第2話 黒秘

 今、屋上で学年1の美少女とも呼ばれる存在と向き合っている。


少女の名前は秋咲あきさき 唯未ゆいみ

ぱっちりと開いた大きくてくりくりした瞳。

すらっとした体に大きな胸。小さな鼻と口。そして、肩あたりまで伸びている艶のある髪。

全国模試も常に上位で運動神経抜群。何をとっても抜け目のない彼女は、入学して1週間で男子50人に告白されるという異例の事態によって、学校の有名人になった。しかも、告白される度に返事をせず、ため息だけついてその場を去るという残酷な振り方をするのだ。何も言われずに振られるというのが1番きついらしく、告白したヤツらは、みんな死んだ魚の目になって帰ってくる。


───そんな女がきつい目をしてこちらを睨んでいる。


いや呼び出しといて睨むなよ


沈黙が続いていたがそれを秋咲が破った。


「あなた、佐藤財閥のところの息子でしょ。」

「急にどうしたんだ。違うに決まっているだろ。こんなやつがどっかの会社の社長の息子だと思うか?」

無駄だと思うがはぐらかす。

「うちのお父さん、あんたのところで働いてるのよ。それで佐藤探は財閥の跡取りだから仲良くしなさいって言われたの。まさか、こんなキモイやつだとは思わなかったけどお父さんに言われたからしょうがないわね。仲良くしてあげるわ。」


そうだ。俺は佐藤財閥という日本四大財閥のうちのひとつの大事な跡取りであり、社長の息子である。

だが、ここで簡単に頷く訳には行かない。


「全く身に覚えがないんだが。それに媚びを売るにしては少し上からすぎやしないか?もし本当に俺が財閥の跡取りだったら大変な事になってたぞ。あと俺はお前と仲良くする気は無い。」

秋咲は考える素振りをみせた。そして意を決したように、

「わかった。あなたが財閥の息子であることはもう確信しているけど、そっちが仲良くする気がないのなら私もこんなきもいやつゴメンだわ。もう一生話しかけてこないでね。」

そう言って颯爽と去っていった。


「はぁ................」


残された俺は屋上から部活をしているヤツらを眺めながらため息をついた。

あっちが呼び出しといてあの言い方はないんじゃないだろうか。まぁ穏便に済んでよかっが......


「帰るか......」


かばんを教室に置いていたことを思い出して教室に戻る。

──と、そこには白いロープを上から吊り下げそのロープを首にかけようとする秋咲の姿があった。

「お前何して───」

「近づかないでっ!!!」

俺の言葉を遮るように秋咲が言い放った。

「なんで?あなたはぼっちで誰一人として友達がいないでしょ?それなのにこんなかわいい女の子が友達になろうって言ってるのをなんで断るの?」

さっきと同じように睨んだ目でこちらを見ている。

「言い方ってもんがあるだろ。あんな言い方されて、仲良くしたいって思う奴がいるのか?」

「しょうがないじゃない!学校では完璧を演じているのにあなたみたいなぼっちに頭を下げるなんて出来るわけないでしょ!あなたは知らないでしょうが、私のお父さんリストラされそうなの。部下の横領が見つかって責任をとれって。だから私があなたに楯突いたのよ。うちの家族の未来を背負ってね。」


....そんなことがあったのか。


学校1のクールな美少女は半泣きでこちらを見ている。


ダメだ。


昔のお人好しの俺が出てきそうだ。しかもこんなに可愛い美少女が目の前にいたら尚更だ。


「はぁ.........」


助けてやるか。今日2度目のため息をついた俺は平穏な高校生活を捨てる代わりにこの可愛そうな少女を助けると心に決めたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る