アイリス編

第1話 アイリスたんの登場です!

 ここは小さな宿屋街。ユニコーンの背中に乗ってきたので知ったのだが、大きな人族の国と国の間の要港となる場所のようだ。

 小さな町と言っても国に比べたらということであって、面積的に小さいということはない。

 この宿屋街には人族以外にもたくさんの種族がいるようである。ファテマやアイリと呼ばれた少女のような子がいてもなんの違和感もない。


 とある宿屋の一室にやってきた。そしてファテマはもう一人の少女に向かって話しかける。

「えっと、こちらの人族の男じゃが、ドラゴンから逃げておる時に知り合ってな。それでドラゴンを追い払うのを手伝ってもらったんじゃ。

 ドラゴンは何とか追っ払うことができたのじゃが、こやつ身寄りもなく行くところも無いと言うでな。なので連れてきたというわけじゃ。

 名前はロキという。あれ? ヒロキじゃったかな?」


「………。」

 相手の少女は無言である。


 少したれ目の大きな瞳で、明らかに不機嫌な瞳でこちらを見ている。

 とてもゆるふわ系で見ているだけで笑顔になりなごみそうである。そんなゆるふわな感じの子が不機嫌なのでタジタジになりそうである。

 そして、薄い金色の髪。前髪はぱっつんで後ろは背中まで真っ直ぐに伸びていてとてもさらさらしている。ファテマは薄い銀髪でショートなので対極的だ。

 おでこにちょこんと角があり、ファテマほどでは無いがふさふさの尻尾がある。そして大きく違うのが耳である。ケモミミではなく、なんと、



 横長なのだ!



 あと、肌も褐色である。こ、これは


 エルフ?

 しかもダークエルフってやつか?

 しかもハーフな感じで!?


 比呂貴がポカンといろいろ感じている中、引き続きファテマが話を続ける。

「ロキよ。こっちはアイリスじゃ。儂はアイリと呼んでおるがな。

 ロキが戸惑っておるように見えるが、そうじゃ。アイリはダークエルフじゃ。正確にはユニコーンとダークエルフのハーフじゃがな。

 ほれ。アイリも自己紹介せんか。」


『え? どういうことだ?

 森にいた時から妹さんの話をしていたけど、まさかハーフエルフ?

 ファテマはユニコーンだし、これはいったいどういうことだよ!?。

 わけがわからんが今はまだそれは触れない方が良さそうだな。察しってことで。いや、ぜんぜん察しきれてはいないんだけどね。』


「………。」

 アイリスは引き続き黙っている。とても愛らしい顔立ちなのに不機嫌なので比呂貴としてはどうして良いかわからなくなってしまう。

 ファテマからあらかじめ凄い人見知り情報を聞いていなければくじけていたであろう。しかし比呂貴は負けずにアイリスに自己紹介をする。


「オレの名前は樹神比呂貴。ファテマからはロキって呼ばれてる。信じて貰えないかもしれないけど、実は異世界からやってきてこの世界に来てまだ間もないんだけど、困ってるところにファテマと知り合って。

 それでドラゴンに追われていたみたいだから一緒にドラゴンを追っ払うのを手伝って、それで行くあても無いのでファテマに付いて来たってところです。

 良かったら一緒にいたいんだけど………。

 どうかな?」


 アイリスはその大きな瞳でチラッと比呂貴を一瞥し、そしてファテマに話しかける。

「ねえ、お姉ちゃん。なんで人族のそれも男と一緒にいるの?

 人族だよ?

 人族って怪しげな魔法で他種族の子供たちを奴隷にしたりする酷い種族じゃん。」

「アイリよ。

 確かにそれはあるが、しかしロキはそんな奴じゃ無いぞ。まあ、確かに儂の尻尾をまさぐろうとする変態ではあるがな。」


『あっ、そこは言っちゃうんだ。このタイミングだと余計に警戒されちゃうよ!

 でもまあ否定できないんだけど………。』


「ほらやっぱり怪しい奴じゃん。私は反対だよう。私はお姉ちゃんさえいればいいもん………。」

「あ、いや。でもなアイリよ。こやつにはドラゴンを退けるのにとても役に立ってもらったんじゃよ。

 それに料理もしてもらってな。それがまた美味かったんじゃ。それにとても物知りでいろいろと儂らの役に立ってくれると思うんじゃよ。」


「………。」

 ファテマの説得だが、アイリスは再び黙り込んでしまう。今度は明らかに困った顔をしている。


「あ、そうじゃ! だったらテストをしてもらえんかのう?

 ロキが非常に役に立つ奴だとわかったら一緒に居ても良いじゃろう?

 例の料理をして貰って、アイリもそれが美味しかったら認めてくれんかのう?」

「ええ? そんなの無理に決まってんじゃん。却下で!」

 アイリスは無慈悲に即答する。


 それでもファテマは食い下がる。

「うっ。即答じゃな………。

 しかし、アイリよ。そこを何とかならんかのう? な? 儂からのお願いじゃよ。」

「私としてはそんなことどうでもいいんだけど………。

 でもまあ、お姉ちゃんがそこまで言うんだったらテストくらいは良いよ。」


「ほ、本当か? ありがとうアイリよ! ロキよ。しっかりとやれよ!」

「ファテマさん。ありがとう! オレ頑張るから。

 とりあえず、今日はもう遅いから、明日以降にお願いします。それに食材とか何があるか確認もしたいからね!」

 ファテマの説得でとりあえずテストまではこぎ着けた。比呂貴はホッと一息つく。


「あああ!」

「どうしたんじゃロキよ? 急に大声を張り上げよって。」

「ファテマさんどうしよう。オレ、お金無いから宿に泊まれないんだけど………。」

「よいよい。今夜は儂が出しておこう。もう一部屋借りて来い。部屋はまだ余っておったはずじゃ。

 まあ、今後は考えんとな。」


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