第43話 それは誰のため 2

憂鬱要素ありです。苦手な方はお控えください。

でも、読んでほしいです。

――――――――――――――――――――


休憩場に戻ってきて、美海さん、悠さんは僕の向かいのソファに座った。

その後、二人と自分の分の飲み物を買い、二人に渡して、弓月ちゃんも向かいに座った。


「………」


分からなくなった。


鈴に否定されて、頭が真っ白だ。

話を聞いた後、鈴を追いかけるべき、それとも追いかけるべきじゃない。


分からない。

分からない、自分の恋愛って何なんだよ。


「春咲先輩」


「…はい」


美海さんに呼ばれて僕は覇気の無い、返事をした。

春咲先輩と呼ばれても違和感がないのは、それが本当の呼ばれ方だからだ。


「先輩にとってお姉様はどんな存在ですか」


僕にとって、鈴は…。


「鈴は、鈴奈は大切なたった一人の妹で…家族で…それで……それで…」


言って、良いのだろうか。こんな僕が、鈴の初めてだったと口にして。


いや、違う。

それを否定することはしちゃいけない。

許さない。


「…僕に初めてプロポーズをしてくれた女の子だ」


◇◇◇


『鈴丘中学校一年二組』


「蓮、おはよー!」


「おはよう、雪。朝練?」


元気良く僕の席にやって来た雪に挨拶を返した。


「あったり!正解した蓮には疲れたときの手軽で最高の甘味、チョコレートを贈呈します」


すると、雪は包み紙に包まれている丸いチョコレートを手のひらに乗せて僕の前に差し出してきました。


「ありがとう。じゃあ、はい」


僕は雪の手のひらにチョコを乗せた。

直後「え?え?」と言いながら戸惑う雪に、僕は言います。


「朝練で疲れてる雪に、チョコを贈呈します。お疲れ」


「……えへへ、渡した介あったかも。ありがとう」


「雪、本音」


「あ……あははは」


「手洗いから戻ってきたら、朝から仲睦まじくしてるね」


さらっと樹が言ってきた。

表情には出してないけど、これはからかってる。

何時からか樹が雪と二人きりの所を見つけると弄って来るようになった。

そういう関係じゃないのに。


そもそも、なれないのに。

まあ、知らないから仕方無いのだけど。


雪も顔真っ赤にしてるんだから、本当にやめてあげてほしい。


「幼馴染なんだから普通でしょ。あ、そうだ樹を紹介してほしいって女の子が」


「そうだよね、普通だよね、幼馴染なら。うん!」


でも、数日経ったらまた言う事になるので、一時でしかないんですよね。

まあ、本当は樹を紹介してほしいって女の子に紹介してあげたいけど。

樹本人は女子が苦手だから出来ないんだよね。

だから、こうして脅しにしか使えないとか、我ながら鬼畜だと思います。


そもそも、樹が弄らなければ良いだけの話。だから、これで止まれば僕もやめるんだけどね。


何時になるのやら。


「そうだ、蓮。放課後、私の家来ない?部活無いんだ。それでね、親戚の叔父さんが旅行に行ってお土産でお菓子くれたんだけど」


「ごめん、今日は用事あって、その後買い物しないといけないから」


「そっか……じゃ、じゃあ帰ったら蓮の家に行って渡しておくから食べて」


「ありがとう。という訳だから樹、陸上部今日は休む」


ごめん、雪。

せっかく部活無くて誘ってくれたのに。でも今日は大事な日なんだ。

僕にとってではないけど、その人にとっては大事な日。


「分かった。というか蓮地、部活もだけど、後期辺りから付き合い悪くない?」


「色々あるの」


「ふぅん、それって彼女?」


バン!


「え、れれれれ蓮、彼女出来たの!?」


雪は机に手を勢い良くついて前のめりに聞いてきた。

何で言われた本人より、驚くの。


「違う、本当にただの用事。樹も適当な事言わないでよ。というかそれで雪の反応楽しんでる?」


今も否定したのに、凄い形相で雪に見つめられてるし。


「違う、この状況を楽しんで…」


「さっき紹介して欲しいって言った人、隣のクラスだからちょっと呼んでくるね」


「やめろ!つか、もうすぐSHRショートホームルームだって」


そう言いながら樹は、僕の手を掴んで止めようと必死に腕を引っ張る。


「痛い痛い!分かったから、行かないから」


その後、僕は樹に「言葉が素に戻ってる」と囁いた。


キーンコーンカーンコーン


「じゃあ後でね、蓮」


「うん、後で」


「本当にやめて」


だから言わねぇよ、とツッコミたい。


「大丈夫だから、席戻りなよ」


それから授業を受け、昼休みに昼食を食べてまた授業を受けて、放課後になりました。


「じゃあ蓮、また明日ね」


「明日は部活来てよ。張り合いないから」


「うん。また、明日」


さて、僕も行こっかな。


そして、来た場所はとある公園。

僕は離れた場所から、恋愛助っ人依頼してきた男子の告白を見守る。


と言っても実際に見る訳でも聞く訳でもない。

最後まで手伝っている以上はその場にいて交際成立を願いたい。


願っていると、「やっしゃあ!」と大きな声が聞こえてきた。

これ聞くつもりも、見るまでもなく好きな女の子からOK貰えたみたいだ。


おめでとう。


「あ、ヤバい。買い物急がないと」


急いで僕は近くのスーパーに入って、今日の晩御飯の食材をカゴにいれて、会計を済ませた。


「お兄ちゃん!」


振り返ると、鈴が手を振って走ってきていました。


「お兄ちゃん!」

「ごふっ!」


もうすぐ僕の側というところで鈴は思い切りダイブして、僕に抱きついた。

まあ、いつもの事。

でも、最近、勢いに磨きが掛かってるような気がする。


中学はロケット並に強化されてるのかな?


「お兄ちゃんに会えるなんて運命」


「少女漫画の読みすぎ」


「そんなこと無いもん、偶然で学校の帰り道で出会うなんてないもん」


良く見ると、鈴の通っている小学校の通学路でした。

急いで買い物済ませて、途中走ってたから気付かなかった。


「偶然のような」


「運命」


「はいはい運命、運命」


「むぅ〜…お兄ちゃんのバカ。わびとして手つないで帰って」


そんな言葉、どこで覚えた。

お兄ちゃん悲しい。


「分かった。それで鈴の機嫌を取り戻せるなら、喜んで繋ごうではありませんか」


「えへへ、ありがとうお兄ちゃん!」


それから、鈴と手を繋いで小学校の通学路を歩いていった。

暫くして、住宅街の前にある橋に入った。


そこで鈴は突然手を離して、前に出た。

一定の距離離れると鈴が振り返った。


「お兄ちゃん、あのね……お兄ちゃんに伝えたいことがあるの。とっても大切な」


「ここで?」


「うん、ここで」


夕焼けに染まった橋の真ん中。

そこで伝えたいことって何だろう。


そう思っていると、鈴はスカートの裾をぎゅっと握り締めて、そわそわと落ち着きがありません。

腕も足も、緊張しているのか震えています。


そして、鈴は深呼吸をした。


「…お兄ちゃん、私ね、お兄ちゃんが好き」


「ん?鈴がお兄ちゃん好きなのは」


「違う、違うの!最後まで聞いて」


僕は黙って頷いた。


「……お兄ちゃん、私の恋人になってください」


「……」


恋人?それって鈴が、僕を好き?ってこと、兄じゃなくて、異性として。


つまり、これって告白をされたってこと。


「でも」


鈴の告白はまだ続いているみたいです。


「でも?」


「ただの恋人じゃなくて、将来結婚する相手としてなってください!」


結婚前提での付き合い。

僕は妹に告白とプロポーズを一辺に受けたわけだ。


こういう時って、妹でもやっぱり告白は嬉しいのかな。

多分、嬉しいだろうね。


もし、本当にきょうだい間での恋愛があるなら、僕は否定しない。

駄目だと言われても、好きなものは好きなんだから。


でも、僕には無理だ。


僕は人の恋愛には興味があっても、自分自身、恋愛をやりたいとは思えない。


鈴に告白されても、何も感じなかった。

穴から何かが通りすぎたような感覚を受けた。

当然だ。僕には決定的に恋愛感情が欠けているから。


答えられない。

でも、返答を濁すことはできない。


だから僕は、教科書みたいなセリフを吐いた。


「ごめん、付き合う事も結婚も出来ない」


「あは、そう……だよね。うん当たり前だよね……ごめんお兄ちゃん……帰ろっか」


「……うん」


鈴は僕の手を握って前を歩き出す。


告白を振って傷付けてしまうことは避けられない。

でも、正直な思いを返すことが、勇気をもって好意を示してくれた人に対しての誠意だから。


なら、僕は鈴に話せば良かったのかな。

恋愛がないこと、もう一つの……いやこれはまだ分からないし言わないでおこう。


でも、どうすれば良かったのかな。


今、鈴は普通に接しようとしてる。

でも、それで良いの。

変わらない関係なんてない、何処かは知らずに変わってる。


今の僕達みたいに。


「鈴」


足を止めて鈴は振り返った。


「何かな?」


こういう時、雪が羨ましく思った。正直に素直に話せる雪が。

だから、僕は少しだけ雪の性格を借りようと思った。


「正直に言う。この先、今まで通りの兄妹とはいかない」


「…っ!うん」


悲しい表情に一転して下唇を噛む鈴。

分かっていたことだろう。それでも辛いものは辛い、悲しいものは悲しい。


「だから、今日からまたよろしく」


「うん、よろしくお兄ちゃん」


どうすれば良かったのか分からなかった。


でも、僕はこう思った。

事前に知っていれば、好きになる事なんてない。


そして、翌日、僕は幼馴染二人に恋愛感情がないことを言った。


◇◇◇


今思い出せば、それがきっかけで、結局雪を傷付けてしまうことになったんだから意味無いよね。


笑える、自分に笑えるよ。全く。


傷付けてばっかりだ。


「僕が恋愛なんてしちゃいけないんだ」


「それで良いんですか。良いわけありませんよね」


「先輩、あなたは馬鹿です!大馬鹿です見失ってます」


「そんなのわかってるよ!」


完全に八つ当たり口調で美海さんと悠さんに当たってしまった。


このままで良いわけないなんて、わかってるよ。

大馬鹿なのもわかってるよ!

やってること、やりたいこと、すべき事を見失ってる、何も見えてないなんてとっくに痛感してるよ!


でも、僕は……生きるより他に…。


「………」


だからこそ、せめて誰かには幸せになって欲しい。


「誰かの幸せ願って……何がいけないのさ」

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