第3話 ゲームでありがちな展開


 光がおさまり目を開けると、目の前には自分が知っている風景とは全く違う、緑の草花が広がった場所に立っていた。



「ここがWL……ゲームの世界の中なのか。見た感じ近くには街も村も無さそうだけど」



 辺りを見渡しても今は人の影すら見当たらない。

 空を見上げると鳥っぽい物が飛んでるくらいか。



「あっ、確かボーナスが貰えたんだっけ? 何が貰えたのか早速調べないと。えーっと……どうやって調べるんだ? 手元に何も無いんだけど?」


 サポーターはゲームが始まれば手元にあると言っていたはずなのに、自分の周りを見てもアイテムらしい物は何も無い。


「貰えなかったのか、それともいきなりバグか?」


 そう思ってると目の前には文章が表示され、先程は無かった女性の声が耳に聞こえてきた。


 その声は正にウグイス嬢のように透き通るような綺麗な声だった。


《ミツ様。ボーナスをお探しのようですが、既にボーナスは受取済みとなっております》


 いきなり声が聞こえたことに少し驚きはしたが、通信表示はゲームの中ではあるあるなので、直ぐに適応することができた。


「おっー、音声ボイスが付いたのか。それよりも貰ってる?  何にも無いけど?」


 自分が探してる事に対して、直ぐにサポートの声が来てくれたのは嬉しいが、何を受け取ったのかが解らない


《今回のランダムにて配布されましたボーナスは武器や防具、またはアイテムではありません。ミツ様にはスキルが配布されました。ですので、手元にはなにもありません》


 なんと! 物だと思っていたが、まさかのスキルまで配布対象になっているとは。

 スキルは3つまでしか貰えないのに、1つ増えるだけでも凄く運が良いのでは無いだろうか?


「本当に!? 何のスキル手に入ったの!」


《ステータス画面をイメージで出して下さい。その項目にスキルが御座います、そこにミツ様が今使えるスキルが表示されております》


「イメージするだけでいいの?」


《はい》


 説明通りにやってみたら目の前にステータスウィンドウが現れた。


名前 『ミツ』     人族/15歳。


ノービス Lv1。


HP :12

MP :0

攻撃力_______:12

守備力_______:8

魔力_________:0

素早さ_______:6

運___________:11


アイテム/魔法/スキル


 ゲーム始めのステータスなんてこんなもんだ。


 アイテム一覧の中に入っていた物。

 今の体では両手に持つ程の大きさのナイフと、結構な量の食料が入っていた。

 初期の武器はナイフでスタートみたいだな。

 魔法は勿論覚えてないから空欄のカラッポっと、それよりスキルだよ。


※※※※※※※※※※※※※※※※

フクロウの目____________Lv1/10 new

一点集中_______________Lv1/10 new

潜伏__________________Lv1/10 new

スティール_____________Lv1/10 new

※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「上の3つが選んだスキルだね。そして、下のがボーナスで増えたスキルかな。スティール(盗む)とか、何だこれ気になるけど、最初の選んだ3つのスキル説明が欲しいな」


《確認できましたでしょうか》


「うん、大丈夫あったよ。スキルの説明とか鑑定だっけ、どうやって使うの?」


《鑑定もイメージで使用可能となります》


 言われるまま目の前のスキル画面を見ながら鑑定をイメージしてみた。


フクロウの目

・種別:パッシブ

弓使用時の攻撃力と命中率をレベルに応じてUPさせる。


潜伏

・種別:パッシブ

敵から発見されにくくなる。レベルに応じて自身の発見率が低くなっていく。


一点集中

・種別:アクティブ

弓使用時、狙った場所に当たりやすくなる、レベルに応じて命中と威力が上がる。


スティール

・種別:アクティブ

相手の持っている物又は、目に見えている物を盗む事ができる、レベルに応じて盗める確率が上がっていく。


 選んだ3つは予想していた物に近かった。

 アクティブとパッシブの違いって何だろうと思っていたら直ぐに説明がきた。


《アクティブスキルは使用時にイメージして下さい、パッシブスキルは自動で発動しております》


「なるほど、自分の意志で発動させれるのね。しかし、スティールって盗賊コースじゃん」


《【盗賊】(シーフ)になりますか?》


「嫌、ならないよ」


 始めていきなり転職を進められるとか思っても見なかった。

 しかし、せめて攻撃スキルが良かったんだけど、仕方ない文句は言うまい。

 普通は無い物なんだから、貰えただけでも今は感謝しておくことにした。


 ちなみに、装備品はアイテムボックスに入っていたナイフと今着ているボロい村人のような服だけ。

 なので弓を所持していない今は、持っている戦闘スキルが一つも使えない。

 確認も一通り終わったし、そろそろ動くことにした。


「近くに村とかないの?」


《……》


「あれ? おーい聞こえてないの?」


《……》


「その辺はサポートしてくれないのか? しかたない、攻略本片手にゲームもつまらないし自分で探すかな」


 取り敢えず少し先に森が見える場所に行こう。

 今は周りに誰もいないけど、ナイフ片手に草原に突っ立ている人なんて絶対怪しまれる。

 そう思いながらも森に入っていきなり敵と遭遇したら危険なのでナイフは手に持つことにした。

 森の手前に来て思った。

 これって逆に危ないんじゃないか? 

 考えたら森なんてモンスターの住処みたいなものだ。

 そう思い回れ右して人里を探そうとしたその時だった。


「……か……す……けて……」


「ん? 何か声が」


 かすかに森の中から声が聞こえたような気がした。


「誰かー! 助けて」


 聞こえた! 悲鳴にも似た、助けを求める声だ。


 急いで声のする方へ草木を掻き分けて走り向かった。

 声の主も移動してるみたいで、声が最初のしていた場所とは別の場からまた声が聞こえた。



「誰か! お願い、たすけてー!」


 ギーギー ギャーギャー


 さっきとはまた別の声も近くで聞こえた。

 どうも助けを求めた声の主は何かに襲われてるようだ。


 声か聞こえる方へと近づいてみる。

 するとそこにはオレンジ色の髪の毛をしたポニーテールの女の子が一人。

 また別に上半身は裸、下半身はボロ切れのような布を巻いた二匹の生き物に土壁へと追い込まれていた。



「来ないで! こっち来たらしょうちしないわよ!」



 近くに住む人なのであろうか、山菜カゴが少女の足元に、その中に中に入っていたと思われる草花がカゴと一緒に転がっている。


 女の子はその辺にあったであろう木の棒を両手に持ち、怯えながらも威嚇しながら二匹へと棒先を向けていた。


 それを見た二匹の生き物は、お互いの顔を見合わせケラケラと笑うような感じで女の子をまた見ていた。


 ケッカケッカ ギャッギャッギャッ



 うん、明らかにありきたりな流れである。

 村人がモンスターに襲われるところを助けると言う正にテンプレの様なながれ。


 だとすると女の子を襲っているのはゴブリンではないか? そう思うのはファンタジーゲームの世界では、初期に出てくるモンスターはスライムかゴブリンである可能性が高いからだ。



 女の子の前にいる二匹のモンスターを観察していると、突然目の前に鑑定画面が出てきた。



ゴブリンファイター

Lv2 ゴブリン族

木の棍棒 ゴブリンの服

叩きつけ Lv1



ゴブリンアーチャー

Lv2 ゴブリン族

枝の弓 ゴブリンの服

狙うLv1



 突然目の前にモンスターの情報が現れた。が、これはゲームあるあるなので驚くことは無い。


 なるほど、モンスターも鑑定できるのか。

 これは便利だ。

 これで強い敵と出くわした時は逃げることができる。

 そんなことを考えてると状況が動き出した。

 ゴブリンアーチャーが女の子にニヤニヤと下卑た笑いをしながら女の子との距離をジワジワと縮めている。


「来ないで! 来ないで!!」


 彼女は持ってる木の棒を左右にブンブンと振り回して近付けないようにしてるが、ゴブリンは持っている弓で木の棒を簡単に跳ね除けてしまった。

 それと同時に跳ね除けた衝撃で女の子が大きく尻もちをついてしまった。

 その瞬間を逃すまいと、ゴブリンアーチャーが女の子に近付き、後ろにまわり両手を抑えて羽交い締め状態にしたのだ。


「嫌! 止めて! 離して!」


 女の子は必死に抵抗するにも、自身の力では解くことができないみたいだ。


 ギギー ギョギョ


 更にもう一匹のゴブリンファイターも近づき、女の子の両足に乗り完全に女の子を動けないようにしてしまった。


 流石にこれ以上はいけない。

 見てないで助けに行かなければ。


「しかし、武器のナイフ一つでゴブリン二匹を倒せるのか?」


 敵のレベルは2。

 最初のモンスターだけに無理なく勝てると思うが、初めての戦闘にナイフ一つではやはり不安である。

 しかし、このまま見過ごすわけにもいけない。


 フッと見ると、ゴブリンアーチャーの足元に弓が落ちていることに気づいた。

 女の子の両手を抑える為に武器から手を放したのだろう。


「今ならできるかもしれない」


 そう思いながらもスキルの〈スティール〉を試す事にした


「スティール!」


 自分はイメージしながら弓と矢に対して〈スティール〉を発動。


 一瞬にして手元に先程ゴブリンの足元にあった弓と矢の両方が手元に瞬間移動してきた。


「できた! よし、これで戦える」


 幸い、弓と矢が無くなったことにはゴブリンアーチャーは女の子に夢中で気づいてはいない。


 ならば先に倒すはゴブリンファイター。


 こいつを倒してしまえば、もう一匹は裸同然。


 盗んだ弓を構えて、ゴブリンファイターに狙いをつける。


 勿論〈一点集中〉スキルをイメージしながら狙うはヘッドショット。


 一度で仕留められないと、こちらに気づいて二匹でこちらに襲ってきてしまう。

 それは避けなければ。


「そのまま、動くなよ……」


 放たれた矢は真っ直ぐにファイターに向かって行った。


 そして、運よく狙い通りゴブリンの頭に命中。


 苦痛の声を少し出すゴブリン。

 その場にバタンと倒れ、ファイターを仕留める事ができた。


 ギャヒッ ギャッ!


「えっ!」


 彼女さ無理やり抑えられていた足の痛みが軽くなり、目の前のゴブリンがいきなり倒れてしまったことに女の子は驚いた。


 それ以上に目の前で仲間の頭が射抜かれて驚いたゴブリンアーチャー。

 敵が来たと直ぐに理解したのか、弓を構えようとしたが置いてるはずの弓が何処にも無いことに更に焦りを出していた。


 今がチャンスと、女の子を助けるため草むらから一気にかけ出た。


 ゴブリンアーチャーは自分に気づくも対応する武器が無い。

 自分は構えていたナイフを落とさない様にと力いっぱい両手に持ち、ゴブリンの心臓目掛けて一突き!


 ギャッー!


 ドスリと強い衝撃を自身の体に受け、その後刺されたことに断末魔を上げながら倒れていくゴブリンアーチャー。


 地面に倒れた後もビクビクと何度かの痙攣を見せ、その後直ぐに動きを止めたゴブリンアーチャーだった。


 自分は刺さったナイフを抜き取り、その時ヌルリとした感触が感じられたのはあまり良いものでは無い事を忘れない。


 念の為にゴブリンファイターも死んでるかを確認する。

 流石に頭撃ち抜かれて生きてたらモンスターだよ。

 あっ、モンスターか。


「大丈夫、何とか二匹とも倒せたみたいだ」


 女の子の方を見るといきなりのことで驚いたのか、女の子は少々放心状態となっていた。


「おーい大丈夫? 怪我とかしてない?」


「はっ! えっ、あの、えーと。助けて頂きありがとうございます! ホントにホントにホントにありがとうございます!」


 女の子は地面に頭をぶつけるような勢いで、感謝の言葉と一緒に何度も頭を下げてきた。


「いえいえ無事で良かったよ、怪我とかは無さそうだね、歩ける?」


「はい! 大丈夫です。あっちこっち押さえられて痛かったけど、怪我はありません」


 怪我が無いことを告げる女の子は、すっと立ち上がり改めて頭を下げてお礼を言ってきた。


「君この辺の子? 近くに街や村があるのかな」


「はい、あっ、私アイシャ! 街は少し離れていますけど、私が住んでいるスタネット村がこの森の抜けた先にあります」


「そうなんだね、自分の名前はミツ、君もプレイヤーなの? それにしても一人で森の中に入るなんて危ないよ」


 お互いに名乗ったところでアイシャが森に一人で入ってた理由を聞いてみた。


「プレイヤーって何ですか? 私はお母さんのお薬になる薬草を探しに来たんです」


「えっ、プレイヤーじゃないの?」


 プレイヤーじゃない、となるとNPCなのかな。

 それにしてもリアルにできてるな……。

 体の作りが子供とは思えない、特に胸部分が……。

 ゲームと言う物は基本、NPCの作りにはそれ程力は入れない。

 それはプレイヤーが基本見るのは他のプレイヤーの姿がほとんどだからだ。

 NPCなどの非戦闘キャラの衣装などにこだわってはゲームの運営側には手間にしかならない。

 プレイヤーキャラクターの衣装などのグラフィックに力を出したほうが運営もガチャなどの利益に繋げることができる。

 なので目の前にいる女の子の様に髪の毛から足の先まで細かく作られたと自分はこのゲームを関心していたのだ。


「そうなんだ。ところでその薬草集めは他の人に頼めたりできなかったの?」


「探索依頼を出せば安全に手に入るんですけど、私の家貧乏だから依頼料払えなくて……。家からも近いから一人で何度か集めに来てたし、その方がお金もかからないから……」


 いきなり地雷発言をしてしまったらしい。

 理由を話しながらも少しづつアイシャの声のトーンが下がっていくのがわかってしまった。


「ごめんね、理由も知らずに野暮なこと聞いちゃって」


 直ぐに謝罪の言葉を入れ、変な空気を無くすようにした。

 アイシャは両手を振りながら、自分の謝罪を受け入れてくれたみたいだ。


「いえ! ミツさんのおかげでモンスターからも襲われずに済んだのでホントに感謝してます。改めて本当にありがとうございました!」


 アイシャは少し緊張がほぐれたのか、先程までの恐怖と罪悪感で俯きかけてた顔を上げてお礼を言いながら笑顔になってくれた。


「ミツさんは村に何かご予定で行かれるんですか?」


「いや、目的は無いんだけど。取り敢えず人里に行こうかと思ってて」



「そうなんですか! じゃ私の家に来てください! お礼もしたいですし、先程も言いましたが私の家貧乏なので、家は小さいですけど何かお礼をさせて下さい」


「いやいや、そこまでして貰うのも申し訳ないよ」


「そんな! 命の恩人に言葉だけのお礼だけなんて、私がお母さんに怒られちゃいます」



 成り行きでゴブリンから命を助けたとはいえ、凄い勢いで感謝されるとは思っていなかったので少しだけたじろいてしまった自分に、アイシャはまた見てわかる程にテンションが下っていくのが解った。



「解った解った、ならお茶をご馳走になろうかな」


 もしかしたらイベントかもしれないし、上位のランカー目指すなら小さなイベントもこなして行かないと行けないし。


「本当ですか! じゃー、早速行きましょう」


「薬草の採取はもう大丈夫?」


「はい、十分とりましたから」


「なら大丈夫だね、行こうか」


「はい!」


 初めてのモンスター退治を成功させて、無事に女の子を助けると言う。

 正にイベントに発展しそうな展開に乗りながら次に行くは初の村。

 ゲームならそこでもイベントが起きることを考えながら、アイシャの道案内のもとにスタネット村へと足を運ぶ事になった


《……頑張って下さいね》

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