白と認識

 怖い話をしようと思います。これは僕の実体験です。

 

 それから僕は、逃げるように走りました。ですけれど白い部屋はどこまでも続きます。走っても走っても白い部屋が途切れることはありません。僕は、ここがどこだか探ってみることにしました。

 まず昨日のことを思い出すことにしてみました。いつもの通りの時間に起床して、白い扉の玄関を潜り、僕は会社に出勤しました。着用しているのは白のスーツです。僕が買ったわけではありません。昇進祝いで両親から貰ったものです。僕の白いデスクはいつも通り白いです。デスクに置いてあるコンピュータも白いものです。それもこれも会社から支給されたものです。仕事を終え、帰宅します。白い包丁を使って、料理を作りました。白い食器を使って、夕食を終えます。そして僕は白い布団で、眠りにつきました。

 やはりどう考えても変なことはしていません。普段通りの生活をしていたまでです。こんな変な空間に突然放り出される覚えはありません。

 白、白、白、白、白。

 どこを見ても白一色です。動くものは他にありません。僕は考えました。これは白の浸食ではないかと。この世界は全てを白に仕立て上げます。ですがどのように考えても白ではない。黒もありました。しかしどのようなものでも”それ”がそれを白であると決めれば白なのです。それがこの世の摂理でした。

”AならばBである、BでないものはAでない”

 有名なカラスの話です。Aはカラス。Bを黒い。とすれば、”カラスならば黒い、黒くないものはカラスでない”となります。であれば全てが白い世界でこのカラスは存在するのでしょうか。……おっと脱線しました。話を戻します。

 つまり、黒を白にしてしまう我々に業を煮やしたのではないかと僕は考えました。たまたま僕は白に好かれていたために白に浸食されなかった。それだけのことかもかもしれないと僕は考えたのです。だとするならば僕は白くないのでしょうか。白ならば白である、白でないものは白でない。それに僕は当てはまるのです。しかし僕は自分の身体を見ていないことに気が付きました。それはとても恐ろしいことでした。この場所から抜け出すために必死だったのです。僕は自分の身体を見たくありませんでした。だってそうでしょう? 僕の目に写ったものが白であるならば僕は僕ではなく、白なのですから。しかし僕は勇気を振り絞って、自分の身体を見てみることにしました。その結果は赤でした。

”赤はあかん、白にしろ”

ええ、そんなくだらない駄洒落も言いたくなります。この状況で赤を追加した”それ”は何を考えているのでしょうか。僕は憤慨しながら、目を閉じました。いっそ夢であれば楽でしょう。現実であると認めたくなかったのです。それから僕はしばらく意識を失ったのです。眠ったのでしょう。そして僕はそれ以降、眼が覚めることはなかったのです。


 以上が僕の怖い話になります。ご清聴ありがとうございました。

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