第4話 第一術式 〜大消滅〜

「やめろ……」



ホムロンが絶望的な表情で生徒を見つめるキメラに掠れた声で願った。



「グオォオオオオオ!!」



キメラの興味は完全に生徒達に向かい、地響きのようなうなり声ををあげると二階にある生徒の部屋まで飛びかかろうとした。



「やめろぉおおお!!植物の精よ!我が敵を拘束せよ!レスト!」



大地から植物のツタが何十本と飛び出し、飛びかかるキメラの足を拘束した。


急に慣性を止められ地面に墜落するキメラ。


凄まじい地響きと砂煙が舞う。



「はぁ……はぁ……ざまぁみろ」



次の瞬間、土煙から蛇の頭が凄まじい速度で飛び出し、ホムロンを突き飛ばした。



「っ!がはっ!!」



突き飛ばされたホムロンは地面に身体を何度も打ちつけながら止まった。


そして口から血を吐き出した。


キメラの関心はなんとか生徒達から、自分に切り替わったことに安堵したホムロンの意識は、ここで薄れていった。






「……どうすんだよ……先生やられちまったぞ」


「もうだめだ……だめなんだ……」


「あはっ……あひゃひゃ……」



教室は絶望に染まっていた。


そして誰よりも深く絶望したのがアリムだった。



「先生は自分の応援のせいでああなった」



死を覚悟した時以上の胸の苦しみに、アリムは心臓を抉り取って捨ててしまいたいとさえ思った。



「助けなきゃ……先生を……」


「は?お前何言って……」



アリムはクラスメイトが話しかけるのも無視して教室を駆け出していった。


教室を飛び出したアリムはどこかで「このままここにいれば。先生を見捨てて待てばたすかるかも知れない」という考えと「先生を見捨てるなら死んだほうがマシだ」という考えが交錯していた。


朝出かけた時のミリムの優しげな表情や幼い頃亡くなったおぼろげな父親の顔、そしてホムロンの優しげな表情が走馬灯のようにアリムの脳裏を駆け巡った。


アリムは「魔法なんか使えなくったっていい。自分はこんなに大切な思い出がいっぱい有るのだから」という思いに満たされた。


そして校舎入り口に差し掛かったその時。


ホムロンに食らいつこうとするキメラの姿を確認したアリム。



「やめろっ!」



アリムは近くにあった石を思いっきりキメラに向かって投げた。


石はコツンとキメラのヤギ頭に当たり地面に転げ落ちた。



「グルゥ?」



キメラがアリムの方へ振り向いた。


待望の食事を邪魔された事でかなり不機嫌そうな表情のキメラ。



「グオォオオオオオ!!!」



地を揺るがすうなり声でアリムの石に答えた。



「そうだ。お前の相手は僕だ!」



キメラの殺意を一身に受け、足とは震え、涙は止まらなかったが、同時にとどまる事を知らない胸に渦巻く勇気がアリムをそこに立たせ続けた。



『その勇気こそ貴方を選んだ理由です』


「!!あぎっ!」



どこかで聞いた声が聞こえた瞬間、アリムは凄まじい頭痛に襲われた。



「そ……背いたる……」



左手で頭を抑えつつアリムは右手を掲げ、脳裏に浮かぶ言葉を詠唱し始める。



「つ、罪はこの手で払われん」



抑えていた頭髪が銀に輝き、その眼光は真紅に染まった。


周囲に魔力の異常な集合が始まったのを、その特殊な眼で感じ取ったキメラは大慌てでアリムに襲いかかった。



「第一術式……」



キメラがアリムに飛びかかる。



「ロストォオオォ!」



アリムの頭部にキメラの牙が届こうとした時、天上から高速で光の衝撃波がキメラとアリムを包んだ。


次の瞬間、キメラが灰のような物体になり凄まじい煙を上げた。



「っ……何が起きて……」


「あ、ホムロン先生が目をさましましたよ!」


「よかった……でも見てください……アレは一体……」



ホムロンが意識を取り戻すとそれを抱えていた女性教員と男性教員が安堵した。


しかしそれ以上に二人は何かに眼を奪われていることに気づいたホムロンは問いかけた。



「なんなんですかこの光は……どんな大魔導士の……!!」



魔法の範囲、威力は圧縮しない限りは見たままの物なのだが、この魔法は今までのどんな魔法よりも強大だった。


そして何よりもホムロンが驚愕したのはそれを行使したのが煙の向こうから現れた、銀髪紅眼のアリムだった事である。



「っはぁっ!はあっ……はあっ……粉っぽいし……中で息しなくて良かったー……ってなんだこの髪!?」



煙の中から出てきたアリムは自身の変化に驚いた。



「すげーじゃねーか!お前何処のクラスだよ!?A組にあんな奴居たっけ?」



教室の窓からそんな声が聞こえたアリムは窓を見上げた。


学校中の生徒が窓から身を乗り出し、自分に向かって「すごい」「誰だ」などといった声がかけられていた。



「ぼ、僕は落ちこぼれクラスのアリムです!」


「ばっきゃろー!こんな大魔法使える奴が落ちこぼれな訳あるか!ともかく今回は助かった!ありがとう!」


「「「ありがとーー!!」」」


「は……ははは」



アリムが正直に伝えても聞く耳を持たないので彼はとりあえず手でも振っておくことにした。



「あの子にあんな力が……凄いですねホムロン先生!」


「は、はぁ」


「でもあんな力があるならもっと早く来てくれてれば……」


「……」



喜ぶ女性教員に対し苦笑いで返すホムロン。


しかし男性教員が不満を漏らしているのをホムロンは見逃さなかった。






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