異能飛び交う世界で僕はテスト勉強を欠かさない〜成績を落とす能力、実は最強〜

武田凛

第1話(始まり始まり)

俺の名前は黒曜こくよう翡翠ひすい。昼は普通の高校生、夜は人知れず能力を駆使して悪と戦う裏社会の革命家だ!!


・・・・・・ごめん嘘ついた。


僕の名前は鈴木奏真すずきそうま。普通の高校二年生。先ほどの『黒曜翡翠』は四年前の黒歴史ノートからの引用。


なぜ急に名前を語り出したかって?

それは、今の僕の状況を見ればわかるさ。

ほっぺたが人様に見せられないぐらい赤くなるまでつねったけど、ちゃんと痛かったし、夢ではないと思う。

いや、でももう一回確認してみよう。もしかしたら窓から入り込んだ太陽の光がちょうどいい具合で僕の目を騙していたのかもしれないし。


・・・・・・やっぱ光ってるわ。


目が覚めたら体全体を包む謎の光。

優しい緑色のその光は不思議な暖かさをはらんでいて、なんだか眠たくなってくる。

この現象に心当たりがあるかと聞かれたら即答する。

答えは『ある』だ。


四年前、純真無垢で自分にはなんでもできると信じて疑わなかった少年が、どこかで進行方向を誤って自分なら世界すらも制服できると信じて疑わなくなったころ。自分に使える特殊能力がないか怪しいサイトも駆使しながら徹底的に調べ抜いた。その中の半ば都市伝説のように扱われている話があった。


“神に選ばれたものは特殊な能力を得る。朝起きた時に体が緑色の光に包まれたものは選ばれたものである証だ。”


この話を聞いたときからは毎日夜寝る前に神様に祈りを捧げて朝起きた瞬間に鏡の前に立つ習慣をつけていたもんだ。


でもやがて純真無垢だった少年は『この世にもできないことは存在する』という世界の真理に気づいてしまい、この習慣は記憶の彼方に葬り去られた。

きっと今日の一件で思い出さなかったら一生思い出すことのなかったことだろう。


幸い、今日はテスト後の家庭学習日なのでつねりすぎて真っ赤に腫れたほっぺたも、緑色に発光する人間LEDとなった僕も、誰の目にも止まらない。


じゃあ何をするか。

僕の超能力の正体を突き止めるに100票。

・・・・・・よし決定。


「よし!!」


少し気合いを入れると、立ち上がって伸びをする。

うん、久しぶりに僕のソウルがうなりをあげている。


親がそこそこお金を稼ぐから、高校近くのマンションで一人暮らしをしている僕は、いつものように朝ごはんを作るとそれを食べながらテレビをつける。

このB市では目立った事件もなく、いつも通りの日常が広がっていることを確認すると、小さくごちそうさまと呟いてテレビを消した後食器を洗う。


そのあとは自室に置いてあるお父さんからのお下がりでもらったノートパソコンを立ち上げて特殊能力に関する都市伝説を検索。

検索欄に『体 緑色 光る』と入れた時に出てきた『厨二病』や『バカ』などの単語に腹を立てながら例のサイトを開いてスクロールする。


しばらく眺めていてわかったのは、

・どのような能力なのかは色々試してみなければわからない事

・体の光は2時間ほどで消える事

・能力者の数は非常に少ない事

                    の三つだった。


一番最初のは今日1日かけて調べるし、三つ目は今まで全く目撃情報がなかったことを考えると当たり前だろう。

二つ目の情報は初めて知ったことだが、外でないと試せないこともあるので2時間で光が消えてくれるのはありがたい。ほっぺたは大きな絆創膏でも貼っとけば大丈夫だろう。


僕はパソコンを閉じるとパジャマから着替えてジーパンにTシャツという休日の格好になると家の中から色々なものをかき集めて実験し始める。


・・・・・・・・・・

・・・・・

・・


時は流れて夕方。

結果から言おう、わからん!!


今日1日かけて思いつく限り色々試した。

サイコキネシス、パイロキネシス、テレポーテーション、借力、幽体離脱にヒール、念写から空中浮遊。とりあえず色々やった。

借力を試すためにバスターミナルに行ったりもしたし、空中浮遊を試すために高いところから助走をつけてジャンプしてみたりもした。念写の時なんて眉間にシワを寄せて唸ってたらある親子に指差されたし。

町中走り回って一日、成果は一切なし。

泣いていいかな?


そんな感じで1日目は終わった。うん、今日のような時間を空白の時間と言うんだね。





そして二日目。

今日から学校が再開する。そのことを考えるとひどく億劫だ。

朝食を簡単に済ませて制服に着替えると玄関の扉を開けて太陽の光を浴びる。中間テストが終わった頃の太陽は例年通り僕たちを殺しにかかる勢いで熱攻撃を仕掛けてくる。


お父さんの言いつけでなるべくエレベーターやエスカレーターの類を使わない僕は階段に向けてゆっくり歩き始める。

この時間帯はたくさんの人が出入りするので意外と階段の方が速かったりもする。


案の定エレベーターには大量の人が乗っていたようで、扉が開ききった瞬間に溢れるように人がエレベーターホールに流れ込む。

その中に知った顔を見かけたので一応声をかけておく。


「おはよう慎吾しんご、今日は確か午前授業でよかったよね?」


「ああ、今日は答案返却が済み次第簡単なホームルームをやって解散だったぞ。

それより、昨日は何してたんだ?俺が遊びに誘っても返信どころか既読もつかなかったぞ?」


鳳慎吾おおとりしんご、同じマンションの住人で同級生。家が同じと言うこともあり入学早々友達になった。

そんな友達に”ちょっと超能力のテストをしてて返信できなかった。”なんて言ってやばいやつだと思われたくはない。


「はは、ちょっと遠出しててね……」


嘘は言ってないな。水系の能力を調べるために隣のA市にあるプールまで行ったし。


「そうか、せっかく面白い映画のチケットが取れたんだけどな。」


「そうなの?」


「ああ、だがもう使っちまった。」


「ええ……」


昨日は本当に空白の時間だったらしい。

本当に、僕の能力はなんなんだろう……

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