第21話 ラグーンズリサーチャー


 あれから時は進み、一か月が経っていた。


「今日も会長来ませんね」

「そうだね。この頃多忙らしいよ」


 あれから一か月たったというのに一度も会長と会っていない。

「はぁ」と落ち込む俺を見て國松先輩が励ます。


「そんなに落胆しなくても大丈夫だよ。あの時のことは会長も何も言っていなかったから」

「ほ、本当ですか……?」


 國松先輩はゆっくりと頷いた。

 でもやはり気がかりなことには変わりない。


(こういう時に限って上手くいかないんだよなぁ……)


 俺はそう思いながら時計を見る。

 するともうすぐ昼休みが終わることに気づいた。


「あ、先輩。俺そろそろ行きますね」

「うん。わざわざ来てくれてありがとうね」

「いえ、仕事ですから」

「あ、ちなみに今日から活動はないから。学年末試験が控えているからね」

「はい、わかりました」


 俺は早歩きでその場を去った。

 そしてそのまま教室へ。


 だがどうしたものか、教室に行ってみたらなんだかざわついていた。


(どうしたんだ?)


 教室の黒板を見てみると一つの張り紙が貼ってあった。

 張り紙の内容はこうだった。


『本日未明、当施設研究員が学園を視察に参る。あらかじめ心得てほしい』


 書かれていたのはこの一文のみ。

 なぜここまでざわつくのか周りの人に聞いてみたらどうやらこの地下施設で研究をしている研究員がこの学園に来るとのことで盛り上がっていたらしい。


 しかも視察の中で優秀な生徒だと判断された場合は研究所の方から卒業後の進路としてスカウトを受けることがあるという。


「みんな大盛り上がりね」

「あ、白峰さん」

「生徒会はもういいの?」

「うん、今日で活動はもう終わり」

「金山君、お疲れ~」


 星宮さんだ。


「おう、金山。やっと終わったか」


 続けて正も教室へ入って来る。

 毎日教室で会っているのになぜか正と会うのは久しぶりな感じがした。


「そういえば、今回はどうするんだ? 勉強会」

「皆の都合が合えばやりたいね」

「私は問題ないわよ」

「俺も生徒会の仕事がないから逆に暇になっちゃうかな」


 皆、特に予定はないようだ。


「それじゃあまた勉強会しますか!」

「よっしゃ! 今度は俺の部屋使うといいよ。お菓子めっちゃ用意しておくわ」

「本当? ありがと~」


 星宮さんと正がどんなお菓子がいいか念入りに話し合っている。


「二人ともエンジョイする気満々じゃないか?」

「まあいいじゃないの。この前だってそうやって皆、結果出せたのだし」

「俺だけあんまり良い結果が出せなかったんですが……」


 不安そうに下を向く俺に白峰さんは元気づけてくれた。


「今回は私がマンツーマンで教えるわ。なにか分からない所があれば遠慮なく言ってね」

「ほ、本当?」

「ええ、私でよければ」


 見た目はクールビューティーな彼女だが根は物凄く面倒見がいい。

 俺は「助かるよ」と笑顔で答えた。

 

 で、時間は経ち、昼休み前の授業時、クラス内がざわつき始めた。


「――あれがラグーンの研究員の人たちか」

「――すごい迫力だな」


 クラスメートたちが小声で話し始めた。

 ちなみにこの地下都市は別名ラグーンと呼ばれている。

 名前の由来は研究所の名前がラグーンズラボラトリという名称であるが故であると言われているが公式ではない。


 前に細見の若い研究員が先導し、大柄の男二人の間にご年配の研究員が挟まれる感じで歩いていた。おそらく真ん中の年配研究員がこの施設でいうお偉いさんということであろう。


 すると研究員一行が×組のクラスに入ってきた。


 クラスはさらにざわつき始めた。


「おい、金山。ラボの人たち入ってきたぜ」


 後ろの席の正が興奮気味になっていた。


「こんなに騒ぐほどすごい人たちなのか?」

「お前、なんも知らないのな。研究者にとってここで働くことはだいぶ名誉なことだ。日本を代表する研究者たちが集まり、移民技術の初期段階の実験に世界で初めて成功した精鋭たちだぞ。ここで働く研究者は国の宝みたいなものなんだ」

「憧れみたいなものか」

「それだけじゃない。研究所で働く人間は待遇が地上で働く奴らとは全然違う。給料も桁違いに違うが、ほしいものは全て国が負担してくれる。家とか車とかも国が支給してくれるのさ。その上、待遇は地下だけじゃなく地上でも適用されるんだ」

「ということは地下で仕事はするが普段住むのは地上でもOKということか?」

「そういうこと」

「そんな自由が許されていいのか」

「その代わり、それに見合った人間しか働けないのが現状だ。だからここで働くというのは相当なキャリアや実績がないと絶対に許されない」

「まぁ、そうなるよな」

「だがこの学園にはラボへの直接推薦制度がある」

「なるほど。研究所入りをしたやつにとってはこの上ない機会だな」

「ま、外部から入ってくるひとは異例の実績を持ったものしか入れないからな。必死にもなるさ」


 そんな会話を交わし、俺たちは特にアピールをするわけでもなくただ淡々と授業を受ける。

 俺は別に研究員志望じゃないし正直、どうでもよかった。


 研究員一行は俺たちの授業風景を少しだけ見てから去って行った。

 その後の昼休みなんてその話で持ち切りだった。


 だからこそ研究員志望が多いという事実も同時に知り、俺は驚いた。

 そしてふと思ったのだ。


 俺みたいな志の持たない人間が生徒会なんかにいてもいいのかな……と。

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