第33話 親友の家にて

女子中学生四人と勉強会を始めてから約二時間。教える必要あるってくらいに質問が余りなく、殆ど個人でやってる状態です。

本当に彼氏を見に来たという感じです。


「……にい…れん…い…蓮兄!」


「な、何!?」


「10分くらい休憩しますけど、蓮兄はどう?」


「僕もしようかな」


「じゃあお菓子取ってきますね」


と言って鈴が部屋を出ようとした時に僕は呼び止める。そろそろ、普段通りの鈴でもいいかなと思って。

鈴は「何ですか?」と首を少し傾げて尋ねます。



「その喋り方、止めてもいいんじゃないかな。少なくとも七…美雨さん達の前なら。どうせ勉強始める前に僕の知ってる一面一部話しちゃってるんだし」


「……分かった。行ってくるね蓮兄!」


そう言って、頬を少し赤くしながら嬉しそうな満面の笑みを浮かべながらリビングに向かっていきました。


「…って三人鼻から血垂れてるよ!」


「「「え?」」」


言われて気づいた三人は慌ててティッシュで付いた血を拭き、暫く寝転がりながら鼻にティッシュを詰めるという女の子のレアな姿を目撃してしまいました。


それにしても鈴を慕いすぎでしょ。他の子達もそうなの?怖い…いや、凄い?、かな。


「あの蓮地先輩」


「何?森川さん」


「…帰ります」


「その方がいいかもね。でも暫くは鈴の家にお世話になってた方がいいと思うよ」


「ですね〜、戻ってきたらお姉様に謝らないと」


三人とも迷惑をかけてしまうことがとてもショックみたいです。

鈴は凄いな。


カチャ


「お待たせって、七海さん達どうしたの?」


これ、鈴の笑顔にやられたことは言わない方がいいですよね。

一応確認のために、三人を見ると、軽く何度も頭を横に振りました。


「頑張り過ぎたのかな、頭に血が昇ったみたいで鼻血が…暫く安静にしてもらったら、今日は終わりね」


「うん」


「あと、服貸してあげて、制服に付いちゃってるから」


「え!それ早く言ってよ。とりあえず蓮兄は出て」


僕はすぐに部屋を出ました。


『三人ともごめんね、脱がす!』


『『『お姉様〜!!』』』


すぐに鈴は三人の制服を抱え洗濯機のある洗面所に向かいました。

帰ろ。


僕はリビングにいる母さんに挨拶する。


「じゃあ、一ヶ月はいないから」


「了解。あとこれ、によろしく」


渡されたのは和菓子の入った紙袋でした。


「ありがとう。……


「気をつけてね」


家を出る前に三人の状況を伝えて上にいってもらいました。

僕が行ったら駄目でしょ。なので。


そして、僕は春咲家をあとにしました。


やっぱり、暫く自分の家じゃないって寂しい感じがします。


◇◇◇


春咲家を左方向にバイクを数分も経たない距離を走らせた所にある。水色の一軒家にある駐車場にバイクを止めさせてもらい。玄関に向かいました。


リンゴーン


『お、蓮地か。早くね?』


「まあ、ちょっとトラブルがあって早めに切り上げたんだ」


『そっか。ちょっと待ってろ』


すぐに扉から樹が出てきました。


「じゃ、一ヶ月よろしくな」


「うん、よろしく樹」


昨日の話し合いで僕は自分の家にいない方が良いという事を説明しました。

もし休日、突然、美雨さん、悠さん、比奈さんの誰かが家に尋ねてきた場合、彼氏なんでいても可笑しくはないですけど、油断して家族関連の単語を出してしまったらいけないと思ったからです。


それで、一ヶ月どうするかで樹が「家来るか?」と言ってくれまして、雪や江菜さんも立候補はしたんですけど、流石に一ヶ月の間、鈴が彼女なのに泊まるのは……ね。


という訳で、凉衣すずごろも宅にお世話になることになりました。


玄関で靴を脱ぎ、リビングに行くと、シルバーフレームの眼鏡をかけた男性と背後に隠れている三つ編みの女性が立っていました。


「陽治さん、華火さんお久しぶりです。一ヶ月と長期間ご迷惑をお掛けしますがお世話になります」


「久しぶり、相変わらず真面目だね蓮地君は。自分の家と変わらず気軽にしてくれて良いからね」


「はい。あ、これ、母さんから二人にと」



「和菓子、しかも老舗有名店だね。ありがとう」


と、ニコッと微笑む眼鏡の男性が凉衣陽治すずごろもようじさん。

樹のお父さんで、キリッとしたつり目に右目に泣きぼくろが特徴のイケメン。

陽治さんは建築デザイナーの仕事をしており、この一軒家も陽治メイドでの設計だそう。


で、優しく僕に接してくれていますが、怒らせると樹と似るのが残念というか、怖いです。基本温厚で中々ないですけどね。


「ほら華火、くっついてないで、蓮地君だから大丈夫でしょ」


「う、うん」


陽治さんの後ろからゆっくりと目が隠れるくらい長い前髪で後ろを三つ編みで結った女性が現れました。


「……ひ、ひさ、久しぶりだね蓮地くん」


「はい。お久しぶりです、華火さん。一ヶ月も滞在する事になり本当に申し訳ありません」


「え、あ、いやあの……き、気にしないで。わわわ私も…れ、蓮地くんに久しぶりに会えて、う、うれ嬉しい…から」


と、慌てふためく華火さん。

僕は今、土下座をしています。


凉衣華火すずごろもはなびさん


ごく、普通の家庭妻さん。


けど、華火さんは女子男子に迫られるほどに人気だった為、対人恐怖症になってしまい殆ど家から出ませんし、普段から眼鏡をかけ長い黒髪は三つ編みにして地味に見える服装を来て過ごしています。


つまり、極度の引っ込み思案な部分もあるので、先に引けない状況にすれば逃げられないですからね。


本当は華火さんは月下美人で、対人恐怖症だった為、殆どんど勉学に励んでいて頭も良い。


で、その対人恐怖症ですが、陽治さんや樹は当然ながら、僕の春咲家、雪の小羽織家は長年の付き合いで大丈夫になったそうです。


特に僕はかなり気に入られてます。

理由としては一度、華火さんの素顔を見ても綺麗とか美人だとは思っても迫るような事がないかったから。

顔を出していた頃は魅力されたようにすぐ迫られてたみたいですから。


まあ、僕はそれ以上何も感じないから。


その頃の写真を陽治さんが一度こっそり見せてくれたんだけど、全く変わってないと言って良いです。

母さんも大人びてはいるけど、年齢と反比例してる。

それに鈴も雪も樹も、そして、今は江菜さんと僕の周りハイスペックな人種が多すぎ。


僕?僕は全然平凡ですよ。

鈴ともそんなに似てないですし。だから結構謎に思ってるんですよね、色々と。


「蓮地君、なんだか華火の扱いに慣れてないかい?」


と、今華火さんが真下に俯いているとき、陽治さんが耳打ちをしてきました。


「いえ僕はただ、恐怖症の華火さんが大丈夫な相手の一人なので、僕達の前くらいは少し前向きで接してもらえたらって思っただけです」


「そうか、ありがとう蓮地君」


別にお礼を言われるような事を言ったつもりはないですけど、ここは素直に受け取るべき、かな?


「どういたしまして?」


「なんでそこで疑問形なんだよ」


と、微笑する樹。


「えええとさ、三人とも…な、何話してるの?」


「今日の晩御飯は何かを蓮地君に出してたんだよ。ヒントをあげながら」


と、陽治さんが話を誤魔化してくれた。


「そうなんだね。そ…そそ、それで蓮地くん何か分かった?」


「はい。唐揚げですよね」


「う、うん……正解。も、もう食べる?」


「俺は空いてきたな」


「僕も食べられますよ」


「陽治さんは?」


目は見えませんけど、華火さんは本当に陽治さんが好きなんですね。

頬が少し赤くなって、口角も少し上がって、話し方も滑らかになってる。


「大丈夫だよ」


「じゃあ、すぐ作るね!」


「ありがとう樹。耳打ちしてくれて」


「良いってことよ……手伝いたいんだったら行ってこいよ」


「え、良いの?普通断らない?」


「まあ普通はな。お前なら遠慮しなくて良いし。何もしないのは嫌なんだろ」


「まあ、じゃあ行ってくる。陽治さんすいませんけど、華火さんを説得してもらえませんか?」


「構わないよ」


そして、あっさり華火さんは陽治さんに説得されて、僕は調理を手伝えることになりました。

手を洗っていると前髪をカエルがシルエットのヘアピンで上げて華火さんの素顔が現れた。

シュッとした小顔に少し垂れ目になった大きな目、小鼻、綺麗なピンク色の唇、顔を出すのに躊躇があって少し紅潮している綺麗な白美肌。まさに眉目秀麗

本当に一目惚れされても可笑しくないですよね。


「……変わらず……思わないんだね…蓮地くんは」


「綺麗とは思いますけど、惹かれる事はないですね」


「だから……好き」


本当なら、間違って惚れちゃうんだろうな。

……どんな気持ちになるんだろう。


「それはどうも。でも三番目にしないと怒られますよ」


「…だ、大丈夫…してるから」


そして、華火さんにメインの唐揚げに集中してもらい、僕はサラダと味噌汁を頼まれましたのでこの二つをやることになりました。


「な、慣れてるね…蓮地くん。家でも…やってるんだ」


「はい。特にやってるのはスイーツ作りですかね」


「たた、例えば?」


「最近だと母さんの誕生日に苺のホールケーキを作りましたね」


「…あの…近いうちに…お、おし、教えてくれる、かな」


「良いですよ。華火さん味付けどうですか?」


味噌汁を入れた取り皿を渡し、受け取った華火さんが確認する。


「出汁と味噌が良い感じ…美味しい」


「じゃあこれでいきますね」


椀に具、味噌汁を入れ、白飯を入れたお椀と一緒にテーブルまでトレーに乗せて持っていきました。

サラダは樹が持っていってくれたから、後は唐揚げだけ。

数分後、唐揚げの乗った大皿が髪で顔を隠した華火さんと共にやってきました。


「「「いただきます」」」


「いただきます」


そう言えば樹の家に泊まるのは中二以来で久しぶり。

確か、その時も唐揚げだったような。


「ん?…どうしたの樹?」


「いや、食わないの?」


「食べるよ。皆が食べたら」


「なんだそれ?そう言えば、母さんもあとから食べるよな」


華火さんも同じなのかな、食べる人が美味しいって感じた時の顔が見たいの。


「樹も料理をしたら分かるよ」


「なんだよ。親父は分かるのか」


「分かるよ」


「俺だけ除け者かよ」


不機嫌な顔で唐揚げや味噌汁を食べる。

直後、「美味い」と樹は機嫌が直りました。

それから僕と華火さんも食べていきます。


唐揚げは焦がしニンニク、塩だれ、醤油の3つの味がありどれも手間がかけられて、低温で最初揚げているため、カリッとした衣に閉じ込められた柔らかい鶏肉の中からジュワっと肉汁が溢れ、三種の味で無限に食べられそうで美味しいです。


塩だれのレシピ教えてもらおうかな。


「……そうだ、近いうちに華火さんとスイーツ作るから参加する?」


「お、するする。でも、いきなりスイーツってハードル高くね?」


「虹パティのみかんだって初心者からだったんだし大丈夫だよ」


「それ漫画だろ!少女漫画」


「大丈夫だよ。スイーツのスピリッツみたく手取り足取り教えてやるから」


「怖い言い方するなよ」


「ははは。そうだ蓮地君、彼女出来たんだって」


唐突で、飲んでいた味噌汁が変に入り込み咳き込んでしまいました。


「いづぎ…話したの」


「隠すことでもないからな。事細かくは言ってないから安心しろ」


つまり、僕が恋愛感情を持っていないことは黙ってくれていると解釈して良いんだ。

それなら安心かな。


「しかも相手は雪ちゃんじゃないらしいね」


「…知ってたんですか。雪が僕の事好きなの」


「まあね。恋しってる男として理解できないとね」


「俺は恋愛関係なく知ってたけどな」


何で自慢気に言ってるの。


「蓮地?」


「何?」


「いや手が止まってるからさ」


「ごめんごめん」


というか会話で止めるのは普通。


それから黙々と食べて、親友家族との食事が終わりました。

そのあと、樹と一緒に風呂に入りました。

入浴中、部活疲れで樹は腑抜け状態になっていました。


それから樹の部屋に入りました。


中は壁際にゲーム機とテレビ、ランニングマシーン、バランスボールがあり、向かいに机とベッドがひとつになった二段ベッド、隣に本棚とシンプルな部屋。

でも、樹の部屋には天井フロアがあって天窓があって天気が良ければ月が綺麗に見えます。

今日は天気が良く今僕と樹は布団の上で天窓を眺めています。


「蓮地、今日来た鈴奈ちゃんのクラスメイトはどうだった?」


「鈴が大好きなのが染みるほど分かった。普段の鈴を見た瞬間鼻血出してるし」


「なるほど、それで早く来たわけか」


「うん。あと、学校での鈴が全然違うのも知った。知られたくなさそうだから教えないけど」


「こっそり」


「無理」


即答され、少し残念そう。樹は楽しいと思った事聞きたくなる節があるからポロっと出さないようにしないと。


「…ここ最近大変だな」


「そうだね。江菜さんともまだまともにデートできてないし」


「雪からもデート誘われるかもな、その内」


「だろうね」


「…樹」


「何だ?」


僕は少し考えて、「何でもない」と話すのを止めました。理由は……まあ、単純に眠くなってきたので。


「おやすみ」


「もしかしてそれで止めたのか」


「うん」


「おいおい。じゃ、俺も自分のベッドで寝るわ。おやすみ」


樹は天井フロアにつなぐはしごを下りて行った。

こうして一日は終わりました。











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