雌ゴブリンを賢者魔法で美少女にしたら、エライ事になった件。

飼猫 タマ

第1話 穴ぐら

 

 俺はゴブリンの巣。薄暗い穴ぐらで産み落とされた。


 俺の産まれた場所は、所謂いわるる、ゴブリンのヤリ場。


 ゴブリンの種族的特徴として、人間の女を苗床にして繁殖する。

 勿論、ゴブリンにも雌は居るが、生殖能力は皆無だ。


 そしてどうやら俺は、ゴブリンが村から攫ってきた、一人の女から産まれ落ちた。


 そのゴブリンが攫ってきた俺の母親であった女は、元々人間の子供を孕んでいた。


 俺の母親は、ゴブリンに何度も何度も犯されて、俺が産まれた時には、既に気が触れて、半狂乱状態だったのを覚えている。


 そして、ここで疑問に思うかもしれないが、何故、産まれたばかりの俺が、ここまで鮮明に産まれたばかりの記憶を覚えているかと言うと、単に前世の記憶があったからだ。


 一応、俺の前世の話もしておいた方が良いだろう。


 俺は、とある有名な冒険者パーティーに属する賢者で、それなりにその世界では重要な人物だったと思う。

 ある日、俺はそのパーティーのメンバーに裏切られて殺されたのだ。

 何故殺されたのかは、今でも分からない。

 兎に角、俺の事が邪魔だったのだろう。

 俺はこの地獄のような場所から脱出して、力をつけたら、俺を裏切った奴らに必ず復讐すると心に誓っている。


 そんな事はさておき、何故俺が前世の記憶を持っていたかである。


 俺はある時、悪魔を祀る邪教徒を撲滅させた事があった。


 俺がその邪教徒のアジトに乗り込んだ時、何やら怪しげな儀式の最中で、祭壇に、何十人もの人間の生贄を捧げていたのだ。

 俺は胸糞悪かったので、すぐさま邪教徒を殲滅した。


 そして何となく目に付いた、祭壇に置かれていた儀式に使われていたであろう指輪を、戦果として頂戴した。


 その何となく頂いた指輪が、今回の転生に作用したのだと思う。


 俺がパーティーメンバーに嵌められて死ぬ間際、俺が指にハメていた邪教徒から奪った指輪が突然輝きだし、禍々しい光が俺を包んだ記憶が残っている。


 その状況証拠だけが、現在陥っている状況を肯定してくれるのだ。


 そして現在、俺は俺を産んだ後、発狂してそのまま死んでしまった母親のオッパイを必死に吸っている。


 俺はこのままだと死んでしまう。

 何せ、母親が既に死んでいるのだ。

 ハイハイもマトモに出来ない俺は、死ぬ未来しか見えない。


 俺が産まれた後、ゴブリンに攫われたであろう他の女が、俺を死んだ俺の母親のオッパイの目の前まで運んでくれた。


 しかし、母親は死んでいるのでもうすぐオッパイは出なくなるだろう。

 その時が、俺の死ぬ時だ。


『何がなんでも生き抜いてやる!』


 俺は発狂して死に絶えた俺の母親から、生まれ落ちた瞬間には、俺は自分が陥っている状況を理解する事が出来ていた。


 俺が前世で賢者をやっていた時に、何度かゴブリンの巣穴の駆除しに行った事があったからだ。

 俺が今いるのは、そこのヤリ場。

 ゴブリンが攫ってきた女を閉じ込めヤリまくる部屋だ。

 その場所は、凄惨を極める。


 ゴブリンの雄は、人間の女を犯し、恥辱する事しか考えていない。

 攫ってきては犯し。

 壊れたら捨てる。

 攫ってきては犯し。

 壊れたらを捨てる。

 ゴブリンという名の醜悪な生物は、そんな狂気な日常を、何度も何度も永遠に繰り返すのだ。


 殆どの女は、ゴブリンに孕まさられて、産まれてきた子供を見て絶句する。


 自分の体の中から、醜悪な緑色な小鬼ゴブリンが出てくるのだ。

 マトモでいられる方がどうかしている。


 俺は前世で、そんな生き地獄のような状況を、この目で実際に見た事があったので、それと同じ凄惨な事が行われている状況を目撃して、直ぐに自分が置かれている状況を理解する事ができたのだ。


『バチが当たったのか……

 よりによって小鬼ゴブリンに生まれ変わるとは……』


 俺は前世の幼少時代、悪の限りを尽くしてきた。

 俺は捨て子で、町のスラムに暮らしていた。

 この世界には、スキルというものがある。

 俺は産まれた時から、鑑定スキルと幻惑スキルを持っていた。


 幻惑スキルは、盗みを働く時、とても使えた。

 違う子供に化け、町の店で商品を奪って逃げ、逃げる最中に全く違う子供に化けるのだ。


 最初に、店の人間にバッチリ見られているほど成功する。


 バッチリ見られていれば、捕まった時にすぐに別の子供だと気付くのだ。


 そして鑑定スキル、これさえあれば、大人に騙される事がない。

 物の善し悪しが分かるのだ。

 鑑定スキルさえあれば、かっぱらってきた物を高値で売る事が出来る。


 この2つのスキルを使い、幼少時代は悪の限りを尽くしてきた。

 と、言っても生きる為には仕方がなかったのだ。


「人間……」


 俺はヤリ部屋で、産み落とされたと同時に、ゴブリンに捕えられたであろう若い女に保護された。

 俺はどうやら、小鬼ゴブリンじゃなくて人間だったらしい。


 俺は、安堵と同時に恐怖した。


 ゴブリンじゃ無かった事は、とても嬉しい。

 誰が好き好んで、あの醜悪な容姿をした小汚い性欲と殺戮にしか興味がない生物になりたいだろうか。

 しかし、この場所で人間なのは不味い。

 人間だとバレたら、いたぶられて殺されてしまうのがオチだ。


 ゴブリンは、ナニができる女にしか興味が無いのだ。

 俺はまだ、男か女かは分からないが、例え俺が女だとしても、赤ちゃんではナニが出来ないので、殺されてしまうのは確実だ。


 なので俺は、急いで【幻惑】スキルを使い、小鬼ゴブリンに化けた。

 無意識にスキルを使ったのだが、俺が前世で生まれつき持ってたユニークスキルは、前世の頃と同じく、そのまま使えたので助かった。


 しかし、俺が突然ゴブリンに化けた事で、俺を保護してくれていた若い女性の顔が、見る見る引き攣り、俺を産み落として発狂した女の上に俺を置いて何処かに行ってしまう。


 ボコッ!


 俺を死んだ母親の上に置いた女が、突然ゴブリンに殴られ、そのまま犯されてしまった。


 多分、バチがあたったのだな。

 世界は因果応報で回っているのだ。


 そして今の状況だ。


 死んだ母親のオッパイを、出なくなっても、俺は必死で吸っている。


『死にたくない! 死にたくない! 死にたくない!』


 この状況を、何とかしなくてはならない。


 俺の隣では、醜悪なゴブリンが、さっきの若い女性に跨って、カクカク腰を振っている。

 若い女性は、生気のない顔をしてぐったりと横になっている。

 多分、この若い女性はもうすぐ死ぬであろう。


 この劣悪な環境で生き抜くには、どうすればよいのだ!


 俺は必死に考える。


 もう俺の母親は、死んでしまっているので、俺は栄養を摂取する事も出来ないのだ。


 俺が泣きたいのも我慢し、横で腰を振っているゴブリンをボーッと見ながら熟考していると、突然 俺は誰かに抱きかかえられた。


『さっきの人間の女か?』


 イヤ違う。

 さっきの女は、ゴブリンにまだ犯されてる。

 よく見ると肌の色が違う。


『ゴブリン?!』


 俺が人間の赤ちゃんだとバレたのか?

 俺は死を覚悟した。


「アガチャン、ガワイイ」


『喋るゴブリンだと?』

 俺はそのゴブリンをマジマジ見る。

 そのゴブリンは、髪の毛が生えている。

 普通のゴブリンの頭は、ツルピカだ。

 もしかしたら、上位種のホブゴブリンか?

 ホブゴブリンは、毛が生えている個体もいて、普通のゴブリンより体格も良く、少しだけなら喋る個体もいるのだ。


 しかし、ホブゴブリンにしては体格が少し劣る。

 というか、こいつは珍しい雌の個体か!


 ゴブリンは、殆どが雄だが、たまに雌も産まれて来る事がある。


 雌は雄と違い、少しだけ頭が良いと言われている。


 雌はゴブリンの巣穴から、滅多に出てくる事が無い。

 戦闘能力もそれ程高くなく、そもそも人間を襲う習性が無いのだ。


 雄のゴブリンとは、性欲の塊だ。

 人間の若くて美人の女を犯す事のみが、生きる目的なのだ。


 そして、ゴブリンはとても面食いなのだ。

 普通のゴブリンは、ゴブリンの雌になど興味が無い。

 なので、絶対にゴブリンの雄は、ゴブリンの雌とは交尾をしないと言われている。


 しかし、ゴブリンの雌にも、母性と性欲だけはある。

 なのでゴブリンの雌は、ヤリ部屋で、雄のゴブリンが人間の女を犯すのを見て興奮しながら、人間の女が産んだ小鬼ゴブリンを育てると言われているのだ。


 俺は雌のゴブリンに抱きかかえられ、ヤリ部屋の隣にあるヤリ部屋より3分の1程の広さの20畳程の洞穴に移動してきた。


 そこには、もう1匹の雌のゴブリンがおり、赤ちゃんゴブリンや子供のゴブリンを6匹育てていた。


 俺は【鑑定】スキルを使う。


 種族:ゴブリン(雌)


 種族と性別しか出てこない。

 俺が赤ちゃんになってしまった事により、【鑑定】のレベルが、lv.1に戻ってしまったようである。


【鑑定】スキルは、中々使えるスキルなのだが、レベルが低い時は、全く使えないスキルだったりする。


 取り敢えずは、【鑑定】スキルのレベル上げに専念するしか無い。

 何故なら俺は、ハイハイも出来ない産まれたての赤ちゃんなのだ。


【鑑定】スキルの熟練度が上がれば、ここから脱出するだけの情報を得る事ができるかもしれない。

【鑑定】の熟練度を上げる為には、【鑑定】をたくさんするしか他に方法が無いのだ。


 そして俺は、目の前にいる雌のゴブリンを【鑑定】し続ける事で、地道に熟練度を上げ、この状況からの突破口を探る事を決意したのだった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る