第10話 因縁編②

 ユニコーン達が体制を整えているときにダークエルフが五名やってきた。そのうちの一人がその辺にいるユニコーンに話しかける。

「私はダークエルフのリーダーを務めさせて頂いております。ユニコーンのリーダーに取り次いで頂きたい。」


 そしてユニコーンのリーダーが陣をとっている場所へ案内された。

「自己紹介としては先ほどの通り。今回は停戦、降伏の最後通告として私自らやってきた次第。

 我々としてはユニコーン族の女、子供含め一人残さず全滅させる準備は整っているんですよ。これははったりや脅しなどではなく単純に事実として伝えているだけ。

 しかしながら、我々としてもそんなことは望んでおらず、少しでも穏便に事が済むのであればそれが良いと思うわけです。


 先ほども言いましたが、私が直接来たということでこれが最後のご提案となります。今回も拒否されるということであれば、我々としても粛々と対応させて頂くしかありません。

 一応、ユニコーンの方たちも善戦されていましたので、それなりの条件を持ってきたつもりです。」


 ユニコーンのリーダーはダークエルフの言葉に対して考え込んでいる様子である。その隣には参謀兼後方支援をするために妻もいた。

 そしてユニコーンのリーダーは重苦しくも言葉を出す。

「で、その条件と言うのを聞こうではないか。」

「おお!

 今までの使者たちは、ほぼ門前払いと同じような扱いを受けてきたというのに。これはすごい進歩ではありませんか!」

「ご託は良いので、話を進めて頂きたい。」

 ユニコーンのリーダーは苦虫を噛むように話を促す。


「おっと、これは失礼!

 それでは早速条件の提示を致しましょう。我々からのご提案は、今後のユニコーン族への不可侵をお約束します。もちろん、皆さんを蹂躙(じゅうりん)したりということはありません。ダークエルフのリーダーたる私に誓ってお約束します。


 ユニコーンの皆さんからは次のものをご準備ください。

 現在のお住まいの明け渡しと現在保有する財産となるものすべて。

 あ、だからといって、我々の軍門に下って国の一部になれということは無いのでご安心ください。

 我々も他種族を交えての連合国を作るなんてことは考えておりませんので。


 それとそちらにいらっしゃるリーダーの奥様と私との婚姻。

 噂通りとてもお美しいですね。私としても妻に先立たれておりまして寂しい思いをしておりましたので本当に光栄です。

 まあ、これは体の良い人質ではないか? とおっしゃるかもしれませんが、どのように捉えて貰っても構いません。


 そして最後に、リーダーのあなたのお命。


 我々としてもひとり犠牲者が出ましたので村の中の強硬派がうるさく、この条件が出てきてしまったのです。私ももう少し穏便にならないものかと交渉したのですがダメでした。ご了承頂きたい。

 ただ、命の差出しについてはそちらの尊厳のあるやり方で結構です。私としてはこれまでのユニコーンのみなさんの奮闘には敬意を持っておるんですよ。」


 そしてダークエルフは言葉を収めた。一瞬周りの空気が固まる。

 ダークエルフからの提示は予想以上に厳しいもので、実質的には人質を差し出しての無条件降伏と民族の追放、そして、


 ユニコーンのリーダーの命………。


「そんな条件受けられるか!」

「そうだそうだ! そんなのは屈辱でしかないぞ!」

「最後の一人になっても戦うぞ!」

 同じ席にいたユニコーン族の幹部たちも口を揃えて野次を飛ばす。また、他のユニコーンの幹部はボソボソと会話をしているものもいる。


 ダークエルフのリーダーはその状況を見て、やれやれと言った形でその場所を後にしようと反転する。

「待たれよ。ダークエルフの代表者よ。」

 それをユニコーンのリーダーが引き留めた。

「もう一度確認をするが、私の命と引き換えに皆は全員助かるということで良いのだな?」

「ああ、もちろん。それは私に誓ってお約束しよう。奥様に関しても正妻として迎えるつもりだ。」


 ユニコーンのリーダーは目を瞑り(つむり)大きく深呼吸をする。そして目を開き妻の方を見る。

 リーダーの妻は一度大きく頷いた。

 その後、ダークエルフのほうを見て意を決して言葉を発する。

「わかった。その条件を呑もう。」

 その言葉に他のユニコーン達がざわめき立つ。それをリーダーが諫める(いさめる)。


「私の不徳により無残に散っていったもの達には本当に申し訳ない。しかし、お前たちにも親や子がいるだろう。私にだって娘がいる。そんな者達が無残に命を散らすことはなかろう。

 どのみち、私はこの散々たる結果の責任を取らねばならん。それをこの命で償えるのなら光栄なことである。

 皆よ。私にけじめを取らせてくれ。」

 このリーダーの言葉に他のユニコーン達の皆はすすり泣き、涙で顔がぐちゃぐちゃになっていた。

リーダーがいかに徳が高く、皆から愛されていることがわかる光景であった。


 そんなユニコーン達は置いておき、ユニコーンのリーダーは話を続ける。

「しかし、私からもひとつ条件、いや、単にお願いを聞いて貰いたい。」

「伺いましょうか?」

「私の命の差出しにひと月の猶予を頂きたい。土地の引き渡しに準備がいるのと、今後の村のことを整えたいのだ。

 それと娘にも最後に会っておきたい。」


「ふむ。なるほど。良いでしょう。

 私も先ほど、ユニコーンの皆さんには敬意を払っていると言ったばかりですからね。これに嘘偽りはありません。

 では、一月後にここでお命を頂くことに致しましょう。」

「うむ。ご厚意に感謝する。」


 こうして長きにわたって続いてきたユニコーン族とダークエルフ族のいざこざは終結したのであった。


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