強くて美味しいダンジョンキャンプ

全人類の敵

プロローグ

 それはいつもの日常の、ある日の出来事だった。


 最近世間では地下に樹形図の様な大きな穴が開いたとか、そこに魔物が生息しているだとか。

 そんなありえもしないような事がニュースで取り上げられていたけど、生憎私は仕事で忙しい。


 私の名前は桐野冬音きりのふゆね、今年で二七歳になる現役会社務めのOLだ。

 この歳にもなれば会社からは必要とされ、部下もできて自由もそこそこ増える。

 でも私は老後に備えて貯金に勤しむ毎日。

 友達なんていないし、むしろ社内では『氷の女王』だなんて変なあだ名がつき、一日に発する言葉は全て仕事の内容のみ。


「こんな生活も悪く……ないはず」


 会社から帰宅した私は、溜まりに溜まりまくった心労を癒すべくして、ごろんとソファに寝転がっていた。

 そのまま上下の衣服を床に投げ捨て、下着姿で天井を見つめる。


「やっぱり一人が落ち着くわ」


 この時間、この空間の全てが愛おしい。

 会社に出勤して、気を使いながら下手な愛想笑いを浮かべて会話だなんて気が狂いそうだ。


 私は口下手なんだ。現代風に言うとコミュ障。

 人付き合いなんてもううんざりだわ。


「あれ、出すか」


 でも明日は待ちに待った休日。

 私とて普段の素行は良いので、溜まりに溜まりまくっていた有給休暇をいただくことに成功していたのだ。

 そこで私は自室に向かって、そこの床にある小さな地下倉庫を開けることにしていた。


「明日はどこに行こうかな。少し遠出してみるのもありだわ」


 まずは散らかった部屋を片付けることが先だとは思うけど、そんなのは後よ後。

 女の一人暮らしなんて大概こんなものよ。


 実は少し前から、私はソロキャンプに熱中していた。

 きっかけは去年のゴールデンウィークに、なんとなく一人旅行をしたのがそうだろう。


 そこでホテル代は高いからとケチり、近くのキャンプ場で簡易テントの中で一夜を過ごしたのが私の中では非常に楽しかったんだ。

 焚き火の熱は優しく、夜空を見上げると星々は美しい。

 自然の中で、私は生かされているのだと、あの時は改めて実感できた瞬間だった。


 だから、明日のためにとキャンプ道具を――


「え…………な、なにこれ」


 お小遣いをはたいて購入した少し高めのキャンプセットはある。

 あるんだけど、それよりもこの薄暗い穴は何!?


「よく見ると、階段が下まで続いてるわね」


 その時私は最近ネットやニュースで話題になっていたことを、瞬時に思い出していた。


 とある発掘調査隊に発見された未知の回路、その名も『ダンジョン』。


 そこには多くの魔物たちが生息するものだから、地上に上がってこられないよう、『冒険者』と呼ばれる人たちが街で警備をしていたのを度々目にしていた。


 ただのコスプレかと思っていた。


 街では冒険者募集の張り紙が貼られているのを目にし、そんなのあるわけないと内心バカにしていた。

 でも、どうやら私の常識は、こうして非常に塗り替えられるのである。


「GURAAAAッ!」

「……っ!」


 中からは獰猛な魔物の叫び声が聞こえてきたので、私はすぐさま倉庫を閉じることにした。

 驚いた。

 これは……夢ではないらしい。

 普段キャンプ道具を入れるためにしか使ってなかったこの倉庫、埃を被っていたので近々綺麗にしようとは思っていたけど。


 なんで私の家にダンジョンが!?


「でも、そういえばダンジョンって……」                              


 ダンジョン、それは地下に続く未知なる迷宮。


 だが、こんな噂も聞いたことがある。


 ダンジョンは日本全国、どこの県とでも繋がっていると。

 そして同時にレベルやステータス、魔法やスキルなども存在していると。


「よし、交通費がいらないわね。明日からはダンジョンでキャンプよ」


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