第3話 ドラゴンに追われておると言っておろう。呑気な奴め!

「ちょっ、ヒロキとかいったか? さっきから何をよくわからんことを言っとるのじゃ? ただ、失礼なことを言っているのはわかるが………。」

「んなことないよ。とても可愛い子とお知り合いになれてテンションが上がってるんだよ!」

 そう言って比呂貴はニコニコ笑顔でファテマの尻尾を触ろうとする。ファテマはそれを華麗にかわして比呂貴に言う。


「ヒロキなら、ロキと呼ぶことにするぞ。光栄に思うが良い。世界を救った英雄の名前ぞ! お主のような変態とは真逆だな。ハハハ!

 あとなロキよ。お主、我を子供扱いするが、確かに一族の中では子供じゃが、人族のお主らよりは長生きしとるぞ。もっと我を崇めんか!」

「えええぇ、またまたぁ! そんな可愛いのにぃ?」

「当たり前じゃ! これでも人族の暦では百二十年生きとるわ! 人族なんぞせいぜい百年程度しか生きられんくせに生意気を言うでないわ! 妹でも六十年生きとるからな!」

「なっ!? マジで?」

「マジじゃわ!」


「こ、これも異世界クオリティというやつか………。それよりも、ファテマこそ、なんでこんなところにいるの? 妹さんは一緒じゃないの? やっぱり迷子なんじゃないの? 一緒に探してあげようか?」

 比呂貴は歳の話を聞いてもまだファテマを子供扱いする。これはこれで仕方がない。可愛いからである。


「そうじゃった。こんなところで変態の相手をしておる場合では無かったわい!

 ドラゴンじゃ! レッドドラゴンが出たんじゃよ。それで今、そやつを遠ざけるためにこうしてこんなところまで来ておるんじゃよ。

 レッドドラゴン。火竜とも言われる。すべての種のドラゴンに共通するが、幼生のドラゴンは自分でうまく魔力を蓄えることが下手じゃからな。だから魔力の高い魔物を襲うことがある。

 妹は儂よりも数十倍魔力が高く、いろいろと事情があって人の姿をしても魔力が抑えられんのじゃ。だから儂が囮になってここまで連れてきたというわけじゃ。ユニコーンの姿なら妹よりも魔力を放出できるし、ドラゴンよりも早く空を駆けることが出来るからな。」


「え? ファテマって空を飛べるの? それに魔力って、魔法とかも使えるの?」

「なっ!? そんなことも知らんのか?」

「えっ、まあ、来たばっかりなんで………。ってことはオレも魔法とか使えたりするのかな?」

「ええーい! お主の事情など知らんわ!」

「あああ、そりゃあそうですよねーーー。」

「こちらは焦っておるというのに呑気な奴め! ほれ、空を見上げよ。」

 ファテマに言われ、比呂貴は空を見上げる。森の近辺、夕暮れの上空で見えにくいのもあったが何やら物体が蛇行してるのが見えた。明らかに何かを、もちろんファテマを探しているようであった。そしてファテマは続ける。


「あれをどうにかせんと、帰るに帰れんのじゃ! どうじゃ? 事の重大さがわかったであろう?」

「確かに。あんなんに襲われたらひとたまりもないよね。で、どうするの?」

「どうするってこっちが聞きたいわ! どうにかなっとるならとっくにそうしとる。バカ者め! 儂でもどうにもならんから困っとる。漫才をやっとる場合じゃないわ!」

「そりゃあ、そうですよねー。アハハ。ゴメンね。

 でもまあ、そろそろご飯にしない? 空もだいぶ薄暗くなってきてるし。ってか、こっちに来てからまだ何にも食べてないのと、そういや帰宅途中だったからそもそも晩御飯食べてなかったよ。」


「ハァ………。どこまでも呑気じゃのう。焦っておるこっちが間抜けじゃわ。

 確かにドラゴンからも見つかっておらんようじゃし、どのみち今日はこの辺で野営じゃな。森で助かったわい。ドラゴンからも見つかりにくいじゃろうて。

 じゃが、お主は何を食べるんじゃ? あ、儂は逃げてきたのでなんも持っとらんぞ? 儂はその辺の木の実でも食べておれば空腹は凌げるがのう。」

「え? うそ!? オレもなんも持ってないです。ってかこの世界に来てまだ数時間も経ってないし………。」


「そういや、逃げとるときにこの近くに比較的大きな川があったな。そこなら魚でも取れるであろう。儂も人の姿なら魚は食うからな。」

「それはありがたい。早速行きましょう! ってか、ユニコーンって雑食なんですね。」

「お主、やっぱり儂を馬鹿にしておるな?」

 ジト目のファテマだったが川まで連れていってくれた。なんだかんだで面倒見が良いのであった。

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