《 行動監視 》 8・9

               8


 八月十五日 午後三時四十分


 神奈川県警本部に戻った捜査第一課10係係長の田辺警部は、そのまま、捜査第一課課長の佐々木警視の部屋に行った。


 佐々木警視は

「おつかれさん。」

 と、言って、迎えた。

「決定的な証拠を見つけることができませんでした、申し訳ありません。」

 と言って、頭をさげた。

「それで、話しとはどんなことかね。」

 と、田辺警部に、言った。



 一拍空けて、田辺警部は、話はじめた。


「実はもうご存知の通り、坂口浩介の所有する、チェスターに銃弾と思われものが装填されています。」


「そうだね。その割には、昨日は群馬まで行って、サバイバルゲームを楽しんだということだったね。」

「そうです。でもそれは、もういつでも大丈夫、準備は出来ているという安心感から起こした行動だと考えています。それに、一緒にゲームを楽しんだ人達から、話を聞いたところ、坂口の性格が解かりました。」


「どんな感じに受け取った?」

「坂口浩介という男は、すべてが自分の世界で回っていると思っている節があります。だから、昨日のサバゲーでも先導をきって、撃ちまくって、相手を打ちのめしたと考えています。それから、周りを巻き込む力を持っていると感じています。ただ、それは自分を慕ってくれる人には全力で守る。自尊心が高いため、今回の事件のような交通ルールを守らない者に対しての敵対心は、人一倍強いと受け取りました。明日からは平日です。テレビ番組も通常に戻り、ワイドショーでも、あらためて取り上げてくれると思います。そうなれば、自尊心の塊の坂口も、明後日の17日の犯行をとめる要素はなくなります。いや、絶対にやると断言してもいいと思っています。」


「それで、今後どうしたいんだ。」

「ここからが、問題なんですが。」

「そうだな。何も手立てが見つかっていない訳だからね。」

 と、佐々木警視は、言った。



 田辺警部は、次のように説明をはじめた。

「これからの計画は、神奈川県警察本部に所属するすべての警察官を動員して行う誘導作戦になります。16日午後四時から18日午後四時までに勤務する警察官は、地域部の管轄である通信指令課の傘下にはいり、通信指令の指示のもと、坂口浩介の犯行を封ずる作戦になります。先ほども話をしました通り、明後日の17日に犯行を犯さないようにすればいいのです。」


「具体的には、どうするんだ。」

 と、佐々木警視が、聞いた。

「自動車警ら隊の覆面パトカーが、坂口浩介のチェスターを追尾します。」


「それで?」

「その追尾は、通信指令ですべて把握できます。ですので、通信指令は追尾している覆面パトカーを参考に、制服パトカーと交番の警察官に、指示をして、坂口に堂々と警備をしている様子を見せつけるという計画です。」


「具体的には?」

「通信指令には、チェスターが通りそうな場所を先読みしてもらって、対向車から制服パトカーをすれ違うように指示をする。または、背後につけて牽制をする。交番の近くを通る際には、警察官を立たせて牽制をする。といった感じです。」


「要するに、17日に犯行をさせないということか。」

「そうです。」


「ただ、それでは、犯行は起きないかもしれないが、逮捕や捜索令状の発行はできないぞ。」

 と、佐々木警視は、言った。


「いまは、それしか犯行を防ぐことはできません。死者をださない方法を考えるしかないんです。」

 と、田辺警部は、言った。



 佐々木警視は、頭を抱えてしまった。県警本部全体を動かすには時間がない。それに、もし失敗をして、犯行が起きて死者が出てしまったら、地域部や交通部、そこに関わったすべての警察官に汚点として残る。



 佐々木警視は

「刑事部の本田刑事部長に、相談をしてくる。」

 と、田辺警部に言って、部屋を出ていった。



 時間は、午後四時三十分を過ぎていた。




               9


 田辺警部は自分の席に戻って、佐々木警視の返事を待った。



 八月十五日 午後五時二十分


 坂口浩介を尾行している、水月巡査から電話連絡がはいった

「いま、坂口が自宅アパートに到着しました。ライフルケース類を、部屋まで持って行き、片づけをしています。」

「了解した、そのまま藤田巡査と監視をつづけてください。」

 と、水月巡査に伝えて電話を切った。



 そのあとすぐ、田辺警部は11係係長の下条警部に電話をして、協力のお礼をして、戻ってほしいと、伝えた



 同日 午後五時四十分



 田辺警部は、佐々木警視から第三会議室に来るようにと、電話連絡がはいった。



 田辺警部は、第三会議室のドアを叩いて、入室した。

会議室には幹部が、勢ぞろいしていた。


 地域部部長・通信指令課課長・自動車警ら隊隊長・

       地域総務課航空隊隊長

 交通部部長・第一交通機動隊隊長・第二交通機動隊隊長

 刑事部部長・捜査第一課課長


総勢9人が、席に座っていた。



 刑事部の刑事部長である本田智和警視正が、先に根回しをしていてくれていた。この事件が刑事部で解決されなかった時は、協力を願いたいと打ち合わせをしていてくれていた。


 地域部の部長が、こう言った

「君の提案をそのまま引き継ぐ。明日の16日の午後四時から18日の午後四時まで、自動車警ら隊主導で、各方面がバックアップする。それから、航空隊にも応援させる。万が一、見失った時のことを考えて、空からもバックアップをする。交通部も第一・第二機動隊が全域をカバーしながら、通信指令のもと、動いてくれるようになった。」


 田辺警部は

「ありがとうございました。よろしくお願い申し上げます。」

 と、言って、頭をさげた。


 田辺警部は、警察本部に残って地域部に協力することになった



 同日 午後六時四十五分



 田辺警部は、自分の席に戻って、安田警部補に電話で連絡した。

「明日の16日午後四時から18日の午後四時まで主導権は自動車警ら隊と通信指令課に変わる。これは、事件解決のための最大限の得策だ。ただ、いまの体制は変わらない。監視も変わらない、証拠を探すのも変わらない。ただ、ただ、令状を取りたいんだ。頼む。」

 と、伝えた。



 安田警部補は、大和北署にいる全捜査員と鑑識班を招集した。

そこで、田辺警部の考えを伝えた。犯行をさせないように、県警全体が協力している。だから、自分達は令状を発行させるための捜査をいま一度する。




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