第14話

「そうだったんですか。でも、あの会社を紹介されたと言われましたが、あそこでは臓器を斡旋するといった業務をしているんでしょうか?」

 真田は老人の話に気が行って、あれだけ好きなタバコを喫うのを忘れている。

「まあそういったところですかな」

 老人は新しいコーヒーをひと口啜った。

「それって、誰でも斡旋を受けることは可能ですか?」

「詳しいことはわかりませんが、確かそのはずです」

 カップをソーサーに戻しながら言った。

「でも、斡旋してもらうには何らかの条件があるのでしょうね」

真田が訊ねると、老人は上着の袖を捲って腕時計を覗き、

「うーん、それはここで話すことはできません。もうええでしょうか? 家内のところに行かなきゃならんので」と、腰を上げかけた。

「すいません。最後にあそこの電話番号だけ教えてくれませんか?」

 老人は、しかたないなといった顔で胸のポケットからメモを取り出すと、

「ええと、5418の98××です」と、伝えた。

「お忙しいところありがとうございました。大変助かりました」

 真田は手帳に書き記したあと、ソファーに坐ったまま丁寧に頭を下げた。

「今度はわしのほうからひとつ訊ねてもええですか?」

「はあ、何でしょう?」

「あんたさっき、あそこの会社に営業に行きたいから内情を教えて欲しいと言いなさったな」

「はい、確かにそう言いましたが、それが何か?」

「いやね、先週はじめてお会いした時、真田さんは私の家まで来ると言いなさった。たった1軒の会社にセールスに行くのになぜそこまでせんといかんのかと不思議に思いましてね」

 老人は老眼鏡をかけたまま上目遣いに、意味ありげな視線で真田を見た。

「――じつはですね、昨今ご存知のように百年に一度と言う経済危機に見舞われまして、まあどこの会社も同じでしょうけれど、これまでどおりのことをやっていたんでは、営業成績が上がらないんです。そこで自分なりに考えてそこまで行動してみようと思ったんです」

 真田は老人の言葉に一瞬たじろぎを見せたが、何とか辻褄を合わせた。

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