第45話 私って単純だな
「はぁ」
お兄ちゃんの馬鹿。
私の好意、ううん。私達は好意を伝えて知ってるのに。
好きなんだよ。
異性として。
お兄ちゃんの考えすぎてしまう所は長所だけど短所でもある。
優しいから自分の事は迷惑をかけないように一人で抱え込もうとする。
でも、本当は、私はしてほしくない。
もう少し甘えてほしい、もっと頼ってほしいのに。
特に今回に関しては。
恋愛は一人じゃできない。誰かがいて初めて恋ができる。
恋は考えるものじゃなくて自然に生まれるもの。
お兄ちゃんの場合はまず自分が恋をしたいと思えるくらい、自分の恋に興味をもってもらわないといけない。
私も江菜さんも雪さんも力になりたい。
その為でも、わがままかもしれないけど、私はお兄ちゃんの事をずっと分かってたい。
お兄ちゃんの心理が知りたくて、遠回しにしてでもという思いで、弓月ちゃんや美海ちゃん達皆に協力してもらったのに。
予想外にもお友達が出来たのは嬉しかった。
でも、冷静になってみれば私も焦りすぎてた。ゴールデンウィーク前までの間にしようと思ってたのに、今日言ってしまった。
ボーリング楽しかったのに、台無ししちゃったなぁ。
「というかここどこ?」
大きな公園っぽい。私はそこら辺のベンチに座って鬱ぎ込んでいる。
斜め左にF1が小さく見えるから、そう遠くはないと思う。
気分は暗い。
そんな私の方に近づいてくる足音が聞こえる。
「あれ?鈴奈?」
「雪さん」
顔をあげると雪さんがいた。
でも、何でここにいるんだろ。
視線を少し落として見てみると、上下ジャージ姿に、肩には小さなスポーツバックとテニスラケットバックを下げてる。
他校との練習試合だったのかな?
でも、お兄ちゃん達の学校はもうすぐ試験があるはずだし。
「雪さん何でいるの?」
「ここにいちゃいけないみたいな言い方だな」
「……意外だっただけです」
鬱ぎ込んでいる所、知り合いには見られたくないからある意味ではいてほしくなかったけど、既に今更だし。
「ただの息抜き。学校試験前で練習禁止だから。それで、どうしたの?ベンチで鬱ぎこんで?」
「雪…さん」
なんか突然、目許が熱くなって視界が涙で歪む。
「え?鈴奈!?いきなり泣いてどうしたの!?」
雪さんはどうしたら良いかあたふたしている。
その瞬間、私の目から更に溢れだした。
私もどう止めたら良いか分からない。ただ涙をぬぐい続けるしかできない。
「雪、どーしたの?」
遠くから雪さんを呼ぶ女の人の声が聞こえた。
雪さんは声の主の人の方に振り返って大きく声を上げて言った。
「ごめん!先に帰ってて良いよ!」
「分かったー!またあしたー!」
「あしたー!………鈴奈とりあえず何が理由で泣いてるか教えて?」
◇◇◇
「そっか」
私の隣に座って雪さんは事情を聞いた後、空を見上げながら言った。
少し思い詰めたような表情で。
「まだまだ私も蓮の事分かってないなぁ………分かってたら私も力になれたかもしれないのに」
お兄ちゃんが近くにいて見てたら、知ってほしい。お兄ちゃんの事が好きな人は力になりたいって思ってる人は近くにいるよって。
「ねぇ鈴奈はどうしたいの?」
私の心はもう決まってる。
お兄ちゃんが恋愛感情を欲してるなら、全力で手伝う。
江菜さんか雪さんのどちらかと結ばれてほしい。
お兄ちゃんに幸せになってもらいたい。
それで私は幸せだから。
「やっぱり兄妹だね」
雪さんにどうしたいかの気持ちを伝えた私を見て呟く雪さんの表情は仕方ないなあというような温かい目をしている。
呟いた言葉の意味が少し分からなかった。
でも、すぐにそれを理解することになった。
雪さんが言った。
「鈴奈の気持ちを聞いて思ったんだけど。蓮も同じなんだと思うよ。誰かの幸せを願って動いてる」
それは分かってます。
「分かってるって顔してる」
「え!……あ…」
雪さんはクスクスと少し戸惑う私を見て笑った。
「そして、そこに自分を含めない。あくまで第三者。さっきの鈴奈の気持ちも似たようなものだったよ。無意識に自分を除外してる」
お兄ちゃんはずっと恋愛をすることを諦めてきてた。感情を持っていない自分では興味すら持てなかったから。
でも、何の悪戯か他人の恋愛には興味を持てた。
きっかけがあって恋愛を手助けするようになった。
人の幸せを心から願えた。
世界を憎んだ。
神を憎んだ。
お兄ちゃんに幸せを与えようとしない
だから、私が支えよう、私がお兄ちゃんを幸せにしようって。そう思ってずっと心の中に抱く思いを告白した。
だから、私も似てるんだ。
私もお兄ちゃんに対しての恋を諦めたから。
それから恋愛をしたいと踏み出したお兄ちゃんに幸せになってもらいたいと思った。
……そっか、お兄ちゃん色々考えすぎるけど、こういう気持ちだったんだね。
あ。でも、少し違う。
心からお兄ちゃんの幸せを願ってるのは本当だけど。
私は、
「でも、私のは叶わない恋だから。だから、せめてお兄ちゃんには恋愛成就してほしいっていう………これは私のわがまま」
「ん?別に良いじゃん。それに蓮と違うのはあたり前。だって鈴奈の願いは恋から来るものでしょ。だから、そんなに苦しんでる。それに恋はわがまま。わがまま上等!」
ニヒッと雪さんは笑顔を見せた。
そうだよね。
雪さんだって、一度諦めてるんだよね。
けど、江菜さんに焚き付けられて、またお兄ちゃんを思う恋心と向き合ってる。
恋はわがまま。
そうだ。
はぁ。
私って単純だな。
思わず口角が上がって笑みが溢れた。
「だったら、私も含めてお兄ちゃんを幸せにする。後悔、しないでください」
「………あれ?ライバル増やしちゃった?」
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