聖女の孫だけど冒険者になるよ!

春野こもも

第1章

第1話 森の暮らし


本作は作者の初めての投稿作品です。

文章表現や構成などお見苦しい点が多々あると思いますが、よろしければ最後までご覧ください。



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「おばーちゃん、ごはん採ってきたよー!」

「ああ、セシル、おかえり。ワイルドボアかい。脂がのってておいしそうだね。怪我はないかい?」

「うん、だいじょーぶ!」


 森で狩ってきたばかりのワイルドボアを捌くためにアイテムバッグから取り出す。今日は2頭だけ狩ってきた。

 ワイルドボアはイノシシに似た魔物でお肉がジューシーでとても美味しい。

 その魔物のお肉を捌いて食べやすいように小分けにする。そして時間停止の効果がある時空間魔法を施したバッグに入れておいた。これでしばらくお肉の備蓄はしばらくの間大丈夫だ。




 ここはモントール共和国の東に位置する『魔の森』の奥の奥。『魔の森』はこの国の中でも特に強力な魔物がひしめきあう危険で広大な森だ。

 そんな森の一番奥に強力な結界を張って、ミーナおばあちゃんと2人だけで暮らしている。滝つぼの傍にある草地の少し拓けた所におばあちゃんが昔建てた小さな家だ。

 その側で畑を作ったり、森で狩りをしたり、川で釣りをしたりして食料を確保している。あとは時間のあるときにおばあちゃんと訓練をしたりいろんな勉強をしたりして楽しい毎日を送っている。


 訓練は剣と魔法の手合わせをやるの。おばあちゃんとやることもあるし魔物を相手にすることもある。

 勉強は計算や歴史の勉強。もっと小さなころは文字の勉強をしてた。今はどんな本でも読めるよ。


 わたしの名前はセシル。今日12才になった。見た目はおばあちゃんと同じ腰まで真っ直ぐに伸びた銀の髪と金の瞳だ。凹凸はまだ少ない。こ、これから成長する、多分。

 物心ついた時からこの森でおばあちゃんと2人だけで暮らしてきた。だからおばあちゃん以外の人間って見たことないんだ。この森の外にある町にはおばあちゃん以外の人間もいっぱい住んでいるらしいんだけどね。

 2才まではどこかの町に住んでいたらしいんだけど覚えていないの。


 わたしのおばあちゃんはミーナっていうの。おばあちゃんっていってもまだ47才だ。

 それに腰までの長い銀髪を三つ編みに編んで後ろで結わえて金の瞳がとても綺麗な美人だ。小さい頃におばあちゃんから貰った絵本の王女様よりも絶対きれいだと思う。

 わたしはおばあちゃんと同じ髪と瞳の色だけど、胸やお尻のあたりがいろいろ足りない。おばーちゃんは自分の若い頃にそっくりだって言うけど、大人になったらあんなに色っぽくなれるかなあ? うーん……。


「じゃあ、これさばいてくるね! 薬草もいっぱい採ってきたんだ!」

「ああ、野菜でも洗っとくよ。」


 今日はわたしの12歳の誕生日だ。その準備のために森でワイルドボアを狩って薬草を摘んできた。今は晩ご飯の準備をしている。

 10年前におばあちゃんは2才のわたしを連れてここに住み始めたんだって。わたしのお父さんとお母さんは10年前に事故で亡くなったそうなの。それがこの森に住み始めたきっかけらしいんだけど詳しいことは知らない。

 両親がどんな人たちだったんだろうなぁって思うことはあるけど、全然覚えていないしおばあちゃんがいるから寂しくはない。




 もうすっかり辺りは暗くなって今は夜の7時ごろだろうか。周辺には梟の声が聴こえる。西の空の際はまだほんのり明るい。

 今日もいつもと同じように晩ごはんを済ませた。ところが食事のあとおばあちゃんは何かを深く考えているようにしばらく目を瞑っている。

 いつもと違う様子にどうしたんだろうと思っているとおばあちゃんが静かに話し始めた。


「セシル、12歳の誕生日おめでとう。今日はお前に話したいことがあるんだ」

「話したいこと?」


 いつになく真剣な表情にちょっとドキドキする。一体何を話すんだろう?


「ああ。……昔私は隣のヴァルブルク王国の聖女だったんだ」

「聖女?」


 初めて聞く言葉だ。聖女って何だろう?


「おばあちゃん、聖女ってなあに?」

「聖女っていうのはね、王国で適性のある者が任命されて人々の治癒や土地の浄化のお仕事をする女性のことだよ」

「適正のある者ってどんな人?」

「だいたい光魔法や神聖魔法の属性を持っていてその魔力が強い者だね」

「ふぅん」


 おお、じゃあおばあちゃんはまさに聖女にぴったりだ。だっておばあちゃんの光魔法と神聖魔法は凄いもの。それに加えてすべての属性の魔法を行使できる。訓練のときの手合わせでもまだ勝てたことがないんだよね。

 わたしも光と神聖の属性魔法と全ての属性の魔法が使える。だけどおばあちゃんにはまだ魔力も魔法攻撃力も敵わないんだ。


「話を戻すね。……その聖女というのは王族と結婚するという昔からの決まりが王国にはあってね。だけど30年前わたしは愛する人と出会ってしまったんだ。そのときはまだ次代の聖女が決まっていたわけじゃないし無責任だと分かっていた。それでもどうしても彼と一緒になりたくてある日彼と一緒に逃げだしたんだ。そのまま何もしなければ王族と結婚させられるからね」


 おばあちゃんに愛する人かあ。おじいちゃんのことだよね? なんだかロマンチックだなぁ。


「おばあちゃんはどうしても好きな人と結婚したかったんだね」

「ああ、それもあるが自由がほしかったんだよ。周囲の人間に自分の未来を決められてしまうのが我慢できなかったんだ。城から逃げたあと、あの人と一緒に追っ手を逃れてなんとかこの国に逃げることができたよ」

「そうだったんだ……」


 おばあちゃんは話の合間にときどき遠い目をして溜息を吐いている。きっと当時のことを思い出しているのだろう。そしてさらに話を続ける。


「それからしばらくしてお前のお母さん、リーゼが生まれて、王国にも新しい聖女が選出されたという噂を聞いたんだ。逃げ出したことに責任を感じていたからほっとしたよ。それからしばらくは愛する夫と子供とともに暮らす幸せな日々が続いた。月日が経ってリーゼが大きくなって愛する人を連れてきて、そしてセシルが生まれた。けれどお前が2才のときに悲しい事故が起こったんだ」

「お父さんとお母さんが亡くなった事故ね……」


 おばあちゃんは大きく頷いた。そして事故のことを思い出したのだろう。少し目を潤ませて再び話を続ける。


「ああ……。それからお前の両親を弔うためおじいちゃんとお前と3人で街に出たんだ。そのときに王国の間諜に見つかってしまってね。おじいちゃんは私たちを逃がすために王国に戻って、私はまだ幼いお前を連れてこの森に身を隠したんだ。この場所に魔物が入ってこれなくなるだけじゃない、招かれざる者は決して入れない強力な結界を張ったんだよ」


 ずっと当たり前のようにおばあちゃんと2人で暮らしていたけど詳しい理由は知らなかった。きっと凄く大変だったんだね。


「おじいちゃんはどこにいるか分からないの?」

「ああ、分からない。だけど彼がまだどこかで生きている事だけは分かる。何か理由があって会いに来れないんだろう」


 聖女のこと、おじいちゃんのこと、王国に追われていること。どれもおばあちゃんから初めて聞く話だった。

 おばあちゃんは聖女の力についてもさらに詳しく説明してくれた。

 それによると聖女の力は本当に特別なものだった。光の導きで進むべき道が分かるんだって。


 そしてそれらの話を終えたあと、おばあちゃんは悲しそうな顔をして瞼を臥せた。おばあちゃんの気持ちを考えると何も言えなかった。

 おばあちゃんはずっと一人でわたしを守ってきたのだ。愛するおじいちゃんを待ちながら。どんなに寂しかっただろう。お父さんとお母さんを失ってどんなに悲しかっただろう。


 小さな頃からおばあちゃんに生きるためのいろんな手段を教わった。狩りの仕方、料理の仕方、文字や計算のこと、悪い人間から身を守るための剣術や体術、そして魔法。

 すごく厳しかったけど大好きなおばあちゃんと一緒にやる訓練はとても楽しかった。今でもおばあちゃんに比べたらわたしなんてまだまだ弱い。


(そうだ。せめておじいちゃんも一緒に暮らせれば……!)


 なんて言われるか分からないけど。反対されるかもしれないけど。でもおばあちゃんにもっと幸せになってもらいたい!

 しばらく目を瞑って考えたあと意を決しておばあちゃんに提案する。


「おばあちゃん。わたし旅に出たい。そしておじいちゃんに会いたい。『冒険者』っていうのになっておじいちゃんのこと探しだしてここに連れて帰るから」

「セシル……」

「だから旅に出ることを許してほしいの」


 その言葉を聞いておばあちゃんが切なそうな目でわたしを見つめる。


「わたしは今とても幸せなの。本当よ。でもおばあちゃんには今よりもっと幸せになってほしいの。……それにわたしは冒険をして色んな人や知らない世界をもっと見てみたい。」


 そこまで話したあとドキドキしながらおばあちゃんの表情を窺う。なんて言われるのだろう。反対されちゃうかな?

 するとおばあちゃんは優しく笑って答えてくれた。


「ふっ。お前がそう言うと思っていたから大きくなるまではこのことを話せなかったんだよ。だけどいつかはこの話をしないといけないと思っていた。それにお前にとって外の世界を知らないままここで暮らし続けるのはよくないと分かっていた。だから12才になった今日のこの日にこの話を伝えることにしたんだよ……」

「そうだったんだ……」


 まだ未熟なわたしを心配してくれているのが伝わってくる。おばあちゃんはいつもわたしのことを考えてくれている。

 おばあちゃんはわたしの言葉に大きく頷いて話を続けた。


「旅に出なさい、セシル。きっとこれからの旅には危険なことや苦労することがいっぱいあるだろう。だけどお前はこの私がずっと鍛えてきたんだ。今のセシルならきっと乗り越えらえるよ」


 そう言って笑うおばあちゃんの金の瞳にきらりと光るものを見た。それを見て視界がぐにゃりと歪んで喉の奥がきゅーっと絞られるように苦しくなった。


「おばあちゃん……ありがとう」


 おばあちゃんの言葉になんとか声を絞り出して答えた。

 おばあちゃん。わたしはこの森を離れて冒険者になって旅をする。でもお別れなんかじゃないから。絶対おじいちゃんを連れてここへ帰ってくるからね!




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