第41話 分からないよ

「はぁ、球技はもうやだ」


別に惨めとかには見られても全然良いんですよ。モテたいわけではないですから。

それに見栄はると失敗しそうですし。

既に失敗みたいなことをしてますが。


まあ頑張ればどうにかなりますけど、やりたいことをありますし、気分転換くらいですかね。


「じゃあ、別のところ行こ」


「鈴、ありがとう」


ブ〜、ブ〜


メールだ。


「……うっ」


「蓮兄どうしたの?」


「え…ううん。気にしないで」


「?…うん」


来たメッセージに少し憂鬱になりながら僕は鈴の隣を歩いた。


◇◇◇


僕の一言で下の階にあるエリアへとやって来ました。


「お姉様、蓮地先輩。どこに行きますか?」


美雨さんの質問に鈴は「とりあえずまわってみよ」と返す。


「お姉様、皆〜。アーチェリーあるよ〜」


既に比奈さんがまわっていました。

早い、そして誰よりも楽しんでる。

美雨さん達はそんな比奈さんを追いかけていった。


僕もアーチェリーやってみたいし、いいかも。


「アーチェリーやりたいの?」


「分かった?」


「当たり前の園。蓮兄の事なら分かるよ」


じゃないんだね」


そう言った途端に、鈴は俯き、少し暗い表情になりました。

いつもなら「お兄ちゃんの事なら何でも分かるよ!」って自信満々に胸を張って返してくるはずなのに。


「鈴?」


「……えへへ。大丈夫だよ、お兄ちゃん」


そうは言っても、無理矢理笑顔を作る鈴は見てて堪えられない。


原因は明らかに僕だ。


やり取りが今日は悪い方向になった。

暗いまま皆の所に行けない。謝っても鈴を困らせて、気遣わせてしまうだけ。


こういう時の言葉ってアドバイスするときはホイホイ出そうものなのに自分だと中々思い浮かばない。


「鈴、無理に笑顔作らないで」

「………」

「僕も辛くなる。だから、悩んでるなら言って」

「……うん」


よし。

僕は弓月ちゃんにCOMINEで『あとで行くから先に遊んでて』と送って鈴と休憩所のある方に向かった。


休憩所にある自販機で飲み物を購入して鈴に渡した。

ちなみに飲み物はシソのジュース。めったに無いから鈴は見つけると必ずこれを購入するんですよね。


「あ、シソジュース」


「あったから」


「ありがとう、お兄ちゃん」


鈴はシソジュースを一口飲んで話を切り出そうとしつつも黙りこむ。

僕はそれをじっと待ちます。言い出しにくいことを催促しても相手は困るからです。


だから、僕は待つ。


それに待つのには慣れてます。恋愛相談の依頼人から告白の結果を来る度に待ってるからですね。


「えっと……ね…」


「うん」


「私……最近…お兄ちゃんの気持ちが分からないの」


え?質問したい。でも、今は最後まで聞くことにしました。


「……えっと」


どこから話せば分からなくなったのか鈴はまた考え始めた。

ちょっとだけ助けよう。


「最近っていつ」


「…うん。曖昧になったのは江菜さんと付き合うことになってから、分からなくなったのは雪さんに告白されてからだと思う」


確かに江菜さんの時は悩み悩んでワケわからなくなった。今はその関係を続けてる。

恋愛感情が僕に生まれたとき、応えるために。


雪にしても、同じ。告白はされて振ったけど、答えは出せてはいません。

雪も諦めず好意を示して、部活サボろうとしてまで一緒にいてくれようとしてます。


二人の気持ちに応えたい。その気持ちに偽りはない。無いですけど、鈴が僕の気持ちが分からないと言って、分かった。


決意したつもりだったそれは決意できてなかった。

『このまま恋愛感情が芽生えることが無かったら』という不安。


考えないようにしていた、『こんな僕をに好きなままにさせていいのだろうか』という考え。


僕にとっては恋愛感情を得るための事が出来るか分からないチャンス。


でも、それは三人の別の可能性を塞いでしまっている。

このまま奪い続けて恋愛感情が芽生えなかったらどうするの。


それが怖い。

たまらなく怖い。

皆の幸せを奪ってる気がして怖い。


それを無意識に考えないようにしてた。

樹に相談しようとしたけど、怖くて言えなかった。


「お兄ちゃん、覚えてる。お兄ちゃんが中学一年の時に私が告白したの」


「うん」


◇◇◇


お兄ちゃんが中学一年、後期の時だった。


私はお兄ちゃんに新しい服を買いたいから付き合ってと理由を付けてお母さんと行く買い物に付き合ってもらってデートをした。


お母さんとは時間を決めて別行動でショッピングモールスを回った。


子ども用ファッションショップに行って理由通りに服を選んだり、お兄ちゃんに選んでもらったりして楽しんだ。


ゲームセンターに行って数回だけ遊んだり、見るだけだったけど、本屋に行ったりもして楽しい時間を過ごした。


そして、時間が間近になったときに集合場所の中央広場でお兄ちゃんに告白した。


「お兄ちゃん………私、お兄ちゃんが好き、男の子として好き………その…付き合ってください!」


答えは勿論振られた。


「ごめん、鈴は僕の妹だから、異性としては見れない」


振ったことは本当だった。

でも、違和感があった。妹としてというのも本当だとは思う。

それなのに拭えない、違和感があった。


お兄ちゃんの顔をみると、とても辛く酷い顔をしていた。悔やんでいた。


だから、分かった。お兄ちゃんの表情が、『本当に応えられなくてごめん』って言っていたのが。


だから、私は悔しくも、辛くもなかった。

本当に応えてくれる日がいつか来る。その時が来たら私はお兄ちゃんに異性として好きになってもらって、その時にもう一度告白するって。


でも、最近お兄ちゃんが分からない。


葛藤してるのは分かる。それが江菜さんと雪さん、あと、多分私の為のものだって。

それで前に進もうとしてるのも。


だから、分からない。


なんで、お兄ちゃんは自分の為に恋愛をしようしてないのか。


「わからないよ」


「鈴?」


「なんで、お兄ちゃんは自分の為に恋愛をしようとしないの?」


私は知らずにその言葉を言ってた。




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