第16話 釣り合っている?

2か月ぶりの彼氏との時間。今月は何とか交通費を捻出したらしく、金曜の最終で私の住む町へ。

 当然、久しぶりだから美味しい物でも、なんて思って雑誌に載っていた居酒屋さんへ行こうと提案してみた。そんなにオシャレなお店じゃないから緊張しないし、お座敷の個室だから、多少荷物が多くても問題ない。って、気を使ったつもりだったのに……。


「あ、俺飯いらねぇ、向こうで食ってきちゃったし、コンビニでなんかちょっと買って、DVDでも借りて帰ろう? 」


 ああ、そうですか。まぁ、疲れてるでしょうよ。わかってますよ。ここは、譲りましょう。

 部屋に戻ってから、明日はどこに出かけようか、なんて言いながらコンビニで買った情報誌を出した私に、困った顔をした。


「あんまり人の多いところ、疲れるんだよなぁ。由夏、車ないだろ? 電車じゃいけるところ限られるしさぁ」


 ヤツが目を止めるのは、観光牧場だの、湖だのと自然の多い場所ばかり。アンタ、そんなところ好きだっけ? そもそも車あってもそこ行くだけで2時間以上かかると思うよ?


 久しぶり、久しぶり。堪えて、堪えて。


 のみ込んだ不満は、口から出ない代わりに顔中に広がっていった。

 明らかに機嫌が悪くなった私を放置して、借りてきたDVDを見始めた。それ、私の苦手な戦争物だし。なんか、話が重いし、戦争物に出てくる人の思想とかが怖いんだよね。

 仕事終わりの週末には、あんまり、さぁ。


 ああ、思い切り溜息がつきたい。でも、せっかく来てくれたのに、悪いよなぁ。


 こんな時、徹を思い出した。徹には、なんでも言える。私が何言っても、笑って流してくれるのは、幼なじみだから? 小さい頃よりは、ましになったと思ってくれている?

 徹も、私には何でも言っていると思う。好き嫌いとか、的確すぎるアドバイスとか。


 DVDを見ながら寝落ちした彼に布団をかけて、自分も横に潜り込む。なんか、いつもよりもさらに、寂しいかも……。


 私が目を覚ましても、まだ眠る彼。

 床で寝たから、身体が痛い。

 私、せっかくの週末に、何してるんだろう。


シャワーを浴びて、凝り固まった首やら肩を少しほぐして、一人で今日の予定を考える。人の多いところは、私もそんなに好きではない。でも、一日ゴロゴロしているのも、さぁ。せっかく来たのに。


少し歩いたところに、大きな公園があったなぁ。桜は散っちゃったけど今時期なら、緑が綺麗だし、側にカフェがあったはず。のんびり散歩して、お茶したらちょっと気分も変わるかも。

 うん、せっかく会ったのに不機嫌だと、お互いつまらないもんねぇ。

 そんな風に考えながら、いつも通りのジーンズに、徹と出かけたときに買ったカーディガンを合わせてみた。他の男と買った服を着るって、私嫌な女かなぁ。



「……か。由夏? 」


「あ?起きた? ごめん、ちょっとぼうっとしてて」


 で、なに?と聞けば若干申し訳なさそうな顔をしている。嫌な予感……。


「実は、さぁ。今日の夕方、友達と約束してるんだ。なんか、結婚決まったヤツがいるから、そのお祝い決めようっていう話になって、断れなかったんだよね」


「……はぁ? 」


 ちょっと、まて。さすがに怒るぞ。ってか、泣くよ?

 あ、駄目だ。呆れかえってしまった自分がいて、怒鳴り声も涙すら出てこない。

 ああ、もう。なんで私この人と付き合ってるんだろう……。


「何時に、どこで約束しているの? 」


 もう、いいや。勝手にすればいい。私は私で、誰かとご飯でも食べるから。

 脱力感満載でかすれた声を出せば、心底嬉しそうにしている馬鹿。


「16時に、大学近くにあったモール。15時過ぎに出れば間に合うけど、今から一緒に行かない? お昼そこで食べてさ、買い物もできるし」


 ああ、本当に馬鹿だ。

 友達との約束の時間まで、私を暇つぶしに使おうって気持ちは、うん、わかるよ。でも、さぁ、それ、言う? それ言われて、私どう思うか、とか考えてる?

 ああ、なんか馬鹿過ぎて、笑えてきた。


「……いいよ、それで。じゃ、シャワー浴びてきて。出かける準備しとくから」


 ありがとう、と目を輝かせた彼氏を、無邪気だなぁ、なんて思う私も相当に馬鹿なんだろうな。




 当たり前だが、休日のショッピングモールは込んでいる。服を見るにも人をかき分け、鏡の前は可愛い女子に占領されて使えない。レジには夕方のスーパー並みの長蛇の列ができていて、並ぶ気すら起きない。嬉々として服を選ぶ馬鹿。アンタ、昨日人が多いの嫌だって言ってたじゃん、なんて恨みごとは必死の思いでかみ砕く。まぁ、私この間買ったから、見るだけでいいけどね。


 人の波を裂けて入り込んだのは、スピリチュアル・ストーンのお店。静かで、セージの香りがして、穏やかなその空間はちょっとだけ別世界。壁に貼られている手書きのPOPには、『期間限定! 購入者に限り、占います』なんだ、占にも期間限定があるのか?

 若干怪しんで眺めていると、店主がニコニコしながら近づいてきた。


「よろしかったら、どうですか? 今日なら、こちらのご購入でも占いますよ」


「はぁ」


店主が指したのは、1500円のペンダント・トップ。いや、1500円についてくる占なんて、あてにならないでしょう? でも、勧められたペンダント・トップには、惹かれた。シルバーの羽根に、大きめの雫型のアクアマリンとムーンストーンが重なるようにつけられている。綺麗。

 これで、1500円?


「ペンダントでなくても、バックにつけても可愛いですよ」


 うん。確かに可愛い。

……買っちゃおう。



「ありがとうございます。占いは、予約が入っていて17時になるのですが、大丈夫でしょうか? 日を変えることもできますが」


 17時、かぁ。彼が16時に居なくなるから、一人でちょっとお茶して、丁度かも?

 お店をでると、紙袋を持ってぐったりとベンチに座っている彼が目に入った。


「いいのあった?」


「うん、でも、買えたのはこれだけ。金欠病と人の多さで、他の店はみれなくてさ。由夏は?何買ったの? 」


 私の買ったペンダント・トップを見せると、嬉しそうに笑ってくれた。


「似合ってる。今日、こんなだから、悪かったと思ってたんだけど、由夏も楽しんでくれて、良かったよ」


 安心したような溜息。まぁ久々の地元だし、友達の結婚式だし、わかってはいるのよ。

 先に言ってくれたら、それでよかったんだけどさ。


 まぁ、いいか。間抜けどうし、私達は釣り合ってるんだよね。


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