1A-お披露目2


「いや素晴らしい演奏だった。」


「召喚者の才能がこれ程とは。」


「実に優雅なお姿でした。」


誰もが惜しみ無い賛辞を送った。


小太りも称賛に応えるように、ドヤ顔で手を振っている。


優雅!? 一体どこら辺が優雅だったんだ!?


俺が周囲の反応とのギャップに戸惑っていると、


「うむ。それだけの才能を持ち合わせておれば、活躍が期待できそうだ。


結婚を求める婦女子も絶えず、引く手あまただろう。」


と、国王も油したたる小太りを称賛した。


奴が引く手あまただって!? あんなキモい小太りが!?


そういえば先程の国王の言葉を思い出すと、音楽に秀でし者が最も優れた存在だと言っていた。

それはつまり、音楽の才能のある人間が一番モテると言うことだったのか。


こんな小太りがモテるのなら、俺も演奏次第でモテモテになれる筈。

やはり神は俺を見捨てなかった!


「そなたは国王直属の音楽隊に推薦しておこう。


ではそこの女よ、次はおぬしが演奏してみるがいい。」


国王直属ともなると、恐らくこの国の精鋭が集まる音楽隊なのだろう。

いきなりエリートコースとは実に羨ましい。


「は、はい。」


小太りを妬んでいると、国王から使命を受けた美女が控えめに返事をした。


「その楽器はなんと申すか?」


「あ……これは三味線といいます……。」


「そうか。ではその三味線を早速弾いてみよ。」


「わ、分かりました……。」


国王に促されると、美女は静かに正座し、三味線を構えた。


美女が弦を撥(ばち)ではじくと、「ペペペン」という聞き慣れた心地の良い旋律が耳を通り抜けた。


ペン、ペン、という弦の乾いた音に、パチ、パチと胴を叩く音が調和する。


始めはゆったりと、一つ一つ音を奏でる。


そして徐々にテンポが上がっていき、撥をはじく右手と、弦を押さえる左手の動きが速くなっていく。


これは津軽三味線というやつだろうか。

速いテンポにリズミカルな音色が音数多く乗る。


素早くスライドする左手が美しく音を揺らし、撥は上に下にと激しく弦をはじく。


棹(さお)を自在に移動するその指の動きは、ギターソロさながらだ。


しかし、ギターのようにフレットがない三味線を、一体どうやったらこんなに速いテンポで弾けるのだろうか。

ギターしかやったことのない俺には皆目見当も付かない。


そしてその凛とした姿に三味線の旋律も相まって、より一層女性の美しさが際立つ。

時に静かに、時に荒々しく、三味線を縦横無尽に奏でるその胴体は微動だにせず、視線はただ一点を見つめる。


細い指が素早い動きを繰り返し、曲のクライマックスを伝える。


指と撥の動きが徐々に緩やかになっていき、数度撥を強く弾くと、美女は顔をゆっくりと上げ、深くお辞儀をした。


場には先程と同じく沈黙が流れたが、今度は自分と同じ雰囲気を確信した。

誰もが彼女の奏でる美しい旋律に引き込まれた。


程なくして、場は喝采に包まれた。


「いや素晴らしい音色だった。」


「異世界にはこのような美しい音を奏でる楽器があるのか。」


「実に優雅なお姿でした。」


今度は俺も理解出来る。まさに優雅という言葉がピッタリのお姿でした。


「あ……ありがとうございます……。」


肝心の美女は何やら浮かない顔をしているが、きっと慎ましい女性なのだろう。

どこかの誰かと違って、称賛を笠に着ないところに、内面の美しさが滲み出ている。


「これほどまでに才能豊かな者達がいれば、ヴィシュガルド王国も安泰ですな。」


「いやはや、全くだ。」


国王が側近らしき者と何やらご満悦そうに言葉を交わしている。

俺達のいた世界の音楽はこちらの世界でも好評価のようだ。

ならばと、次の御披露目を控える俺の腕に気合いが入る。


「では次は……その者が音を奏でよ。」


来た! 国王が俺の方を見て促した!

この世界にロックがあるか分からないが、俺の

ギタープレイで、群衆をあっと驚かせてやる!


「して、そなたの持つ楽器は……」


「これはエレキギターっていう楽器でして……」


俺が異世界に存在するのか分からないエレキギターを懇切丁寧に説明しようとすると、


「やはりギターであったか……。」


国王の言葉がそれを遮った。

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