第2話 クズなフツメンの始まり



 激しいめまいで、いまだに揺さぶられていると思っていたが、めまいが収まると自分が四つんばいになっていることがわかった。


「くそっ・・・いきなり刺してくるなんて、どういうつもりだよ・・・あれ?」

 悪態をつくが、腹が痛くないことに気づいた。


 腹を見ても、そこにナイフはない。それどころか、シャツもなかった。


 脱がされた?


 何を考えているんだ!?ここは外だぞ・・・あれ?なんでカーペットが敷いてあるんだ?

 アスファルトではなく、赤いカーペットの上に俺はいた。


 わけがわからない。

 めまいがひどいうちに、部屋に連れ込まれたのか?


 考えるのは後だ。とにかく着るものを探すか。


「うわっ!?」


 そう思って顔をあげた俺の前は、真っ白だった。

 次に、何かが俺を覆った。どうやら白い布のようだ。


 驚く俺の上から、低い男の声が降ってきた。


「勇者様、大変失礼をいたしました。今すぐお召し物をご用意いたします。」

「は?」


 布は、俺の体を覆う。俺は、もう一度顔をあげると、金髪でほりの深い外国人の顔があった。ちなみに目は青。


「まさか、そのようなお姿で現れるとは・・・思っていなかったのです。」

「いや、俺も思わなかった・・・って、お前らがやったんじゃないのか!?」

 完全に猫をかぶるのを忘れ、俺は素で聞いた。


「そんな失礼なことは致しませんよ。だいたい、そういう趣味はございません。」

 俺の顔を見て、少々馬鹿にしたような顔をする男。


 俺の顔を見てそんな反応をするとは、失礼な奴だ。かなり趣味が悪い。

 ま、男だし・・・それが普通か。




 そして、何もわからないまま、長い廊下を歩き、豪華な部屋に案内された。

 案内は、先ほどの男ではなく、女。なぜか、メイドのコスプレをしている女だった。もしかしてここは、メイド喫茶?


「こちらにお掛けください。」

「はい、ありがとうございます。」

 少し余裕ができた俺は、いつもの猫をかぶって、微笑みを浮かべた。


 女は赤くなって、視線をさまよわせる・・・と思ったのが、特に表情は変わらずに、おそらく奥の部屋へと続く扉の向こうへと消えてしまった。


「あれ?」


 おかしい。あの女も趣味が悪いのか?それともポーカーフェイスがうまいのか?


 考える時間もなく、女は戻ってきた。


「こちらへどうぞ。」

 奥の部屋へと案内される。


 奥は、寝室のようで、ベットと衣装棚のようなもの、あと机なんかがあった。あ、もちろんイスもだ。


「では、お召し替えをさせていただきます。」

 そう言って、女は俺のまとっている布を掴んだ。


「ま、待って。」

「はい?」

「いや、この下・・・何も着ていない・・・のだけど。」

「存じております。」

「は?」

「いえ、ですから・・・そのようなこと理解していますが?」


 女は、まじめな顔をして、そんなことを言った。顔を赤くしたり、いやらしい目をすることなく。待て・・・ストップ!どういうことだ?


 俺は何とか答えを出そうと、色々な知識をひっくり返した。そして、遂に答えを見つける。


「えーと、僕って身分が高かったりする?」

「はい。もちろんでございます。」


 鈴木が言っていた。昔の偉い人は自分で着替えないって。確か、古文の先生も言っていたな・・・


「えーと・・・」


 いや、だからって・・・こんなサービス!?はダメだろ?メイド喫茶っていうか・・・夜のメイド喫茶、メイドバー的な何かか、ここ!?


 鈴木、助けてくれ!どうすれば、自分で着替えれる!?猫かぶったままだと、断れないのだが!


 得意げに話す、鈴木の顔が浮かんだ。あいつは、俺の知らない知識を多く持っていて、それを俺に話すのが好きで、鈴木の話は俺も面白かったので、まじめに聞いていた。先生の話より真面目に聞いていた。


 俺は、女に向けてにっこりと笑った。

「すみません。俺の故郷では、伴侶以外に肌を見せてはいけないので・・・」

「承知いたしました。では、私は部屋の外で待機していますので、何かありましたらお声がけください。」

 女はきれいな礼をした後、さっさと部屋を出て行った。


「助かった・・・鈴木、感謝するぜ。」


 窓の外の青空に、鈴木が親指を立てる姿が見えた気がした。あいつは死んでないけど。


「あれ?」

 自分の言葉にひっかかった。


「あいつ は 死んでない。うん。そうだな。あいつは死んでない。」


 なら、俺は?ナイフで刺された俺はどうなのか。いや、あれは、悪い夢とか、幻覚だったのだろう。


 まとっていた布を、丸めてベットの上に置いた。


「ほら、腹の傷だってねーし・・・あれ?」


 俺の体の筋肉って、もう少しなかったか?それに、色白だったが、ここまで白くなかった気がする。


 ゾクリと、悪寒がはしった。


 壁に備え付けてある鏡に向かう。

 もしこれで、体が透けていたりしたら笑えない。


「・・・嘘だろ?」


 体は透けていなかった。しかし、そこにいたのは、俺ではなかった。


 病的な白さの顔は、他に特徴がなく、黒髪も黒い瞳も何の魅力もない。というか、俺は茶色に髪を染めていた。目も、こんな真っ黒ではなく、もっと茶色に近い色だ。

 顔だって、こんな自信なさげな顔じゃない。今の顔は、別に不細工ではないが、かっこよくもない。普通の顔だ。


「誰・・・だよ。」


 俺は、なぜかフツメンになっていた。



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