第21話 ホントとウソ

「俺が野球をやめたのは───。」

明梨は特別考えがあった訳ではないのだが、これは、結構いい質問をしたのかもしれないと思った。

「怪我しちゃったんだよ、中学の春の大会で。」

─ウソ─でも、きっとこれもホント。

明梨も短期間ではあるけど、それでもずっと蒼馬を見続けて、蒼馬がウソをつくときというものがわかってきた。癖がある訳じゃない、でも、蒼馬は沢山ウソをついている。他人を傷つけない、自分を傷つけるウソを沢山。明梨にはそう見えていた。今の言葉も。

「そうなんだ。」

「うん。あれがなければ、続けてたかもしれないんだけどね。それなりに地元では有名だったんだよ俺。」

蒼馬は苦笑いしながらそんなことを言う。でも、きっと蒼馬の心の中に写っているのは、言葉にした真実とは違う真実なんだろう。そこに自分が踏み込んでいいのか?怖い。踏み込むことは怖くない。嫌われるかもしれない。もう2度と目も合わせてくれないかもしれない。でも、1番怖いのは、私が踏み込むことで、蒼馬を傷つけてしまうこと。だから、今の私には踏み込めなかった。

「ポジションはどこだったの?」

私にできたのは、そんな無難な質問で話題をそらすことだけだった。

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