第20話

 次に営業マンが顔を出したのはその三日後だった。

「大将、わかりましたよ、偉龍如の移転先が――」

「そうか。で、どこに移ったんだ?」

「やはり都心を避けて、ここと同じように郊外に向かう国道沿いです。これがその場所です」

 営業マンは、地図らしきものが記された小さな紙片を仙造に手渡した。

「おお、偉龍如の店の場所か、これは助かる。で、移転の理由は何なんだ?」

「いやぁ、さすがにそこまでは――」

「そうだよな。まあ、これだけでも収穫大だ。ありがと――これ少ないけどコーヒーでも飲んでくれ」

 仙造は臀ポケットの財布から五千円札を取り出し、四つに折って裸のまま渡した。最初は大きく手を振って辞退したのだが、仙造に押し切られ、恐縮しながら両手で受け取った。


 ――

 仙造は早目に店を閉め、後片付けをとみ子に任せると、偉龍如がある国道に向けて車を走らせた。店がやっているのかどうかは不確かだったが、これまで近所にあったときは年中無休で夜中の三時まで営業をしていたので、経営方針が変わらない限りこれからでも充分間に合うだろうと思った。


 午前0時の国道は、どこに向かうのかこの時間になってもそこそこの交通量があった。あたり一面墨を流したように暗く包まれているが、この部分だけ闇が川のように切り取られて別世界のように明るさが遠くまで伸びている。

 店につくまで一時間ほどの時間があったが、仙造はラジオを聴くこともなく、ただ一定の間隔を保ちながら前方の赤いテールランプを見つづけ、漫然とハンドルを握っていた。

 スピードを少し緩めながら走る。もうそろそろ目的の場所だ。国道の両側にある店の数も心なしか増えたような気がした。注意をしながらの走行だったが、偉龍如の看板を見つけたときにはすでに通り過ぎたあとだった。

店は反対側にあったために一旦左側に路肩に停車し、車が切れるのを見計らってUターンをすると、店の駐車場に車を滑り込ませる。

 偉龍如の駐車場には十台ほどのスペースがあり、店舗の面積もいままでよりひと廻り大きくなっていた。時間が遅いこともあって客が並ぶようなことはなかったが、それでも七割方客が入っている。

 券売機でこの前と同じラーメンの券を買う。ラーメンができるまで店の中をじっくりと観察するように見廻した。インテリアは前の店とほとんど代り映えのしないものだった。それがあってか、はじめての店ではないような気がした。

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