“デッドライジング”殲滅執行

 7機の鋼鉄人形が、“デッドライジング”に降り立った。


 同時に、無数のゾンビが殺到し始める。


「っと、早速か。

 総員迎撃、武装制限解除!」

「「了解!」」


 龍野の命令を聞き、固定火器を有する機体は発射態勢を整え、格闘戦特化の機体は盾と剣を構える。


「向かってくる奴らは全て潰せ!

 攻撃開始!」


 その一言で、全機の武装が火を噴いた。

 火器という火器からは多数の弾丸が射出され、盾という盾からはやはり多数の光弾が射出される。

 距離がある内に、減らせるだけ減らす作戦だ。


 無論、百万を優に超える馬鹿げた数など、そう簡単には減らしきれない。

 ララからの援護として460mm砲弾も飛んできてはいるのだが、やはり限度というものはあった。

 攻撃開始からわずか5分と経たず、ララからの支援砲撃を除いて弾薬は尽きる。


「キリが無いな……」


 砲撃や支援砲撃、それに接近戦で、既に数千ものゾンビを屠った黒龍騎士団。

 だが、無論その程度で止むゾンビ達ではない。


 潰せども潰せども、うじゃうじゃと現れるのである。


「だが、叔母ちゃんララからの支援砲撃は続いている」

「しかも、近づかれなければ問題は無いよね」

「それに、まだ手はありますわ」


 そう。

 今しがたヴェルディオ、ブレイバ、グレイスの言葉通り、さしたる問題は無い。


「この程度で終わるワケねえだろ。

 さて、まず俺達が手本を見せるか……その前に」


 龍野が拡声器をオンにし、全団員に告げる。


「他にゾンビと戦闘している人間が存在する可能性もある!

 なるべく建物から距離を置いて、引き付けろ!」

「「了解!」」


 団員達が返事の後に周囲を軽く見回すと、そこには、確かに生存者がいた。


「幸い鋼鉄人形の図体だ、簡単に引きつけられる!

 ほら、寄って来たぞ!」


 龍野の視線の先には、無数のゾンビがいる。

 しかし龍野達は、まだ攻撃を始めない。


「まだだ、まだ引き付けろ!

 十分に寄ってから殲滅する!」


 すでにゾンビ達は、機体に取り付かんとする距離である。

 そして何体かのゾンビが、取り付こうと飛びかかったその時。


「今だ!」


 全ての鋼鉄人形が、魔力と霊力を一斉に解き放った。

 7つもの光のドームが、無数のゾンビを消し去る。


「総員、一気に突っ切るぞ! オルガノのいる“朱雀”まで、最短距離を駆け抜ける!」

「「了解!!」」


 7機の鋼鉄人形が、背中のブースターを噴射して疾走する。

 と、それに合わせて飛翔する影があった。


『聞こえるか?』


 影は龍野へ向けて、通信を飛ばす。


「何者だ!」

おれの名前か? “シュランメルト・バッハシュタイン”とでも、名乗っておこうか』


 シュランメルトと名乗る男は、影――謎の漆黒の機体――を飛ばしながら、龍野達に返す。


『そしておれの乗る機体の名前は、“Asrionアズリオン”だ。おれ共々、宜しく頼む。手始めに、突入の援護をしよう。お前達の目的は既に把握している』

「何だと?」

『問いを投げたい気持ちはわかるが、後にしろ。“あの建物の突入口を開く”、それが目的だろう?』

「あ、ああ……その通りだ。出来る限りの協力を頼みたい」

『当然そのつもりだ。では、入り口前にいる死人しびとどもを吹き飛ばすとしよう』


 言うなり、シュランメルトがAsrionアズリオンに大剣を構えさせる。


『内部までは吹き飛ばせん、だが外周ならば遠慮はせん!』


 そして、Asrionアズリオン光線ビームを放った。

 大出力で放たれたそれは、“朱雀”の外周をぐるりと回り、周辺のゾンビ達を一掃する。


『周辺警戒はおれがする! 行け!』

「承知した!」


 龍野達全黒龍騎士団本隊は、“朱雀”内部に無事突入した。


     *


 それから30分程度経過した時。


「生存者は全員救出完了した! “ペーパープリーズ”に取り付けた検疫所に、順次移送する! ブレイバ、ブランシュ! それにグレイスとハルト! 3機がかりで生存者をピストン輸送だ!」

「「了解!!」」


 返事と同時に、リナリア・シュヴァルツリッター、リナリア・ゼスティアーゼ、ジニア・ノイモーントの3機が生存者を移送し始める。


「別の“ハンター”達も、救出を開始してくれたみたいだな。では、ゼルギアスとリーネヴェルデ。3機の護衛を頼む」

「あいよ!」


 リナリア・ローツェヴェルクに後を任せた龍野は、悪魔樹を見上げる。


「後は、元凶ともいえるコイツをぶっ壊すだけだな」


 ランフォ・ルーザ(ドライ)が、リナリア・ヴァイスリッターが、もう1台のリナリア・シュヴァルツリッターが、一斉に剣の切っ先を悪魔樹に向ける。


おれも手伝わせてもらおうか』


 そして、シュランメルトの駆るAsrionアズリオンまでもが、剣の切っ先を向ける。


「3, 2, 1で同時に撃つぞ」

「了解」

「承知した」

「カウントダウン開始だ。3, 2, 1......ゼロ!」


 合図と同時に、4機が同時に光線ビームを放つ。


 龍野、ヴァイス、シュシュの持つ魔力が、内外から悪魔樹を侵食し。

 ディノ、ヴェルディオの持つ霊力が、外から悪魔樹を削り取り。

 シュランメルトの持つ魔力が、吹き飛んだ悪魔樹の残骸を削り取った。


 龍野達の持つ魔力は、「ふさわしき器で無いものを内側から拒絶する」という力により、悪魔樹の根、その細胞の一片すら侵食、破壊する。


 ……かくして、“デッドライジング”に巣食う悪魔樹は、完全に消滅したのであった。

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