第8話 祭りの後は恒例となった部屋割り争奪戦

 そして一時間半くらい歩いたであろうか。四人は城の前に到着した。

「いやー、結構時間かかったな。遠近法なのかな。近くに見えたけど、めちゃくちゃ大変じゃん。

 まあ、確かに近くに来ると城の大きさに目を見張るものがあるが。」

 比呂貴が感想を漏らす。


「ロキよ。なんかあっちで並んでいる列があるぞ!」

 到着早々ファテマは並んでいる列が気になったようだ。

「なんだろうね? ちょっと聞いてみるか。」

 比呂貴はそう言って並んでいる人を捕まえて聞いてみる。


「すいません。これは何を並んでるんですか?」

「なんだい、知らないのか?

 城の横に議事堂があるんだよ。エンデルの政治が行われている中心地だ。祭りの期間はそこが一般に公開されるんだよ。恒例行事だ。」

「なるほど。ありがとう!」


 で、ファテマを見ると、目をキラキラに輝かせてモフモフ尻尾を振っている。こうしてみると本当にわんこのようである。これは可愛すぎる。

「じゃあ、覗いてみるか?」

 比呂貴は期待に応えてファテマに言う。

「ふむふむ!」

 ファテマはキラキラの眼差しでそのままで頷く。他のみんなも特に反対する理由はないので議事堂を見学することにした。


 そして三十分くらい並んで比呂貴たちも中に入れた。順路に沿って歩いていく。要所には係りの人がいて説明をしてくれたりしていた。

『議事堂って言うから、日本の国会議事堂をイメージしていたけど、そんなことはなかった。どちらかと言うとコンサートホールに近いイメージだな。

 正面は舞台になってるし、そこに一つ椅子と机があるから議長が座るのかな? その舞台の端には豪華な椅子が何個か置いてあるから、そこに国王が座るのかな?


 一階はひたすら座席になっているから議員に相当する人が座るんだろうね。二階と三階もあって、そこもそこそこ豪華な椅子と周りも装飾されているから高い爵位の人が座るんだろうね。

 確かに王国制で身分もあるだろうからこの造りの方が良いんだろう。納得だわ。』

 比呂貴は建物の分析を行っていた。一方ファテマはただただきらびやかな建物に感動をしているようである。


 四人は議事堂の見学の後も祭りの出店などを満喫していた。

「いやー、楽しい時間はあっという間に終わってしまうな。もう日が暮れようとしておるわ。」

 ファテマがしみじみと寂しそうに言う。でも、顔は満足そうである。

「そうね。なんだかんだ私も楽しんじゃったわ!

 でも、そろそろ今日泊まる宿を探さないとね。昨日泊まったのはチェックアウトしちゃったから。」

 レイムが答えた。


 そしてちょうど馬車の定期便がある停留所らしきところに来ていた。祭りのためにすべてが臨時便になっていたが、その中に西の宿屋街行という馬車があったのでみんなでそれに乗った。

 そして宿屋街に到着する。ドルクマン王国の宿屋街も賑やかだったが、こちらの宿屋街も当然賑やかだ。特に祭りでもある。

 そんな中、いくつか回ってようやくツインの部屋を二部屋借りることができた。さて、またまた部屋割り争奪戦の勃発である。


「ねえねえ。部屋割りはどうする?」

 相変わらずもはや下心を隠していないレイムがニコニコ顔で聞いてくる。

「いや、普通に私とお姉ちゃん。レイムとロキでしょ?」

 アイリスが冷たく答える。レイムに対しては当然ゴミを見る目である。

 それにも負けずにレイムは目をギラつかせて言う。

「毎回そればっかりじゃ芸がないじゃない? 今日は、公平にくじ引きで決めましょうよ!」

 そう言ってレイムは4枚のカードを出す。エースとジョーカーでペアになっている。


「ええぇ。そんなこと言ってレイムってばイカさまするんじゃないの?」

 アイリスは全く信用していない。

「じゃあ、私はあらかじめジョーカーを持っているから、あとは三人で引きなよ!

 これなら目に見えてるから公平でしょ?」

「そんなこと言って、カードを引くときに絵柄を変えるとか卑怯なことしない?」

 アイリスはさらに疑いを掛ける。ホントの本当に一ミリも信用していないようである。


「うううぅ。アイリスたんからの信用度ゼロね。でも安心してよ。私が魔法下手くそなの知ってるでしょ?

 そんな器用なこと出来ないわよ。」

「うん。確かにその通りね。」

 アイリスは腑に落ちて納得してしまった。

「えええ。そこで納得されちゃうのもちょっと傷つくんだけど。じゃあ、残り三枚をロキが混ぜてよ。」


 そして言われるがままカードをシャッフルする比呂貴。

「ふむ。たまにはこういう余興も楽しいな。儂はレイムに乗るぞ!」

 そしてカードを引いてめくるファテマ。



『ジョーカー』



「うっそーーーーん。ファテマちゃん!? ここでそれ引いちゃう?」

 そう言ってその場で崩れながらヘナヘナしゃがんでいくレイムであった。

「あ、いやさ。ファテマちゃんが嫌ってことじゃないんだよ。むしろファテマちゃんも大好きだし、いやでもさ、ここはやっぱりアイリスちゃんとね、そういうのあるじゃん。」

 さらにブツブツと呪文のように呟くレイムであった。


 その状況を見て、もちろんのこと比呂貴とアイリスは大爆笑していた。

 そんなレイムに対してアイリスは言う。

「あーあ、ホントに文字通り大爆笑しちゃったわ。こんなに大声出して笑ったのいつ振りかしらね。

 レイム! あなたって気持ち悪いんだけど、でもこういうところは大好きよ!」

「あ、アイリスちゃーーん!」

 そう言ってレイムはアイリスに抱きつこうとするが、華麗にかわすアイリスであった。


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