第23話 動き出す計画


 あれから一週間がたち、学年末テスト当日の朝。


 俺は布団にくるまりながらも起床する。


「ううっ、さむっ!」


 身体をさすりながら、いつものように支度を済ませ、家を出る。

 

 冬の朝はかなり暗い。

 いつしか俺の朝はいつも早く、日の出が出る前に起きるのが日課になっていた。


 時刻はまだ早朝5時を指していた。

 今日から俺たちの運命が決まる試験が始まる。


「気合い入れるか」


 俺はいつものように早朝ランニングに勤しんだ。

 少し空が明るくなってきた。人工的とはいえ、日の明かりは眩しい。


「よし、帰宅っと」


 家に帰るとまずはシャワーを浴びる。

 そして朝食のバターとジャムを塗った食パンを口にほおばった。


「そろそろ出ないと」


 テレビを消して戸締りを確認して家を出る。

 今日は今年一年の全てが決まる日だ。

 

 あの研究所に送られるか、継続して学園生活が送れるか。


 それは今日の試験で全て分かる。


「二年に進級するために必要なポイントはあと32APか」

 前期末のようにやれば十分とれるポイント数だった。


 家を出て、いつもの通学路で学校へ行こうとしたその瞬間だった。

 いきなり大柄の男四人に囲まれて、首元を掴まれた。


「おい! いきなりなにを……」


 手足をひもか何かで拘束され、いきなりスタンガンで気絶させられた。

 俺はなすすべもなく車のトランクルームに放り込まれた。


 しばらくして俺は目を覚ました。


「ここは……どこだ?」


 目を覚ましたらとある会議室の椅子に手足を拘束させられたまま座っていた。


「ようやく目を覚ましたかね」


 声のする方向を向くと一人の研究員が立っていた。


「お前は何者だ。俺をどうする気なんだ?」


 研究員の男はゆっくりと答える。


「私はラグーンズラボラトリの所長をしている城岩というものだ」


 城岩は続ける。


「今日は部下が手荒な真似をしてすまなかった。詫びを入れさせてもらう」

「早く解放してくれませんか? 今日は学年末テストで運命がかかっているんです」


 すると白岩のとなりにいた助手から衝撃的な言葉が告げられた。


「ああ、そのことなら心配には及びませんよ。なぜならあなたはもう既にゲームオーバーなのですから」

「どういうことだ」


 助手が俺の持っていた学生端末を見せた。


「そ、そんな……なんで」


 学生端末には『リタイア』の言葉が刻まれていた。

 110APほどあったポイントが一気にマイナスになっていたのである。


「これで分かったでしょう。あなたの学園生活はもう終わったのです」

「ふざけるなよ。一体何をした!」

「そう熱くならないでください。私たちはあなたに用があってここに連れてきたのですから」

「国が認める研究員様がこんな平凡な俺に何の用があるというんですかね?」


 俺はかっとなってしまい皮肉交じりに言った。

 すると財前が一歩前に出て俺に顔を近づけた。


「まず一つ目の質問をしよう。君はこの研究所のことをどこまで知っている?」


 俺は「何も知らない」とすぐに答えた。


「二つ目の質問だ。君はこの研究所に足を踏み入れたことがあるか?」

「研究所内なら生徒会の仕事で入ることはありましたよ」

「そうか、それでは最後の質問だ。君は……」


 その時だった。後ろからいきなり銃声が聞こえ、城岩と研究員は倒れた。

 よく見てみると実弾ではなく、麻酔弾だった。


「さあ、いくぞ」


 黒のローブを着た大柄な男に手を引かれ、その場を去った。

 警備網をかいくぐり、俺たちは無事に研究所の外に出ることに成功した。


「そろそろ麻酔の効果が切れる。急いでこの場を離れるぞ」


 そういうと二輪オートバイの後ろに乗せられ、全力疾走で研究所周辺から抜け出した。


「こんな所にも研究施設が」

「学園の近くにある研究施設はダミーみたいなものだ。本当はこっちが本命の研究所ってわけだ」


 山に囲まれていて研究所があるようには思えない場所だった。距離も町の外に出て徒歩30分ほど歩く場所だろうか。

 そう思ったとたん俺は一つだけ気づいたことがあった。


「まさかあの扉はあそこまで続いていたのか」

「ん? どうかしたか?」

「あ、いえ。独り言です」


 10分ほどで都市街の近くに到着した。


「ここまでくれば心配ないだろう」


 バイクを止め、ゆっくりと降りた。


「助けてくれてありがとうございます」

「危なかったな。あのまま君が真実を話してしまっていたら確実に殺されていた。君の座っていた椅子にマイクロ爆弾が取り付けられていたんだ」

「ということは俺があのまま話していたら……」

「そのままドカーンってわけだ」


 俺は一気に顔が真っ青になった。自分を殺そうとしている人間がいることを知ってしまったからだ。


「何か心当たりはないのか?」


 心当たりと言えば、もう一つしか思い浮かばなかった。

 俺は前に自分自らあの研究所に入り、衝撃的な光景を見てしまったことを全て話した。


「……やはりそうだったか」

「やはり……? 一体あそこで何が行われているんですか?」


 ローブの男は何も言わず、バイクに乗り始めた。


「ちょっと待ってください。質問に答えてもらえませんか?」


 ローブの男はそっと後ろを向いた。


「また近いうちに会うだろう。その時に私が知っている全てを話そう。それに、こんな所にいて大丈夫なのか? 今日はテストなんじゃないのか?」


 試験時間開始まであと15分を切っていた。


「やばい、このままじゃ間に合わない」

「乗っていくか?」


 俺はお言葉に甘えて学校まで乗せてもらうことにした。

 絶対的根拠はなかったがこの人は信用できる人間だろうと感じたからである。

 

 まぁ、あくまで俺の勘だけど。


 こうして、俺はローブの男の背中に身をおき、学園へと急いだのだった。

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