤネルと同じく、ヴワル基地内に設置された防空司令部も対空レーダーで敵戦力の反応消失を確認していた。
「久々の実戦ながらよく基地を守ってくれた――と言いたいところだが、由々しき緊急事態が発生した」
しかし、それと同時に防空司令部のオペレーターはバツが悪そうにバッドニュースを知らせてくる。
「ウソでしょ? まだ何かあるの?」
「みんな! 軌道エレベーターの方……!」
スレイがうんざり気味に聞き返したその時、ヴァイルは北東に見える天高く伸びる柱――軌道エレベーター"ステルヴィオ"の方を指し示す。
「ッ! あれは……いや、軌道エレベーター周辺で戦闘だと!?」
目を細めながら視線を移したセシルは最初は日光の反射だと思った。
だが、それが戦闘による閃光だと気付いた彼女は防空司令部が"緊急事態"と述べた理由を察するのであった。
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