眼鏡のお兄ちゃん

瑠璃がトコトコと神社の通りを歩いている時。

ある家が、神社通りから、少し奥の方の、閑静な住宅街に建っていた。

そしてその家の中から声がする。

「えーーー。」

「何だよ、兄貴。」

「お前、せっかくの夏休みを塾でつぶすつもりー?」

「やっぱり勉強しないとね。」

その少年の兄らしき人物は腕組みしてこう言った。

「さとる、悪いこと言わないからやめなさい。」

さとる、と呼ばれた少年は不思議そうに答えた。

「どうして?」

「夏休みは、遊ぶためにあるんだーーー!」

「あ、あの・・兄貴。」

「思えば10年前の高校時代・・・。」

「もういいってばー。聞き飽きたよ。」


さとるは社会人の兄と二人暮らし。勉強が大好きで、運動が苦手。

14歳、中学二年生の少年である。大きな眼鏡がトレードマークだ。

「じゃ、行ってくるから。」

「気をつけてな。」

さとるは家のドアを開けて、塾へ行こうとしたその時だった。

「うわーん。」

おかっぱ頭に後ろリボンを付けた、五歳くらいの少女が迷い込んできたのだ。

さとるは、とっさにその少女に声をかけた。

「どうしたの?」

可愛らしい洋服を着たその少女は、さとるにこう言った。

「変なおじさんが、あたしを追いかけてくるのー。」

「えーっ。」

見れば、黒づくめの二人組の男達が、後ろから走ってくるのが見えた。

さとるは、とっさにその少女を家の中に招き入れて、こういった。

「とりあえず、隠れて。」

「うん。」


「兄貴、兄貴ー。」

さとるは、兄を呼んだが、昼寝中なのか、部屋から出てこない。

「まいったなあ・・。110番するか。」

「うん、ごめんね、お兄ちゃん。」

あどけない顔をしたその少女は、泣きもせずそう言った。

「君、名前は?」

さとるは尋ねた。

「あたしは、新堂瑠璃っていうの。るーちゃんでいいよ。」

少女は笑顔で答えた。

「じゃ、るーちゃん。警察を呼ぶけどいいかな?」

黒づくめの男たちは、家の周りをうろうろしている。明らかに不審者だ。

「けいさつ? おまわりさん?」

瑠璃の笑顔が曇った。

「おまわりさん来たら、あたし、もう外へ遊びに行けなくなっちゃう。」

「どうして?」

さとるは、事情が飲みこめなかった。

「あたしには、パパもママもいないから。」

「え・・・。」

児童施設にでも預けられてしまうのかと、さとるは思った。

いずれにせよ、不憫な子だ。それにしては、身なりや、行儀作法がきちんとしているが。


どうしようか・・。


さとるはしばらく考えた。






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