第28話私の二つの提示(江菜視点)

登校二日目。

実乃鐘高校、正門の前まで蒿田に送ってもらいました。外に出るとやはり注目を作っておりまして、「皆様、おはようございます」と笑顔で挨拶を致しました。その後強張った面白い挨拶が返ってきました。


そのまま私は一年二組の教室へと向かいます。教室は三階、正面入り口突き当たりの階段を上がり右に曲がって所にあります。


私の席は入って三列目の前から四番目ですが、席には向かわず外窓側一番後ろへ足を運びました。その席の想い人は授業の準備をしております。


私の彼氏、春咲蓮地さんです。ですが、このお付き合いはまだ仮のようなもの。

理由は蓮地さんがご自身の恋愛に興味を持てないことにあります。私と蓮地さんはそれをどうにかしようと行動しています。

現状、中々、進展するような事は出来ておりません。色々ありまして。


実乃鐘高校に転校して今日でまだ二日目これからです。


「蓮地さん、おはようございます」


「江菜さん、おはようございます」


蓮地さんは授業準備に戻られました。

違いますよね!終わりですか?もっと他にありますでしょ。

昨日の遊園地は楽しかったですねや今日お昼はどうします?なんて事ありますよね。

それに心機一転したではないのですか。


「江菜おは、よう!!」


「きゃ!雪ですか。おはようご…おはよう」


「おはよう!」


栗色ロングヘアのポニーテールで可愛い少年顔をした女の子で、蓮地さんの幼馴染。

そして、蓮地さんに恋心を抱き、先日告白をした恋敵ですね。

それ以前に友達です。


「江菜今度は皆で最初から遊園地に行こ」


「そうですよね。その返しがあっても良いですよね」


私は敢えてジッと蓮地さんに視線を向けました。雪は「あー」と何か知っているようです。

一旦私は雪と蓮地さんから離れました。


「あの雪、蓮地さん」


「わかってるでも、昼休みでいい?」


「分かりました」


キーンコーンカーンコーン


「あ、席着こ」


「はい」



◇◇◇


昼休み。


何故、昼休みなのか疑問になりながらホームルーム終え、授業をし、休み時間になると蓮地さんは何処かに行かれました。

私は蓮地さんと学校では付き合っていることは暫く伏せておく事になっているので、大人しくしていましたが、後になって、友達設定で近付けば良かったと後悔しました。


そして、気付けば四限目でした。

あ、授業内容はしっかり聞いてましたよ。


次いで四限目終了直後雪が席から立ち上がり蓮地さんの方へ突撃の如き勢いで走って「確保ー!」と叫びながら蓮地さんを捕まえ、樹が足をもってハンモック状態で屋上にいきました。

私は見ているだけになりましたが、皆のお弁当を持って後に続いて屋上に向かいました。


「あの、屋上に強制連行された理由は…」


「蓮、彼女と勉強だったらどっちを、い・ち・ば・ん!大事にしたい?」


「それは彼女、かな……あ」


「うん。だったら、江菜を大事にしよ」


「……はい、すいません」


「あの、話がぼんやりとしか分からないのですが」


「いや、今のでぼんやりと分かるだけで凄いぞ江菜ちゃん」


何か必死に勉強する理由があり、休み時間になったあとも落ち着ける、それも確実に静かになる場所……図書室でしょうか。

図書室と仮定して、室内でその授業内容の復習と予習をしている。


「と、いったところですか?」


予想を説明すると皆、目を大きく開いて私を見て、そして、口を開きました。


「「「ぼんやりなのに、的を射すぎてて怖い」」」


私は苦笑いを返す事しか出来ませんでした。


「それで、蓮地さんは何のために?」


「今は、その、中間試験」


「中間試験まだ一ヶ月前ですよね」


「はい。でも僕、容量悪いので一ヶ月前からやらないと駄目なんです。でも楽しいですよ、解けたり理解出来た時とか。それに図書室だと色んな知識が溢れてるので集中力が切れたとき便利なんです」


そういう事でしたか。

真面目に頑張っている事、感心致します。

それにしても、勉強に負けるなんて……中々に面白く燃える展開ですね。


それならと、私は一緒の時間を過ごせるシンプルな案を提示しました。


「蓮地さん、勉強会をするというのはどうですか?勉強会でしたら教える人も教えられる人も理解が深まります。説明ができれば理解ができているという確認もできますから」


「…確かにシャドウでやるよりは実際に教える方が臨機応変に出来るから……」


相手がいることを想定してご自身の理解の確認。

蓮地さんならきっと……。


「どうしますか?」


「やりましょう、勉強会」


「蓮、私も参加する。江菜がもし、駄目って言っても行くから」


「思っても言いませんよ」


「思ってはいるんだね」


「当然です。友達と同時に雪は恋敵ライバルですから」


雪と私はお互いに睨み合います。

そこに樹さんが割って入って来られました。


「なあ、雪、部活はどうすんの?」


「……あ」


「それならお昼休みに図書室で行えばいいと思うよ。ここの図書室、お昼休み限定で一部スペース飲食可能だから」


雪は、ぱあっとキラキラした笑顔で真面目から蓮地さんに飛び付つくように抱きしめました。

この状況であれば…って


「離れてください」


「やぁだぁ。だって蓮、温かいもん」


「……背中失礼しますね」


ああ本当ですね。温かいのは当然ですが、片時も離してはいけないような。

もう少し密着度を、


「あ、江菜密着し過ぎじゃない?なら私も」


「それなら私も」


「あの、さ、二人とも密着しすぎて蓮地がKOしてる」


「「え?」」


蓮地さんの顔に視線を向けると顔を赤くして目を大きく見開いたまま固まっていました。


その後は反省の意も込めて大人しく皆で昼食を取りました。


それから残りの授業を行い。

放課後となり只今下校中です。


一週間前までの平日、休日は蓮地さんを独り占め。お昼休みを除いてが入りますが。


とはいえ蓮地さん自身の恋愛感情を芽生えさせるには雪の力も必要です。

そして、鈴菜ちゃんの力も。


一人でもやりますけどね。

私にとっても二人きりの時間は必要なので。


「蓮地さん、昨日遊園地に行かれましたが、お金の方は大丈夫なのですか?」


「聞かないでください」


「はい」


当然の解答ですね。

そういう時の為に提案できるものがあります。


「それでしたらデバッグのバイトやってみませんか?」


「デバッグってゲームのテストプレイをしてバグを見つける?」


「はい。もうすぐ新作ゲームのデバッグ作業をおこなっていくそうです」


「でも、リーフリンクみたいな所なら外部協力は必要ないんじゃ」


やはり、そうなりますよね。想定内シナリオ通りですけど。

なのでこのまま続けても問題ありませんね。


「蓮地さんが宜しければデバッグのバイトについての話は通せますが」


「それなら大丈夫です」


「え?」


「やってみたいですけど、それなら募集されてるところに行きますよ。まあ中々ないですが」


「その通りです。という訳でこちらを」


足を止めて蓮地さんに一枚の用紙を手渡しました。


「喫茶店のホールスタッフ募集?」


「はい。雪達と初めて会った喫茶店、つまり、今目の前にあるこの喫茶店です」


私は喫茶店を背景に蓮地に言いました。


「時給も良いですし賄いもあります。どうですか?」


「…やります。江菜さん、ありがとうございます」


「いえいえ。ではこれを」


私は先程とは別の一枚の用紙を手渡しました。


「江菜さん何で履歴書あるんですか?」


「作りました」


「いつ!?」


「ふふ、いつでしょう。さあ面接に行きましょう、面接のアポはとってありますから」


「いつの間に!?」


「いつでしょう」


そして、蓮地さんは無事喫茶店で働くことになりました。


◇◇◇


「行きましょう」


私は今、蓮地さんお金事情が厳しくなった状況を打開するために、蓮地さん達と駅で別れた後、実乃鐘高校近くの『Calm《カーム》』という喫茶店に訪れました。


カランカラン


「いらっしゃい、一名だね」


「はい」


出迎えてくれたのは60代くらいの白髪の老男性の方で、喫茶店の風貌に会った雰囲気と顔立ちをしております。


店内には一人だけウェイトレスの方が二人用のテーブル席の清掃をしております。

そこを空いている席は四人席が(ソファー、椅子含め)二席とカウンターテーブル席は二席だけ。ちなみにカウンターはL字です。


四人用、二人用テーブル席、カウンター席各六席用意されており、殆どが埋まっている状態ですね。


「好きな席で良いからね」


「ありがとうございます。では、カウンターに」


私は店内からの視線を受けながら、入り口直ぐの端の席に座りました。


用件だけを済まして、何も頼まないというのは失礼なので、私はコロンビアをブラックで頼みました。


「コロンビアです」


「ありがとうございます。いただきます」


「そういえばお嬢さんは一週間前くらいに一度来てくれたね」


「……はい。まさか覚えていただいていたなんて」


「ははは。全てとは言わないけどお客様の顔は覚えるようにしていてね。それに楽しそうな四人組だったからね」


「そうなんですね。あのマスターさん、突然なのですがバイトの募集はやっておりますか?」


「ええ、やってますよ。希望ですか?」


「いえ、予定と言いますか。バイトを探している方がおりまして」


※蓮地さん本人からは聞いてません。


私はマスターさんに今日伺った理由を話しました。蓮地さんのこと、あの時の話が耳に入っていたらしくて交際していることも知られていましたので説明の手間が大きく省けました。複雑な気持ちですが。


「なるほど、良い女性を恋人に持ったのですね。とはいえ、合否は面接次第となるのは了承してください」


「ありがとうございます。では、明日二人で伺わせていただきます。学校終わりですので3時過ぎかと」


後は帰って履歴書を作るだけですね。


私は代金を支払い、店を出て自宅に戻りました。


本当は蓮地さんはバイトなんて必要ない。


「蓮地さんには……いえ」


とにかく履歴書を作りましょう。

ちなみにどう作るかは秘密です。

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