第8話 守る者

 オーク二匹を引き連れ、囮として森の中を走るマーサ。


 残した三匹のオークとの距離を空けたことを確認したバンは、これ以上囮役をマーサの体の状態を考えると危ないと判断した。

 そして、オークの後ろから奇襲をしかけはじめた。


 しかし、ゴブリンに奇襲をかけるのとは違い、相手はオーク。直ぐにバンたちの攻撃に対して反撃をしてきた。


 今、バンが持つ得物は槍ではなく、両刃の剣である。


 オークの様に力の強いモンスターには、槍の様な武器は簡単に折られてしまうためだ。




「ちっ! こっちだ豚野郎!」


「義兄さん!」


 バンは剣と盾を構え、二匹のオークへと切り込みを入れるかのように駆け出した。一匹のオークが声のする方へと振り向きざま、バンの胴体に向けて大きな拳を入れた。


「ぐはっ!」


 バンは攻撃を受け、後ろに大きく吹き飛び、数人の村人を巻き込んで地面へと倒れる。


 その姿を見たマーサは足を止めてしまい、ほんの少しの油断であろう、近づいて来ているもう一匹のオークに捕まってしまった。


「っく! 離しなさい!」


「マーサを返しやがれ!」


 捕まったマーサを助けようと体を起こし駆け寄るバン。


 しかし、またオークの邪魔が入り、重い一撃を自身の体に食らわされてしまう。


「ゴバッ」


「逃げて! 義兄さん!」


「そんなことができるか!」


 また攻撃を受け吹き飛ばされても、無理やり立ち上がるバン。


 オークの攻撃をニ発も受けてしまったバンの体は、既に言うことを聞ける状態ではないほどにボロボロになっていた。


 バンは義妹を助けるにも自分の力不足に怒りと哀しみで心が満ちていた。


「義兄さん!」


「マーサ!」


∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵


 三匹のオークを片付けた後に、直ぐにマーサ達の向かった方へと自分は走っていた。


 進む道は木々がなぎ倒され、迷うことなく進むべき道を指し示している。


 森の中を少し走り進んだ頃、道の先から男女の叫び声が聞こえてきた。


 声を聴く限りでは女性はマーサの声だろう、なら男性の方はバン? 自分は急ぎ声のする方へと走り出した。


 到着し、目の前にはマーサはオークの手に捕まり、バンも無茶をしたのであろう、ボロボロの姿がそこにはあった。


 残るオーク二匹を確認すると鑑定表示が現れた。


オークソルジャー


Lv5。  オーク族


薄汚い腰蓑


バッシュLv2。


オークピュージリスト


Lv8。  オーク族


鉄のナックル オークの足鎧 腰蓑 


崩拳Lv3。


 考えている時間はない。先ずは、マーサの身の安全を確保しなければ。


 しかし、マーサが暴れていては弓での攻撃は危険だ。だが、ゴブリンを倒したときに使ったナイフではオークを倒すことは難しいだろう。


 ならばゼロ距離の狙撃ならどうだろうか? 

 タイミングよく、使える感じのスキルも先程手に入れた。ぶっつけ本番のスキルの使用は危険だが、今できる最良の方法だろう。

 時間かけすぎて死人が出ちゃ遅い。


「ハイディング……」


 このスキルがどれほど持つのか解らない。


 一度ナイフを取り出し、自分の姿を見て消えていることを確認した。


 息を整え、弓を構えた状態で草かげから飛び出し、目標に向かって一気にマーサを捕まえているオークに接近する。


 バンは自身の命を捨てる覚悟で剣を握りしめ、ふらつく足に力を入れてはオークに突撃しようと駆け出すその時、誰かが走り通った気配をバンは感じる。


 だが、後ろには倒れた仲間しかいない。

 前にはオーク二匹と捕まったマーサ。

 しかし、そちらに視線を向けたその時、声が聞こえた。


「マーサさん、伏せて!」


 声と同時にオークの前にミツが現れ、弓の弦を引き攻撃を構えていた!


 どうやらハイディングは何かしらのアクションを行うと効果を消してしまうのか、突然自分の姿が現れた事に周囲が驚く。

 間をおかず、現れたと同時にオークの顔面へとめがけて至近距離での狙撃。


 バシュ!


 鋭い矢の先は大きく開けた口に刺さり、オークは突然のことに手に捕まえていたマーサを手放した。

 うまい具合に矢は口の奥に刺さり、喉を貫通したのか、口から血を吹き出すオーク。

 そのまま呼吸困難になり、膝を曲げ呼蹲り、反撃をすることができないようだ。


 今の一撃は運が良かった。


「仕留めるつもりだったけど、行けそうだな」


 もがき暴れているオークに少しだけ距離を開けスキルを頂く。


「スティール!」


《スキル〈バッシュ〉を習得しました》



バッシュ


・種別:アクティブ


 武器に気合を込めた強打で高威力を誇る剣の必殺技、レベルに応じて威力が上る。



 なぶり殺しの趣味は無いので素早く狙撃で終わらせる。


 バシュ!


 フゴっ!


 ヘッドショットを受けたオークは2回ほど痙攣すると、そのまま状態は亡骸表示になった。


 残るは後一匹。


 仲間が目の前でやられているのに、直ぐには反応できなかったのであろう。


 振り向いた自分の顔を見た途端、怒りが沸いてきたのか、けたたましい叫び声を上げてきた


 ブロロオオォォォォォ!!!


 仲間をヤラれ血走った目でこちらを見ている。


 ターゲットが自分になってるのを確認すると、ゆっくりとマーサに声をかけた。


「マーサさん、動けますか……」


「えぇ……。少し体は痛むけど大丈夫。動けるわ」


「あいつは自分を狙っています、危険ですのでお二人は離れていてください。あれは自分がヤリます」


「ミツさん危険だわ! 他のオークが来る前に逃げないと!」


「大丈夫ですよ、残りはあれだけですから」


「えっ」


 不安そうなマーサにニコリと笑顔を返すと、ほんの少しだけ心が落ち着いたのか。マーサは急がずジワジワとオークには背を向けず、バンの方へと進みだした。


 恐らく先程の雄叫びは仲間を呼んだのだろう、先に倒しといて正解だった。援軍は来ない、落ち着いて対処すれば問題ないはずだ。


「足元には防具か……。さっきの手は使えない……」


 戦う相手を上から下まで観察し先程の作戦は使えないことを確認する。


 辺りに何か使えるものは無いかと少し視線を見渡すと、バンの方へとマーサがたどり着いたのか、心配そうに声をかけているのが見えた。


 そしてバンの横に落ちている武器に自分は注目した。


「バンさん! すみませんが剣をお借りします!」


 突然の申し出にバンは驚き自身の剣を見た。


「スティール!」


 スキルと同時に、バンの横にあった剣を〈スティール〉を使用し回収。


 強く握りしめ、剣先をオークに向ける。


 オークはいきなり剣が現れたことに一瞬だけ驚き動きを止めた。


 その隙間、それが勝負開始の合図だった。


 バンの扱う剣は自分には少しだけ大きすぎる。


 振り上げたり、大振りには使えない、でも使い道はある。


 腕輪の効果もあるのだろう、オークに向かって一気に駆け寄って行くスピードが早い。


 オークも見た目は子供の人間がここまで早く動けるとは思わなかったのだろう。




 オークは拳を大きく振り上げたその時、スキルの〈威嚇〉を使用。スキル効果で一瞬、ビクッとオークの動きが止まった。


 その瞬間。オークの懐に入り、大きく振り上げた腕の関節目掛けてまたスキルをイメージしながら一突き。


「バッシュ!」


 体重を乗せた剣の一突き、スキルも乗せていたため、オークの振り上げた腕がボトリと切り落とされた。


 衝撃と共に走る激痛、一瞬何をされたのか解らない。

 しかし、腕が切り落とされ、激痛が走りオークは咄嗟にもう片手の腕で傷口を抑える。


 自分は抑えた方の腕にまた〈バッシュ〉のスキルをイメージし一突き入れる!


 今度は腕の神経を切ったのか、ぶらんっとなだれ落ちる残った腕。


 両腕の痛みに声にならない声を出すオーク。


 鼻息を荒くしながらこちらを睨んでいるが、まだ鑑定での状態は瀕死はでてない……いや。


 瀕死の表示が出てきた。


 恐らくだが腕からの溢れだす大量出血が決め手になったのだろう。


 もしくは自分が来る前に、バンがダメージを与えていたのか、疑問に思ったが考えるのは後にしよう。


 スキルレベルもあげたいので焦らず落ち着いて、先ずは装備品から奪うことにした。


「スティール!」


 よし、鉄のナックルをゲットできた。


 良かった腰蓑が来なくて……。


 自身の装備が突然無くなれば誰でも驚く、それはモンスターも同じことだろう。


 切り落とされた腕につけてあった自身の武器が、敵である自分の手元にあるのだから。


 後はスキルだけでいい。


「スティール!」


《〈崩拳〉を習得しました、経験により〈スティールLv3〉となりました》


崩拳


・種別:アクティブ


相手の体内の内部からダメージを与える拳技、レベルに応じて威力が上がる。


 せっかく取れたスキル、次の戦闘で使用する様なぶっつけ本番はもう止めよう。


 丁度武器となるナックルも手に入れたし……。ちょっと汚い……我慢して右手だけ装備……。


 血を流しすぎたか? さっきから全然動いてないオーク、呼吸は激しいがその場から逃げようともしない?


 自分の死期を感じたのだろうか、よく見たら口はガタガタと、足元がブルブルと震えている。


「すぐこの恐怖を終わらせてやるよ」


 ゆっくりと歩き、オークの前に立つ。


 先程手に入れたばかりのスキルをイメージしながら大きく腕を振った。


「崩拳!」


 パッン!!


 オークの胴体を叩く音があたりに響いた。


 ゆっくりと崩れるようにオークは倒れ、状態は亡骸表示に変わった。


 戦闘が終わり、バンは緊迫とした空気が無くなった事にホッと安堵したのか、ガクリと足元から崩れる。


 マーサは目の前起こった戦闘に唖然として動いていない。


(隠すつもりも無かったから、目の前でスキル使っちゃったけど大丈夫かな……)


「お二人共、大丈夫ですか」


「えぇ……。ありがとうミツさん、おかげで助かったわ。私は大丈夫、でも義兄さんが」


「ごほっ……。すまん俺が不甲斐ないばっかりに」


 口からの吐血、オークとの戦闘でやられたのか。


「ミツ君、ゴホッ! ゴホッ!」


「バンさん!? 大丈夫ですか!」


「あぁ……。肋骨をやられたみたいだな……。もう、俺は駄目だ……」


「義兄さん! 何を言ってるの! しっかりして!」


 弱体/内臓破裂


 バンを鑑定し、状態を確認するとこれはバンの命が危ない。


 直ぐ回復しなければバンが死んでしまうかもしれない。


「マーサさん、バンさんの鎧を脱がせるの手伝ってください!」


「えっ!? どうするの?」


「治します。このままじゃバンさんが危険です」


 バンの鎧を脱がせると、そこにはおびただしいほどの血を流したのか、鎧の下は真っ赤に血に染まっていた。鎧を着てこの状態、恐らくオークの崩拳を食らったのだろう。



 自身のMPを確認すると、レベルが上がったのか、もう0/6ではなかった。

 治療のため、傷口に掌をかざして。


「ヒール」


 白い光が手から出始めた一瞬で血は止まり、見える傷口はなんとか塞がった。

 鑑定して見ると状態が内臓損傷に変わっている、ならもう一度と〈ヒール〉を連続使用。


「ヒール」


 今度は内臓部分中心に治療をしていく。


 みるみるバンの顔色は良くなり、鑑定して見ると弱体は消え、内臓損傷も無くなっていた。


「バンさん、どうですか?」


「おぉ、信じられん……。あれだけの傷が。すまん……、本当に助かった」


「マーサさんにも、あちこちに傷がありますので。ヒール」


《経験により〈ヒールLv2〉となりました》


 やはり最初のレベルアップは早い。

 数回使用すれば上がるみたいだ。


 マーサの怪我はそれほど大きくはなかったが、女性が怪我をしたまま放置はなんか罪悪感に押しつぶされそうだったし、せっかくゲームのプログラマーが頑張って綺麗に作ったNPCを無下にはしたくない。

 それになによりも、レベルが上ったし問題ない。


「ミツさん、ありがとう。本当にありがと!」


「いえ、それより他の村人達も見ないと」


「俺達は大丈夫、バンほどにやられてはないから」


「そうですか、解りました」


 村人を見てみるが、見た感じにあっちこち汚れているけど怪我は無さそうだ。


「ミツさん、さっき言ったけど他のオークはどうしたの?」


「ちゃんと仕留めましたよ」


「一人でかい!? いや……。さっきの戦闘を見たら納得するしかないだろうが……」


 自分の言葉に、目を瞬く二人。


「また不意打ちみたいな物ですけどね、何とか倒せました」


「凄いな、オークといえば冒険者でも苦戦して倒すものなんだがな」


「流石に先程のタイマンでの戦いは焦りましたけどね。きっと運が良かったんですよ」


((((何処が……))))


 笑いながら戦闘の内容を話すも、皆同じことを思ったのだろう、助けてもらった上誰も何も言えない。


「無茶するわ」


「あっ! それと捕まってた人なんですがね。さっきの場所の草かげに寝かせてますので村に連れていきましょう」


「それは俺が連れてくるよ」


「わかりました、案内しますね」


 近づいてくる村人の一人。

 彼もすり傷は見られるが、バンの様に大きな怪我もしてない分動けるのだろう。


「バンさん達は先に村に戻っててください。自分も直ぐに戻ります」


「そうさせてもらうよ」


「お母様にも終わったことを伝えなきゃね」


「はい、ではまた後で」


 少年の背中を二人は見送っていた。


「不思議な子ね……」


「あぁ……。本当にな。成人したての子供がたった一人でオーク討伐。しかも治療術も使えて人を治した後は無欲とは、あの子は英雄になるかもしれんな」


「あら。それなら、スタネット村から英雄が出たことになるのかしら?」


「元から英雄だったらそうはならんがな」


「残念ね。フフッ……」


 二人は少し前には考えれなかったほどの笑顔で村へと足を向け歩き出した。


∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵


 三匹のオークを倒した場所に戻ってきた。


 草かげに隠し寝かせていた女の人はまだ寝ているようだ。


「こっちです」


「この子かい。って、獣人の子じゃないかい?」


 寝ている女の人のフードを外すとそこには獣耳が確かにあった。


 (獣人……。ああ、確かに。頭の上に耳が生えてる)


 更にはヒモかと思っていた後ろから出ていたのは尻尾だったのか。

 人族とか獣人に間に派閥など敵対してるのかなと思い、村人に聞いてみる。


「何か問題でも?」


「いやいや、この辺じゃ珍しいってだけだよ。街だと冒険者にも獣人はいるからね」


「じゃ~、エルフとかドワーフとかもいるんですか?」


「ああ、エルフはおれっち見たことないけど居るみたいだな。ドワーフは街の鍛冶屋にいるぞ」


「へ~、そうなんですね」


 街に行けばいろんな人に会えるかもしれない。


 冒険者か……。その言葉を聞いて少し興味が湧いてきた。


「坊主、それより早く連れて行こうや。オークの血の匂いでモンスターが来るかもしれない」


「そうですね、急ぎましょう」


「しかし、あのオークをまさか坊主一人で倒してしまうとわな」


 周りに倒れているオークの遺体に少し身震いし、その場を離れようとする。


「運が良かったんですよ」


「まっ、倒したことを自慢する奴に比べたら、坊主の返しはおれっちとしても感心するだけだよ」


「そりゃどうもです」


 村人に手伝ってもらい、獣人の女の人?……女の子を村に運ぶことに、その間にオーク五匹倒した自分のステータスがどう変わったのか確認をしとこう。


 村に戻ったらアース病の治療の再開だし。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※


名前 『ミツ』     人族/15歳


ノービス MAX


転職可能 new


鉄の弓or鉄のナックル 盗賊の腕輪


HP ______:21+[5]


MP______ :58/60+[5]


攻撃力___:21+[5]


守備力___ :17+[5]


魔力_____ :40+[5]


素早さ___ :24+[5]


運 _______:29+[5]


※※※※※※※※※※※※※※※※※※


スティール_____:Lv3/10 Level up。


ヒール_________:Lv2/10  Level up。


ハイディング___:Lv1/10  new。


バッシュ_______:Lv1/10  new。


魔力増加_______:Lv1/10  new。


崩拳___________:Lv1/10  new。


スキル合計数12個


※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 ステータスを確認すると【ノービス】のレベルがMAXになっていた。


 転職可能表示が凄く気になるけど、転職条件とかあったのかな?




 〈魔力増加〉スキルのおかげで予想以上にMPが上がってる、これだけあれば村人皆に治療ができるかもしれない。


 このステータスに+(数)はどうやって手に入ったのだろうか?


 解らないことばかり、こんな時こそサポーターのナビがいるんだけど、今は村人と一緒だから後にしよう。


 スキルの数も12個になった、なんかズルしてる気分になる。まっ、自分と似たような人もいると思えば気にしてもしょうがない。


「坊主、もう少しだからな、疲れてるだろうが頑張れよ!」


「えっ?、はっ、はい、大丈夫ですよ」


「そうか、無理はするなよ。今お前に倒れられたら、おれっちは二人抱えて村に帰らないといけないからな。ガハハハハ!」


 ステータス画面見ながら考え事をしてたので無口になっていたせいだろう、自分を気遣ってくれたのか。


 今は疲れはあるが倒れる程ではない。


∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵


 村に戻ると村人が出迎えてくれた。


 アイシャが村の入り口に立っており、自分に気づいたのか大きく手をこちらに振り出した。


「おーい! おーい!」


 小さい手を大きく上げて自分の居場所を知らせるかのように、声をかけているのがよくわかる。


「坊主、取り敢えず村長の所へ行くだろ? この子は空き家があるから、ちゃんとそこに寝かせとくぜ」


「お願いします。ギーラさんにも見てもらいたいので、事情を話したら直ぐに行きますね」


「おう、解った。すまねえが、治癒の方も早めに頼むぜ」


「もちろんです」


「じゃ、頼んだぜ」


 村の人にまだ眠ってる獣人女性をお願いして、自分はアイシャの方へと向かった。


 そこにはギーラとドン夫婦も一緒にいた。


「ミツ坊、無事に帰ってきたかい」


「はい、ギーラさん。村の皆も無事に戻ることができました」


「そうかい……そうかい。話はバンから聞いてるよ、本当にありがとうね。あんたがいなかったら私はまた息子を失うところだったよ……」


「ミツさん! おかえり~。お母さんをモンスターから助けてくれたんでしょ! 私も見たかったな~」


「これアイシャ! そんな危険なことには顔を突っ込まなくてよろしい!」


「でもオークでしょ! 私見たことないけど凄く強いんでしょ」


「は~あ。アイシャの好奇心は悪いことではないんだがね、婆の気苦労も考えておくれ」


「は~い、お婆ちゃん」


 またアイシャは舌をペロっと出し、反省してるのかわからない姿にギーラもこれ以上言おうとしない。 孫が可愛いからの注意なのだから、お小言程度に終わるだろう。


「そう言えばマーサさんとバンさんのお二人は?」


「ああ、マーサ達は一旦家に着替えに帰ったよ。二人とも怪我は無いけど鎧や服がボロボロだったからね」


「そうですか」


 流石に治療魔法じゃ服は直せないから仕方ない。


 なら先にやることやっちゃおうかな。


「ギーラさん、早速ですがアース病の治療の続きをしましょう。それで因みに村人の何人が病気になってるんですか?」


「そうじゃな、それは助かるよ。村人の数は今は赤子から老人まで合わせると50人程度じゃ。その半数はアース病の病に苦しんでおる」


 ギーラから告げられた人数は25人前後。

 ギリギリいけるかもしれない。

 もしMPが足りなかったら貰った青ポーションを使おう。


「じゃ、早速治療始をめましょう」


「しかしな、ミツ坊、お主、オークとの戦いで疲労しとるじゃろ」


 疲労と言われたがそんなには疲れていない。


 それともギーラは自身のMP残量を心配しているのかな? そう言えば、マーサも先程自分のMPの残りを気にしてたな。


 今は大丈夫、レベルが上がって〈魔力増加〉スキルも手に入れ予想以上に自分のMPが増えたから問題はない。


 しかし、いきなりMP増えましたから大丈夫ですとか言って皆に怪しまれないかな? でも、隠してる訳でもないし……。


「大丈夫です、オークを倒してから何だか魔力が溢れる感じなんです」


「そうかい? なら、戻ってきて直ぐに申し訳ないけど、お願いするかね」


 自分の答えにギーラは申し訳なさそうな表情を浮かべ、そのまま言葉を続けた。


「ではサネさんから治療しますね」


「ミツさん、よろしくお願いします」


 名前を呼ばれて一歩前に出る、サネの後にはドンが一緒について立っている。


「キュアクリア!」


 緑色の光がサネを包み込み、弾けるようにパッとその光は消えていく。光が消える時にはサネの先程まで見受けられた息苦しそうな表情はなかった。


 サネを鑑定し、アース病が無くなってることを確認しギーラに診断をお願いする。


「うむ、サネの中の魔力が落ち着いとる。安心しなさい、アース病は綺麗さっぱり無くなっておるよ」


「サネ!」


「あなた!」


 ドンは妻の完治に感極まってサネに口づけをし、サネも旦那と同じ気持ちであろう、喜びに拒むことなくそれを受け入れた。


 しかし、場所を考えて欲しい……。


「「ワォ」」


「これ! 子供の前で何しとるか!」


 確かに、アイシャにはまだ早すぎるだろう。


 ギーラの言葉は全くである。

 自分もいきなりなことに驚いてしまった。


「すっ、すまねぇ……つい」


「ほっ……」


「ミツさん、親父やモネ、サネと俺の家族を助けてくれて本当にありがとう!」


「ありがとうございます!」


「いえ、まだ全てが終わったわけでは無いので」


 ドンとサネは二人揃って深々と頭を下げる。


 二人を見ても、もう大丈夫だろう。

 次の病人のところへ行こう。


「ギーラさん、できればご一緒に回ってもらってもよろしいですか?」


「そうじゃの、私がいれば直ぐには診断できようし」


「じゃ、行きましょう。病状の酷い人から順番に、後すみませんが病人でも動ける人は、広場に集めて頂いてよろしいですか」


「しかし、お主の魔力がもつかの……」


「先程も言いましたけど、魔力の心配は大丈夫ですから」


「うん……。ミツ坊を信じよう」


 ギーラは村の中央へと行き、周りの村人に聞こえるようにと声を張り上げ協力者を集った。


「皆の者! これからアース病の治療を始める。動ける病人は広場に集めよ! 皆でこの病から解き放たれようじゃないか!」


「「「「おうっ!」」」」


「アイシャも呼んでくる!」


 先ずは重症患者のいる家から行こう。


 ギーラと共に早速家々を周り、その場での治療を開始した。村長と同伴の効果もあってか、直ぐにアース病から治ったことを伝えると、病気にかかった人や家族に涙ながら感謝され、続けて治療をおこなった。


「これで大丈夫ですよ」


「村長!」


「うむ………。大丈夫、ちゃんと治っとるよ」


「ありがとうございます、ありがとうございます!」


 重症患者の家は全て終わった。


 本当にギリギリで呼吸している人もいて治るか心配だった。


「ギーラさん今の方で10人目ですけど、もう重症の人はいないんですか?」


「ああ、ミツ坊のおかげで皆助かったよ。後はまだ病状の軽い人だけかね」


 何とか山は越えた感じか。

 ステータスを確認すると、自分のMPも半分切りそうだった。


MP 32/58


 たとえMPが切れてしまっても、貰った青ポーションがある。大丈夫、回復すればこの村の人口を超えた数回復できるから安心だ。


「ミツ坊、魔力は大丈夫かい?、もし体調が苦しいなら以前渡した青ポーション飲んどきなよ」


「はい、もし魔力が無くなったら使わせていただきます。でも、まだ平気ですよ」


「そうか……。しかし、お主は変わった者じゃな……」


「え? そうですか」


「孫を助けたのは確かに偶然じゃろう。しかし、村の人をモンスターから助け、しかもオークを退ける力を持ち、また病から人々を助ける治療術も持っておる。どこを探してもミツ坊、お主の様な者はおらんよ……」


「誰も損してませんからいいことじゃないですか」


 実際自分はレベルも上がってるしスキルも増えていってる。


 お互いWin-Winの関係になってるので問題無いはずだ。


「そうかい……。そうじゃの……。ありがとうよ……」


 目じりに涙を浮かべながら感謝を言うギーラの声は小さかったが、自分の心にしっかりと響いてきた。


 ゲームの中とは言え悪い気はしないな。


「お婆ちゃん! ミツさん! 皆集まったよ!」


 村の中央、大きな声でアイシャが呼んでいる。


 周りには村人によって集められているアース病の症状の軽い人達が今か今かと待っているのが見えた。


 ギーラと共に集まった村人の方へと行き、アース病にかかった人数を確認する。


「15人ですか」


 これなら残ってるMPで補える。大丈夫、問題ない。


「ミツさん、大丈夫だよね……」


「うん、ギリギリ魔力も持ちそうだよ。では皆さん、並んでください、一人一人順番に治療させていただきます。慌てなくてもちゃんと皆さんを治療できますので落ち着いて下さい」


「ミツ坊に治してもらった者は私が診断するからね。ちなみにもうアース病にかかってるのはここに集まってる皆だけだよ。安心して治療を受けなさい」


「「「「「おおおぉぉ!!」」」」」


 歓喜の声と共に我先にと列を作り、並びだす村人。


「では始めます。キュアクリア!」


「おぉ!」


「治っとる!」


「治った!!」


「ママー!」


「ありがたや、ありがたや!」


 そして、スタネット村最後のアース病の一人を治療を終えた。


「キュアクリア!」


《称号『救い人』を獲得しました》


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