第16話 電車内宣言

現在、雪と樹さんと駅前で合流し本日の花見会場の公園前の駅へと向かう為の切符を皆さんと一緒に購入しました。


自身で言うのもなんですが歓喜で心を浮かれさせながら改札口を通りホームに着くと既に目的の駅に向かう四両編成の電車が到着しておりました。

急いで乗車して座席に腰を着ける事が出来たのは幸運でした。

座っている位置は先頭車両の窓側から雪、樹さんで向かい側に鈴奈さんそして江菜わたくしという位置になっております。

これで蓮地さんとご一緒なら。


数十分前


少し肌寒い気温と春の朝の薄暗い外で鈴奈さんと先に蓮地さん達を玄関前で待っていたところでした。


「お兄ちゃん達遅いなぁ」


「そうですね」


蓮地さんと水樹さんが出て来た直後でした。


「ごめんなさい、一緒に行けなくなりました」


「「え?」」


理由も分からないまま蓮地さんからの突然の謝罪によって数秒虚ろな状態になり、ハッと意識を取り戻した後にその理由を説明してくれました。


話の内容を説明させていただきますと12月に誕生日を迎えた蓮地さんは普通自動二輪の免許を取得はなされたそうです。

水樹さんが取得祝いとしてバイクを買おうとなされたらしいのですが蓮地さんが何故か水樹さんが昔現役の頃に乗っていた物を指名したそうです。


そして、今日の花見会場の公園までは長距離。

二人乗りができればとは思ってはいます。しかし、道路交通法によりそれはまだ出来きません。

いつか乗せていただきたいです。

ワクワクです。


そして慣れる為に本日の予定を使わない手はないと水樹さんが提案したそうです。

もう一つ方法はあると思います。

私の家に通えば別に問題ないと思うのです。


説明が終わって直水樹さんが念入りに謝罪をなさった時、やはり親子なのだと感じました。

水樹さんは季吹さんに準備をさせてから向かわれるとのことなので電車では私と鈴奈さん、雪、樹の四人で向かうことになりました。

鈴奈さんは拗ねた表情をしながらも一応納得なされました。

私も蓮地さんと一緒に電車に乗りたかったです。

しかし、一緒に乗る機会はいつでもあります。


「鈴、江菜さん駅前までは一緒に行くので埋め合わせはいつか精神的に」


「分かりました。そのお礼は利子でという事で宜しいですね」

「早めに返すことを心掛けます」


そこは善処しても宜しいと思うのですけど仕方ありません。楽しみにしておきましょう。


「それじゃあ、母さん後で」

「はいよ」



駅へと向かおうとした時です。隣の家からいつものポニーテールに纏められた栗色の長い髪はタートルネックのニットにラップスカート、黒タイツというコーデに合わせるようにおろされていました。

この服装は前に蓮地さん、雪、ここにいない樹さん、そして私を含めた四人でモールへ行った際に購入された服でした。前はポニーテールで色っぽさのあるものでしたが、今は髪をおろしている事により大人感を漂わせていつもの雪とは違いました。


「おはよう蓮、鈴奈ちゃん。江菜も」

元気な挨拶を交わされますとすぐに蓮地さんのバイクへ視線を向け疑問の表情を抱きましたのですぐに事情を話しました。


「えぇぇ!そんなのいつでも良いでしょ!?」


「そうだけど、あまり遠出もしないから。本当にごめん」


「むむむ。じゃあ、乗せろ」


「二人乗りはまだ無理だよ。それに乗せるなら江菜さんが先じゃない」


「そうだよね…ごめん」


「いや、今のは僕が悪い」


一番最初は私なのは大変喜ばしいことです。ですが、先程のは私も同情せざる終えません。


気まずい雰囲気で駅方面へ徒歩十分。

先に待っていた樹さんと合流して最初にバイクに目を引かれその事情を説明した後に蓮地さんと雪の事を説明とすると溜息をつかれた後は只見ているだけでした。

すると


「雪、ごめん。酷いこと言った」


「う、うん私も我が儘言ってごめんね」


一応仲直りできたようで何よりです。


「仲直りできたならさっさと行け蓮地電車より混むだろ」


「あ、うん。……雪」


「何?」


再び合流した後に言えるか不安に思いながら蓮地さんは雪の服に何度か視線を向け数秒程迷って口を開きました。


「やっぱりその服似合ってるよ」


「……ありがとう」



頬を仄かに顔を赤くして内心嬉しく思っている筈の雪が着ている服装。

タートルネックのニットにタイプスカート。

ショッピングモールで蓮地さんが一番褒めていたというコーデでした。

雪の表情と反応の複雑さに蓮地さんは困った表情を私に向けてこられました。


もう少し粘って欲しいと思いますが、こちらも電車の時間もあるので仕方ありません。


蓮地さんと別れた後、駅の方へ向かおうと足を踏み出そうとして踵を返した時でした。

今度は先程まで普通にしていらした鈴奈さんが白く燃え尽きたように同じ言葉を繰り返しながら呆然と立たれていました。

我慢して要らしたんですね。

鈴奈さん、大分ブラコンを拗らせているようです。

応急措置になったか定かではありませんが目的地で合流すれば会える事を言い聞かせて何とか駅に向かえる状態にはなりました。


「雪。大丈夫ですか?」


「大丈夫!さっ私達は蓮より先に到着しよ」


現在


民家の間や高層ビルの壁を通り過ぎた瞬間に見えた景色。

昇り始めた太陽の日射しがきらきらと海で輝き、広がる水平線の続く海の景色に暫く目移りながら目的地に向かっている途中なのです。


「はあ。お兄ちゃんまだかなぁ」


多少元気を取り戻した鈴奈さんだったのですが、今度は黄昏れるように海を眺め、上の空で同じ言葉を繰り返すようになりました。

それも目的地に近づいていくにつれて落ち着いてはいるのです。しかし、あと一歩というところですね。

というわけで一本の電話を繋げます。


『はい、春咲です』


「もしもし、蓮地さん。私です」


『江菜さん?声小さくないですか?』


蓮地さんがいなくて鈴奈さんが落ち込んでいることを短く伝えました。

それを聞くと蓮地さんは苦笑していました。鈴奈さんに元気を出してもらうためにはこれが一番ですので。


『分かりました。それじゃあ鈴の耳にスマホを当ててもらっていいですか?』


「はい。鈴奈さん」


「何ですか」


『もしもし、鈴』


「お兄ちゃん!」


暫くして鈴奈さんは満面の笑みを浮かべる程に元気を取り戻しました。


「ありがとうございます」


「いえ」


また一方で電車に乗ってから


「蓮がまた……また…えへへへ」


別れ際に服装を褒められた雪は乗車から暫くして表情は蓮地さんに褒められた事を頬を赤くして思い惚けているのです。

そんな状態の雪で言わずにはいられなくなり私は言ってしまいました。


「雪は本当に蓮地さんに好意を抱いているのですね」


「……え、あはは。そっか、やっぱり気付いてたんだ」


気づかないという方が無理ですよ。

惚け緩んでいた表情を元に戻した雪は薄々私が気付いていることに感付いていたようです。

まあ、あれだけ照れ隠しもしないほどに照れていれば誰でも分かりますよね。


「それでいつからですか?」


「気持ちに気づいたのは小学四年生くらい。だけどもっと前に好きになってる」


薄々理解してようやく確信となって知ったのは六年以上募らせながらずっと気持ちを隠すか、抑えるかをしてこられた雪の気持ちを聞き目を丸くしました。

どちらにしても辛かった筈です。


蓮地さんに恋愛感情が無いという事を知った事で思いを告げる事を余儀無く閉ざされたのですから。


「このようなことしか言えないのが苦ですが。雪は辛くなかったのですか?」


笑ったり、楽しんだりする幸せな気持ちは我慢し積み重ねていくと辛くなっていくのです。

我慢しなければならず、消さなければならない状況でも好きな気持ちは消え去ることなく募って辛くなってしまった筈です。

なのに雪は短い中で私の知る間そして今も笑っていました。

それも本当の気持ちだから。


「辛かった時期はあったよ。けど蓮といる時間が幸せってはっきり言えるから」


「そうですか。良かったです」


「便乗する形になるけど、今日告白するつもり。江菜なら分かるよね」


私は蓮地さんの事を思い浮かべながら自分の気持ちを確かめ「はい」と一言添えて言葉を返しました。

蓮地さんならこういう時どうアドバイスしていたのかを思案して。


「…雪、私は見守るだけに致します」


雪は目を丸くした後ニコッと私に微笑みかけました。


「……ありがとう。じゃあね、悪い結果になっても恨まないで」


「勿論です」


その時、ふと視線に入ったのは笑顔を返している雪がスカートを強く握っているところでした。

いきなりプロポーズをした私が言える事では無いかもしれません。

ですが、告白もそのあとの結果にしても怖いものです。


「言葉を挟むようですいませんが、元からお兄ちゃんは私のです。今回の告白は許しますけど」


聞くのに堪えかねて鈴奈さんが改めて『私のお兄ちゃん』宣言をしました。

それに反撃するように雪が続いて口を開きました。


「残念だけど鈴奈ちゃんは妹止まりだよ」


「……雪さんそれは禁句ですよ。後で覚えておいてください」


流石に私はあれを真正面から言えないですね。

鈴奈が会話に入ってきたことでスカートを握っていた手が緩んでいました。


「兄妹ですね」


「らしくないのが嫌なだけです」


蓮地さん、貴方は必ず雪の気持ちを知れば深く考え、迷うでしょう。

ですが心配はしておりません。今の蓮地さんなら気持ちを受け止めることができる事を信じてますので。

負けるつもりもありませんから。


少し急展開過ぎる状況から先を考えるとこういう考えもありでしょうか?

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