第15話 高校最初の夏2


「お、おおお!」


 俺と正は星宮さんの水着姿を見るなり、思わず声が出てしまった。

 なんせその光景は今まで目にしたことのないほどの眩しさがあったからである。


(ヤバイ、めっちゃ可愛い。時宗がアホみたいに騒ぐのも納得だなこれは)


 美少女と水着の組み合わせというのは相利共生の関係にあると、中学の知人が言っていたがまさにその通りだった。


 本当に似合っている。

 水着のチョイスが良いってのもあるのかもしれないが、これは紛れもなく本音だった。


「ど、どうかな……?」


「「めっちゃ似合ってます!!」」


 俺たちはすぐさま返答。待ってましたと言わんばかりの言葉を星宮さんに捧げる。


 すると星宮さんは恥ずかしげに顔を真っ赤にし、「ありがとう」と礼を述べた。


 にしてもこれは反則級だ。


 自分のナイスバディをいかした三角ビキニ。いかにも男子受けのよさそうな水着だが、そのスタイルも相まって水着のステータス以上の色気が発揮され、絶妙なハーモニーを奏でている。


 まさに神級ゴッドクラスと呼べるべきものだった。


 と、その時だ。


「久しぶりに水着なんてきたわ。ちょっと小さいかしら」

 

 もう一人、こちらへ近づいてくる美少女がいた。

 あの銀色の髪は……白峰さんだ。


「あっ、夕ちゃんだ。おーい!」


 手を振る星宮さんに反応し、白峰さんも小さく手を挙げる。


「うおーーーっ! 白峰さんの水着もめっちゃいいじゃないか! な、金山」

「だ、だな……」


 俺たちの目線はの方へ。


 着ているのは白峰さんのイメージにぴったりなオフショルビキニ。


 星宮さんほど胸は大きいわけではないがやはりこちらもスタイルが良い。その良さがオフショルビキニのセクシーさをより際立たせている。


 これもこれで俺的にはありありである。


「あら、やっぱり少しきついかしら。もう二年も前の水着だから……」


(あ、あの人は……)


 立て続けに来たのは香恋先輩だった。

 お尻のラインの部分を気にしているのか、少し調節する仕草を見せながら、歩いてくる。


 香恋先輩はとにかく胸が大きい。あの星宮さんですら凌駕しているくらいだ。


 巻きつけたスカートが印象的なパレオに身を包んだ香恋先輩はやはり大人の女性を演出していた。


 もちろん、隣にいた正は歓喜に満ちていた。


「す、すげぇ……すげぇよ……金山!」

「お、おう……」


 もう興奮しすぎて常時鼻息を荒立て、彼女たちの水着姿を凝視している。

 ぶっちゃけ、変態感が凄すぎて一歩身を引いてしまったくらいだ。


(まぁ正がそこまでになる理由も分からんでもないが……)

 

「おい、金山」

「……ん?」


 突然背後から何者かに声をかけられる。

 そしてその声に反応し、後ろを振り向くとそこには向郷会長の姿があった。


「か、会長!?」

「よう。中学の頃の水着が着られなくなったからわざわざ買いに行ったぞ。どうだ金山、そそるだろう?」


 向郷会長が新しく買った水着を見せつけるかのように見せてくる。

 はじめに見てなにが驚きかと言えば意外と向郷会長はスタイルが良いという事実だった。


 確かに服の上からは幼児体型にしか見えないが、水着姿となると話が別だった。

 自分の小さい体型を気にしてオーバーオール型のサロペットを着ているが、それでも胸の大きさは伝わってくる。


 見た限り、パット等で盛っているようには見えないし……


 これがいわゆるロリ巨乳ってやつなのだろうか。

 脱ぐと実は凄いという表現があるがまさに彼女のとってこの表現はぴったりだった。


「なあ……金山」

「ん、どうした?」


 突然正が俺の肩を持ち、何かを言おうとする。

 何故かは分からないが、正から何やら幸せオーラなるものが出ていた。


「ここは天国なのか? 俺は生涯こういう日がくるとは思ってなかったぜ」


 彼の目から一滴の涙がポロっと流れた。


 いやいやそこまで感動することか? と思ったが、どうやらそれだけではないようにも思えた。


 なんかこう、一瞬だったが彼の見せた笑顔からはいつもなら感じるはずのおちゃらけ感が全くなかったからだ。


「よかったな、正」


 俺はさり気なく肩に手を乗せ、そう言う。


「ああ!」


 正もニヤリと笑って返答する。

 と、その時、

 

「皆さんお待たせしました~」


 國松先輩が重いクーラーボックスを持って帰ってきた。


「おせ~ぞ、彰吾!」


 早く遊びたくてたまらない正に副会長が「悪い悪い」と言う。


「じゃあ、思いっきり遊ぶぞ~!」

「お~!」


 みんな勢いよく海の方へ体を繰り出した。

 副会長と香恋先輩は荷物番でパラソルに残った。


「くらえ!」

「きゃっ! 冷たい~」

「時宗君やるわね。ならこれならどうかしら」


 正が白峰さんと星宮さん相手に容赦がない。

 それに反撃するように白峰さんも容赦ない水かけをお見舞いする。


「おい金山、日頃のストレス発散に付き合え!」


 会長は特大の水鉄砲を取り出し、銃口をこちらに向けた。


「どこからそんなもの出てきたんですか! というかストレス発散の道具に俺を使わないでくださいよ」

「ごちゃごちゃ言うな!」


 会長から怒涛の水浴びを受ける。


「これが生徒会の洗礼よ!」

「なんのですか~!」


 逃げる俺に追いかける会長。傍から見れば、先輩と後輩の関係には見えない。

 むしろ逆だ。下手したら兄妹同士と思われているかもしれない。


「あの二人仲いいね~」


 星宮さんがニコニコしながら見つめている。


「あんな会長見たことないよな」

「ええ、本当に」


(あんな人が学園の権力を……到底思えないわ)


 時間もお昼時になった。


「ふう~腹減ったな」


 正がさりげなく言った言葉に星宮さんが反応する。


「それならお昼にしよっか」


 そう言うと皆にもこのことを伝えた。


 俺たちが戻ってくると、香恋先輩と國松先輩がビーチチェアでくつろいでいた。


「ん、あれ皆どうしたの?」


 國松先輩がティアドロップのサングラスを外す。


「そろそろお昼にしようと思ってさ。彰吾と香恋先輩も一緒に食べようぜ」

「あら、海を背景にお昼を食べるのは最高ですわね」

「わかったよ~」


 香恋先輩も國松先輩も賛成のようだ。


「じゃあお弁当持ってくるね~」


 そういうと星宮さんは更衣室の方へ走っていた。

 そして数分経つと、星宮さんはすぐに帰ってきた。


「皆、おまたせ~」

「お、待ってました!」


 正が目を輝かせる。

 何段にも渡るお重の中からおいしそうな食べ物たちが顔を出した。


「すげえ! うまそう!」

「星宮さん凄いわねこれ全部作ったの?」


 白峰さんもあまりの出来に感服する。


「うん、味は保証できないけど」


 星宮さんが恥ずかし気な表情を見せる。


「早く食べようぜ!」

「そうだね。俺もお腹ペコペコだよ」

「それじゃあ、いただきます!」

「いただきま~す!」


 正が音頭を取り、皆でお重をつつく。


「やべえ、うまい!」

「お料理上手ですわね」

「うん、優しい味でおいしいね」


 國松副会長と香恋先輩が星宮さんをほめる。


「星宮といったな? 中々良い腕だ」


 向郷会長も称賛した。


「みんなありがとう。沢山食べてね」


 こういうと星宮さんは俺の方を向いた。


「金山君はどう? 味濃くないかな?」

「凄くおいしいよ。さすが星宮さんだね」

「よかった……ありがと!」


 ほっとした顔で俺を見つめる。そして満足そうにニコッと笑った。

 俺はまたしてもその笑顔に少しだけドキッとした。


(いかんいかん。このままこの笑顔をくらい続けたらお終いだぞオレ!)


 こう自分に言い聞かせ、沢山のおかずを口に運んだ。

 そしてなぜだか白峰さんが横で不満そうに顔を膨らませている。


「白峰さん? どうしたの?」


 俺が少々声を抑えて聞いてみた。


「別になんでもないわよ」


 白峰さんがやはり不満そうな顔で返答した。

 すると正が俺の肩を叩いた。


「なあ金山」

「どうした?」

「今日は本当に最高な日になったぜ。ありがとうな」

「なんでお礼を言うんだよ。俺は何もしてない」

「いや、俺があの時、金山に出会うことができなかったら今の学園生活はないさ」

「大袈裟だよ」


 俺は苦笑いをする。


「いやそんなことねえよ」


 正はすぐさま否定。

 そして彼が今はお礼をさせてくれと強く言った。


 こうして、俺たちはお昼を終えた後も夕方ごろまで遊びまくった。

 

 全てを、あの出来事すらも忘れて……


 だがこんな日もあってこその青春だ。

 俺はこの瞬間を噛みしめることにする。


(たとえ、この先に何が待っていようと……)


 夕方を演出する橙色の空が海に反射して綺麗な光を帯びていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る