新世界は晴れているか

七つ味

エピローグ

 1000年続く天災遂に終わり国興こる。偉大な王生まるる。名をスレイマンと。天より古から累ね積もった知恵を新なるものを見通す眼を星を拓く諚を授かる。国広く豊かなるも王臥してのちしばらく四分五裂す。天授せし鼎同じくす。


◇◇◇

 

 帝国暦395年。ビルム帝国騎士団長ローズベルトは三度の東方遠征にて地図にない新大陸を発見する。この発見の後、本格的な調査隊が送られるも未だ大陸の全貌はその荘厳なベールに包まれたままである。しかしながら、すでに鉱山や貴重な作物など多くの資源があることが明らかになっており、帝国はこの大陸を支配するため遠征隊を組織し、拠点を築くために多くの人員、資材、資金を投入している。

 また、隣国であるバーゼルシュタット共和国、バビロン王国も異なるルートで新大陸を目指し、三国は新大陸の利権を争っているというのが我々の耳にも伝わるところである。その結果、新大陸からもたらされる全てのものに価値が付き、富と名声を求める物達が途切れることなく新大陸に足を踏み入れた。その多くが帰らないが、数少ない帰還者は絶大な富と名声を手にいれることから、人々は憧れと畏怖を込め、この大陸を『新世界』と呼ぶ。

 

 『新世界』のなんと恐ろしいことだろうか。ここにはわれらの神がいない。

 

 男はビルム帝国の誉れある騎士であった。そんな彼もこの密林の中では、手負いのけものに過ぎない。故郷から遠く離れたこの場所で、誰に看取られることもなく命尽きようとしている。新世界の呪いにかけられた彼らは、剣を手に、奇声をあげて殺し合った。栄光ある冒険の行く末が、このように暗澹たる終わりであってよいものか。そんな男の哀れな嘆きを聞きつけてから、死肉を漁るグロルの飢えた双眸が闇の中からこちらへ近づく。男は蛆の湧いた死体の中、潰れた足を引き摺りながら、どうにか滝の見える沢へとたどり着いた。

 そうして彼は、薄れゆく意識の中で、頭上に広がる星々の輝きを見た!ああ、世界の外の見慣れぬ夜空がこんなにも美しいとは!

 彼は死がすぐそこにあることも忘れて、彼は包み込まれるような世界の在り方に魅了されたのだ。男は瞼を閉じて思った。私もじきに星々のもとへと征けるだろう。

        



        

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