第36話嘘の恋人と初デート2

《江菜》そういう事でしたか。


《蓮地》やっぱり妹に嫉妬するものですか?


《江菜》それは蓮地さんが一番ご理解されていますよね。


《蓮地》ですね。ところで江菜さんいまどこに?


《江菜》秘密です。

内緒スタンプ


◇◇◇


 ボウリング受付所でスタッフさんにスタッフルームに運ばれた美雨さん達の知り合いという事を説明して案内してもらいました。


ガチャ


「七海さん、森川さん、朝空さん大丈夫!?」


「春咲さん」

「「お姉様」」


何故ここに?と豆鉄砲に打たれたような驚愕の表情で、七海さん達はソファに寝そべった状態で鈴の方に顔だけを向けました。


「お兄さん、なーちゃん、な、何でここに?」


弓月ちゃんが教えてくれたんでしょ、と答えると内通者とバレるので言いません。

それにしても、動揺する声、仕草の演技上手い。演技部でも活躍出来るんじゃ。

役者でないのは、惜しいことに顔がニヤケてるからです。


「美雨さん達が仰け反ったと思ったら、ボウリングが丁度終わった頃に運ばれていったから」


「バレていたんですね」


「うん。それで、何で運ばれたの?」


「そ、それは」


理由が理由ですからね。鈴の一面というか表情で興奮して鼻血を出したなんて本人に言えないですよね。


「貧血、貧血です。蓮地先輩」


美雨さんが困っているところに慌てて適当な理由を悠さんが言いました。


それは無理があるでしょ。


「三人同時に貧血?」


「私達、お姉様貧血三人組でーす」


それを聞いて弓月ちゃんがブッと笑いを噴き出しました。

ごめん比奈ちゃん。それ、鈴も貧血みたいに聞こえるから改名して欲しいかな。


「比奈ちゃん改名して」


「お姉様ダメですか?」


「私が貧血みたい」


鈴も同じ事を思ってたみたいです。


「うわっ!本当ですね。……じゃあ、お姉様同盟代表三人組、通称お代さんで」


「普通にお姉様同盟代表組でいいでしょ。比奈ってちょっと馬鹿なのね」


「ひどい悠ちゃん」


「し・ん・じ・つでしょ?」


「悠ちゃん許さん」


「やる?」


悠さんと比奈さんが起き上がろうとしたところで「スタッフさんに後で迷惑掛かるから二人とも大人しくして!」と美雨さんが静止すると、大人しく寝直しました。


直後、突然、鈴が笑いだしました。


「春咲さん?」


「はぁはぁ…三人って、面白いね。早く話し掛ければ良かったかも」


笑い涙を拭いながら言うと、悠さんが寝ていた体をゆっくり起こして話し出しました。


「それなら私達もです、お姉様。私達にとってお姉様は憧れの存在で、話し掛けるの勿体ない。そう思って話し掛けなかった私達も悪いですよ」


「悠ちゃんの言うとおりです」


と、美雨さんが力強く言い。


「流石、真面目な悠ちゃん」


「真面目は関係ないでしょ」


頷きながら言うと、ツッコミを悠さんに比奈さんは入れられました。


「それよりも春咲さん、デートの続きをしてください。いてくれるのは嬉しいですけど」


柔らかい声で美雨さんが言いました。

それに「分かりました」と一言いうと、「それじゃあ」と前置きして鈴は言いました。


「鼻血しっかり止まったら、皆もスポッツに来て」


「それは……!」


悠さんが興奮して言おうとしたけど、美雨さんが冷静に戻ったようで首を横に振った。


「いや、ダメですよ。せっかくのデートをこれ以上邪魔できません」


「最初から尾行してるの分かってたからデートしにくかった」


敢えて鈴はディスって受けざる得ない状況を作った。でも、美雨さんは引きませんでした。


「それなら、尚更」


「尚更一緒に遊んでもらわないと。心配でまた、やりにくいから」


優しく柔らかいな微笑みで鈴は言った。


「「「お姉様」」」


「あれ?あの七海さん、なんで春咲さんからお姉様になったの?春咲さんでいいよ?」


あっ!、口を開けてそのまま固まりました。

どうやら、内心ではお姉様呼びだったようです。


でも、お姉様じゃなく春咲の方で呼んでいる理由の真実は美雨さんの胸の中。


「木更さん、ちゃんと血が止まったらメッセ飛ばして」


「了解、それでなーちゃんとお兄さんはどうするの?」


と、言われた後、鈴はどうする?とアイコンタクトと首をかしげて訊ねました。


「時間も良い頃合いだしお昼行こっかな」


「うん。じゃあ待ってるからね」


「「「はい、お姉様」」」


笑顔で対応した鈴でしたけど、去り際、鈴が困った表情をしたのを僕は見逃しませんでした。

お姉様も大変だね。


スタッフルームを後にして僕は鈴に昼食のリクエストを訊ねました。


う~んとしばらく迷い込んだ後、鈴は頷いてから僕の顔を見て言いました


「久しぶりにラーメン食べたい」


「良いよ」


「ここから徒歩で5分の所にあるみたいだよ」


既に調査済みだった。


「鈴、本当にラーメン好きだね」


「うん!願わくはお兄ちゃんのラーメンが食べたい。お気に入りは自家製煮卵とチャーシュー」


「もう二年も前だから……麺、作れるかな」


「初めてでコシがあるの作れるなら大丈夫だよ。ラーメン大好き鈴奈さんが保証します」


「分かった。じゃあいつかね」


よし、と嬉しそうに小さくガッツポーズを鈴はとった。

可愛い妹です。


「お兄ちゃん行こ!」


鈴が僕の腕にしがみつきました。


「はぁ〜やっぱり落ち着く。あと、ドキドキする」


我慢させてた分が出てきたんだ。

ごめん、鈴。普段通りとか言っておいて自重させて。

でも、過剰すぎると恋人というより家族とかに思われる可能性があるから。


だから、今はいっぱい甘えさせよう、僕はそう思いながら鈴の頭を撫でました。


「お兄ちゃん」


「ん?」


「ありがとう」


これが何を意味するのかを理解して僕は「鈴が困ってるなら力になるよ」と言いました。

鈴は僕が困ったら力になってくれるって、僕の恋愛助っ人をすると言ってくれました。

だから、助けるという事ではないですけど。家族として、兄として妹を助けたいからですし。


「…お兄ちゃん、大好きだよ」


「ありがとう」


もしかしたら、鈴は助けになってくれるとは思いつつも、心の何処かでは、僕に対する気持ちに諦めきれていないのかも。


そんな事を思いながら、僕は鈴と一緒にラーメン屋に向かいました。





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