第43話

 中西は真田とスナックに行った次の月曜日、自分の仕事を早めに済ませると、真田が言うところのエリアAに向かった。

 中西がそこまでした理由は特別なものではなく、ただ新しい情報を真田に提供すれば喜んでもらえると思ったのと、一緒に酒を飲んだ時にこの話題で盛り上がればいいというくらいの気持しかなかった。

 赤レンガ倉庫の近くで車を降りた中西だったが、偵察していたのを運悪く見つかってしまったのだ。その時落としたのが、真田の作業着に入っているダンヒルのタイピンだった。

 会社の名前の入った車をそのままにしておけないと思った彼らは、すぐさま横浜の『こどもの国』近くに放置した。

 そのまま倉庫内に監禁された中西は、その2日後手術台の上に載せられ、まるで精肉工場を見るかのように簡単に四肢を切断された。

 普通に考えたら、邪魔者はすぐに消すのが当たり前なのだが、彼らには臓器を摘出する以前にある目的があった。

 その目的というのは、最近ちからを入れている研究の中に、義手と義足の開発があった。だがひと口にそれらの開発と言っても、そう容易く実験台となる人間が見つかるものではない。そんな時たまたま夏虫のように飛び込んだのが中西だったというわけだ。

 彼らにしてみれば中西は人間ではなく、実験材料でしかない。だからいつ殺されてもおかしくない状況に置かれている中西は、恐怖で気がおかしくなりそうになったが、必ず助けてもらえる、と闇の中に置かれながらも持ち前のプラス思考で耐え続けた。


「すぐここから出してやるから、もう少し我慢できるか?」

 真田は歩くことができない中西をいま連れ戻すわけにはいかない。ここは警察に連絡をしたほうがいいと思い、胸のポケットから携帯を取り出した時、メールの届いているのに気づいた。妻の恵理子からだった。そう言えば、ここに来る途中で電話を入れたものの、連絡を取れずじまいであれからすっかり忘れていた。

 メールを開いてみると、その文章は恵理子からのものではなく、恵理子の携帯を利用して真田に送りつけてきたものであった。

《 いまおまえの女房と子供ふたりを預かっている。

  なぜそうなったかは自分の胸に訊くといい。

  そうだ、やっとわかったか。

 おまえはあまりにも日本臓器製造株式会社についてあまりにも知り過ぎた。

 それと虚偽の書類を作成して日本臓器製造株式会社というものを冒涜した。それはおまえもよく知っているはずだ。

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